日本主導で起こりうる次のイノベーション【第3回】~機械部門技術士が予測する、3年以内の技術パラダイム転換~

New

日本主導で起こりうる次のイノベーション【第3回】~機械部門技術士が予測する、3年以内の技術パラダイム転換~

【目次】

    前回までに見てきたように、日本主導のイノベーションの兆しは、新技術の誕生ではなく、「技術をどう捉え、どう使うか」という設計思想と構造の転換として、すでに現場で始まっている。そして最終回となる本稿では、その変化を現実のものにする“担い手”、すなわち 機械技術者、特に機械部門技術士の役割に焦点を当てる。次の3年で問われるのは、「何が作れるか」ではない。「どこまで構造を理解し、責任を持てるか」である。

     

    関連解説記事 日本主導で起こりうる次のイノベーション【第1回】~機械部門技術士が予測する、3年以内の技術パラダイム転換~

    ◆ 関連解説記事 日本主導で起こりうる次のイノベーション【第2回】~装置・工程・人を再統合する設計思想~

     

     1.技術が高度化するほど「人の価値」は上がる

    AI・自動化・デジタルツイン・スマートファクトリー、これらの技術は今後さらに普及していくだろう。しかし皮肉なことに、技術が高度化するほど、現場では次のような声が増えている。

    • 仕組みが複雑すぎて、全体像が分からない
    • 異常時に、誰が判断すべきか曖昧
    • 正常時は良いが、トラブル時に脆い


    これは技術力の不足ではない。「考える主体」が設計から抜け落ちていることが問題なのである。これからの製造業では、すべてを自動化・最適化することよりも、人が理解できる構造か、判断が引き継がれる設計か、想定外に耐える余白があるか、といった、人を中心に据えた設計が価値を持つ。この領域こそ、日本の機械技術者が最も強みを発揮してきた分野である。

     

     2.「部分最適の専門家」から「構造を描ける技術者」へ

    従来の技術者評価は、「この分野に詳しい」「この装置を設計できる」といった専門特化型のスキルが中心だった。だが、システムが複雑化した現在、それだけでは不十分になりつつある。これから求められるのは、装置単体ではなく、工程全体を見る力、数値だけでなく、現場の挙動を読む感覚、図面の外側にある運用・保全・人の動きを想像する力、つまり、構造を描ける技術者である。

     

    機械部門技術士が本来担うべき価値は、「答えを出す人」ではなく、「問いの立て方を間違えない人」にある。

    • 何を自動化し、何を人に残すのか。
    • どこに冗長性を持たせ、どこを割り切るのか

     

    その判断ができるかどうかが、これからの技術者の評価軸になる。

     

     3.日本主導イノベーションの本当の担い手

    日本主導のイノベーションは、巨大IT企業や国家プロジェクトだけが生むものではない。むしろ、その多くは、地方の工場、中堅・中小企業、装置メーカーや生産技術部門といった、現場に近い場所から生まれる。なぜなら、そこには「動かし続ける責任」があるからだ。止まれば困る。壊れれば自分たちが呼ばれる。だからこそ、無理な理想論を描かない、人のミスを前提にする、現実的な落としどころを知っている。この感覚こそが、次の時代のイノベーションの源泉となる。日本の機械技術者は、すでにその土壌の中にいる。

     

     4.3年後、評価される技術者の姿

    3年後、評価される技術者像は、おそらく次のような人物だろう。

    • 最新技術を語れる人ではなく、技術の限界とリスクを語れる人
    • 仕様を守る人ではなく、仕様が破綻する瞬間を想像できる人
    • 正解を提示する人ではなく、現場が考え続けられる余地を残せる人


    これは特別な才能の話ではない。長年、日本の現場で培われてきたごく当たり前の技術者の姿である。世界がようやく、その価値に気づき始めただけなのだ。

     

    日本主導で起こりうる次のイノベーション【第3回】~機械部門技術士が予測する、3年以内の技術パラダイム転換~

     

     おわりに|静かな主導権移動の時代へ

     構造を理解し、人と機械の関係を描く、その静かな積み重ねが、次の主導権を形づくっていく。日本主導のイノベーションは、派手なスローガンとともに始まるわけではない。気づいたときには「なぜか日本のやり方が基準になっている」そんな形で進んでいく可能性が高い。

     

    その中心にいるのは、現場を知り、構造を考え、人と機械の関係を描ける技術者たちである。本連載で述べた内容は、あくまで筆者個人の予測と見解に過ぎない。しかし一つだけ確信していることがある。

     

    次の時代を動かすのは、最先端の技術ではなく、技術と現実をつなぐ「考え方」だ。そしてその考え方は、すでに日本の現場に存在している。

    「設計から現場へ、図面に込められた“見えない配慮”は、人と現場を静かに支え続ける」

     

    日本主導で起こりうる次のイノベーション【第3回】~機械部門技術士が予測する、3年以内の技術パラダイム転換~

     

    【巻末コラム】~設計者へのメッセージ~

    設計とは、未来の現場への手紙である。設計という仕事は、完成した瞬間に終わるものではない。むしろそこからが本当の始まりだ。図面は現場に渡り、製品は人の手に委ねられ、想定通りに使われることもあれば、想定外の状況に置かれることもある。そのとき、設計者はもうそこにいない。それでも製品は、黙って振る舞い続ける。だから設計とは「未来の現場に向けて書いた、無言の手紙」なのだと思う。

    • この形状なら、現場は迷わないだろうか
    • この寸法なら、加工で無理をさせていないだろうか
    • この余裕は、人の判断ミスを救ってくれるだろうか


    それら一つひとつが、「私はここまで考えた」という設計者の意思表示である。品質とは、完璧さではない。人が間違えること、現場が揺らぐこと、環境が変わることを最初から受け入れたうえで、それでも破綻しない構えをつくることだ。


    本連載で繰り返し伝えてきたのは、高度な理論でも、最新のツールでもない。「人が使う」という前提に、設計がどこまで向き合えているか、という一点である。


    設計者の仕事は、見えない誰かを守ることでもある。現場で判断に迷う人を、夜中にトラブル対応をする人を、そして次の世代の設計者を!


    この連載が、あなたの次の一本の線、次の一言の注記、次の判断にほんの少しでも影響を与えたなら、それはもう十分に“良い設計”の始まりだ。

     

    連載記事紹介:ものづくりドットコムの人気連載記事をまとめたページはこちら!

     

    【ものづくり セミナーサーチ】 セミナー紹介:国内最大級のセミナー掲載数 〈ものづくりセミナーサーチ〉 はこちら!

     


    この記事の著者

    森内 眞

    ものづくりにおいて解決できない課題はありません。真摯に課題に取り組むことで必ず解決の糸口は見えてきます。 技術士としての専門知識、技術、経験、独自のネットワークを用いてお客様の課題解決に貢献いたします。

    ものづくりにおいて解決できない課題はありません。真摯に課題に取り組むことで必ず解決の糸口は見えてきます。 技術士としての専門知識、技術、経験、独自のネット...


    「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

    もっと見る
    価値を生み出す新製品開発とは

      【目次】 1. 価値を生み出す新製品開発 2. 開発者の1日 3. 開発作業時間を3つのカテゴリーに分類   1....

      【目次】 1. 価値を生み出す新製品開発 2. 開発者の1日 3. 開発作業時間を3つのカテゴリーに分類   1....


    製品設計における「正の思考」と「負の思考」のバランスの重要性

    1.製品設計における思考バランス                                            図1 「正の思考」と「負...

    1.製品設計における思考バランス                                            図1 「正の思考」と「負...


    普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その166) 体感を活用して思考の扉を増やす

      【目次】 【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その165)へのリンク】 ◆連載記事紹介...

      【目次】 【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その165)へのリンク】 ◆連載記事紹介...


    「技術マネジメント総合」の活用事例

    もっと見る
    開発部門の管理職が学ぶべきこととは

      今回は、新任の開発課長が学ぶべきこと、課長就任前に3週間で準備をすべきこと、さらには課長就任後に取り組むべきことについて解説します。 &...

      今回は、新任の開発課長が学ぶべきこと、課長就任前に3週間で準備をすべきこと、さらには課長就任後に取り組むべきことについて解説します。 &...


    擦り合わせ型開発と組み合わせ型開発とは

       「擦り合わせ型開発」という言葉や考え方は、東京大学の藤本隆宏教授が著書「能力構築競争」(中公新書)などで示したものです。マスコミなどでは...

       「擦り合わせ型開発」という言葉や考え方は、東京大学の藤本隆宏教授が著書「能力構築競争」(中公新書)などで示したものです。マスコミなどでは...


    海外と積極コミュニケートを!

     ものづくりの世界において、大企業の製品はもちろんのこと、海外Makersの新製品情報も早々に目に入ってくるようになりました。KickStarter等のク...

     ものづくりの世界において、大企業の製品はもちろんのこと、海外Makersの新製品情報も早々に目に入ってくるようになりました。KickStarter等のク...