SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

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  SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

 

◆ SEM像のピント合わせ

SEM観察において鮮明で良いSEM像を得るために設定する項目が多々あります。それを下表に示します。

表. SEM観察の設定項目

SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

 

(1)加速電圧

加速電圧とは電子銃の陰極(フィラメント)と陽極にかけられた電圧です。通常5~20kV程度にて設定することが多いです。試料観察やEDS分析などにおける電子線のエネルギーでもあります。加速電圧が高いほど分解能が上がります。しかし加速電圧を上げすぎると電子線が試料内部まで侵入してしまい、表面の情報が読み取りづらくなってしまいます。また試料へのダメージも大きくなるため、注意が必要です。また、EDSなどで元素を分析する時は加速電圧を高めに設定します。

 

(2)WD

WD(Working Distance:作動距離)は対物レンズから試料までの距離です。通常10mm程度にすることが多いです。WDを短くするほど分解能が上がりますが、焦点深度は低下します。逆にWDを長くすると分解能は下がりますが、焦点深度は深くなります。また、WDを短くすると対物レンズとの距離が狭くなるため、試料ステージの可動域などが制約されるほか、対物レンズと試料の衝突のリスクも発生します。

 

(3)走査速度

SEM観察した試料を撮影する時には、走査速度を遅くして鮮明なSEM像を記録します。一方、試料全体を確認する時に走査速度を遅くすると、試料の移動とモニターの変化が追い付かず作業効率が悪くなります。SEM像を記録する時以外は走査速度を速めにして、多少SEM像が粗くても試料を確認できる程度の走査速度にするのがよいです。

 

(4)スポットサイズ

電子線のスポットサイズは小さいほど分解能が上がりますが、スポットサイズを小さくしすぎるとノイズが大きくなりSEM像が不鮮明になります。反対にスポットサイズを大きくすると分解能が下がりますが、SEM像が鮮明になります。走査速度を遅くするとスポットサイズを小さくしてもSEM像を観察できますが、限度があります。1万倍などの高倍率でない限りスポットサイズを小さくしすぎない方が良いです。

 

(5) フォーカス

SEMで鮮明な画像を得るためにフォーカス合わせを行いますが、SEM像の焦点を合わせるためには「フォーカス」だけでなく「非点収差補正(スティグマ)」などの複数種類があります。フォーカスはぼやけた画像を鮮明にすることです。これは対物レンズの焦点の位置を調整して行います。フォーカスを調整することでWDの値も変わってきます。フォーカス(WDの値)と試料の物理的なステージ位置が一致するとピントが合います。

 

(6) 非点収差補正(スティグマ)

非点収差補正はスティグマとも呼ばれます。非点収差とは電子線のx軸とy軸の焦点が異なる位置にあって像がぼやける状態であり、人間の眼に例えると乱視の状態です。この状態を補正して電子線を球状に調整することを非点収差補正と言います。このため、SEMにはx軸、y軸それぞれ非点収差補正が必要です。非点収差がずれていると、円状の試料が楕円状に見えます。非点収差補正することでピントが合い、試料が真円状に見えるようになります。低倍では非点収差のズレはあまりわかりませんが、倍率5,000~1万倍程度になると非点収差のずれがSEM像のずれとして見られるようになってきます。スティグマ調整の電子線イメージを下図に示します。中心の円が正しく補正されている状態であり、そこから離れるにつれて楕円状にゆがんでいきます。

 

SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

図. スティグマ調整の電子線イメージ図

 

(7) ウォブラ

ウォブラ・軸調整(アライメントという時もあります)は、コンデンサレンズ...

 
  SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

 

◆ SEM像のピント合わせ

SEM観察において鮮明で良いSEM像を得るために設定する項目が多々あります。それを下表に示します。

表. SEM観察の設定項目

SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

 

(1)加速電圧

加速電圧とは電子銃の陰極(フィラメント)と陽極にかけられた電圧です。通常5~20kV程度にて設定することが多いです。試料観察やEDS分析などにおける電子線のエネルギーでもあります。加速電圧が高いほど分解能が上がります。しかし加速電圧を上げすぎると電子線が試料内部まで侵入してしまい、表面の情報が読み取りづらくなってしまいます。また試料へのダメージも大きくなるため、注意が必要です。また、EDSなどで元素を分析する時は加速電圧を高めに設定します。

 

(2)WD

WD(Working Distance:作動距離)は対物レンズから試料までの距離です。通常10mm程度にすることが多いです。WDを短くするほど分解能が上がりますが、焦点深度は低下します。逆にWDを長くすると分解能は下がりますが、焦点深度は深くなります。また、WDを短くすると対物レンズとの距離が狭くなるため、試料ステージの可動域などが制約されるほか、対物レンズと試料の衝突のリスクも発生します。

 

(3)走査速度

SEM観察した試料を撮影する時には、走査速度を遅くして鮮明なSEM像を記録します。一方、試料全体を確認する時に走査速度を遅くすると、試料の移動とモニターの変化が追い付かず作業効率が悪くなります。SEM像を記録する時以外は走査速度を速めにして、多少SEM像が粗くても試料を確認できる程度の走査速度にするのがよいです。

 

(4)スポットサイズ

電子線のスポットサイズは小さいほど分解能が上がりますが、スポットサイズを小さくしすぎるとノイズが大きくなりSEM像が不鮮明になります。反対にスポットサイズを大きくすると分解能が下がりますが、SEM像が鮮明になります。走査速度を遅くするとスポットサイズを小さくしてもSEM像を観察できますが、限度があります。1万倍などの高倍率でない限りスポットサイズを小さくしすぎない方が良いです。

 

(5) フォーカス

SEMで鮮明な画像を得るためにフォーカス合わせを行いますが、SEM像の焦点を合わせるためには「フォーカス」だけでなく「非点収差補正(スティグマ)」などの複数種類があります。フォーカスはぼやけた画像を鮮明にすることです。これは対物レンズの焦点の位置を調整して行います。フォーカスを調整することでWDの値も変わってきます。フォーカス(WDの値)と試料の物理的なステージ位置が一致するとピントが合います。

 

(6) 非点収差補正(スティグマ)

非点収差補正はスティグマとも呼ばれます。非点収差とは電子線のx軸とy軸の焦点が異なる位置にあって像がぼやける状態であり、人間の眼に例えると乱視の状態です。この状態を補正して電子線を球状に調整することを非点収差補正と言います。このため、SEMにはx軸、y軸それぞれ非点収差補正が必要です。非点収差がずれていると、円状の試料が楕円状に見えます。非点収差補正することでピントが合い、試料が真円状に見えるようになります。低倍では非点収差のズレはあまりわかりませんが、倍率5,000~1万倍程度になると非点収差のずれがSEM像のずれとして見られるようになってきます。スティグマ調整の電子線イメージを下図に示します。中心の円が正しく補正されている状態であり、そこから離れるにつれて楕円状にゆがんでいきます。

 

SEM像のピント合わせ:金属材料基礎講座(その123)

図. スティグマ調整の電子線イメージ図

 

(7) ウォブラ

ウォブラ・軸調整(アライメントという時もあります)は、コンデンサレンズや対物レンズの光軸に電子線を合わせることです。ウォブラもスティグマのようにx軸、y軸を調整して調整を行う。

 

(8) 絞り

絞りは日々の観察において調整することは少なく、業者のメンテナンスなどの時に設定する値を使用することが多いです。

 

次回に続きます。

関連解説記事:マランゴニ対流~宇宙でもきれいに混ざらない合金の不思議 

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この記事の著者

福﨑 昌宏

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

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