磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

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磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

 

磁性体には応用先が色々あり、日常生活には欠かせません。なぜ物質によって磁気を帯びたりするのか。磁気とは何なのか。今回は、磁性体に焦点を当てて、その種類・原理について、具体例をまじえて解説します。

【目次】

    1. 磁性体とは

    その材質に外部から磁界をかけたとき、材質内部が強く磁化する、つまり強く磁気を帯びるとき、その材質を強磁性体と呼びます。そして外部磁界を取り除いても磁化が多く残るものを硬磁性体と呼びます。磁石は硬磁性体といえます。また外部磁界を取り除いたらほとんど磁化が残らないものを軟磁性体と呼びます。鉄やニッケルなどは軟磁性体です。

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

    一方、外部磁界をかけた時にごく弱く磁化するものがあり、それを常磁性体と呼びます。空気やアルミなどは常磁性体です。また、外部磁界をかけたときにわずかですが反対方向に磁化するものがあります。それは反磁性体と呼びます。水、銅、亜鉛がそうです。

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

    では、なぜ物質によって磁気を帯びたりするのでしょうか。磁気とは何なのでしょうか。

     

    2. 磁気とは

    磁気とは磁石に吸いよせられたり、反発したり、磁界中で力を受けたりすることを言いますし、磁界とはそういう力を与えるポテンシャルを言います。では磁気の源は何でしょうか。磁気の源は電子のスピンです。スピンには原子核の周りを回る公転と自分が回る自転がありますが、自転が支配的です。 たくさんある電子スピンの向きが偏っていると磁気を帯びますし。偏ってないと帯びないということになります。

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

    3. 強磁性体の金属の種類

    強磁性体の金属の種類としては、コバルト、ニッケル、鉄があります。これらは、外部磁場を除去後も磁化状態を保持します。この特徴が永久磁石や記録メディアなどの応用に利用されています。コバルトは、鉄よりも高温度で磁性を保持します。これは、特定の合金や磁石に使われます。ニッケルも、特定の磁性合金の成分として利用されますが、鉄やコバルトほどの磁化強度を持ちません。

     

    鉄はよく知られた強磁性体で、その強い磁化能力は様々に利用されています。電気モーターのコア材料、データストレージデバイスの磁性材料などです。これらの素材は、異なる特性から、用途に応じて選択されて、電気電子技術・機械技術などの多くの分野において基礎技術となっています。

     

    (1) コバルト

    コバルトは白銀色をした金属です。コバルトは鉄よりも酸やアルカリに強く、粉末では表面は酸化被膜を作ります。硬質合金の素材で、KS磁石鋼(磁性のある特殊な鋼)を製造に用いられます。顔料としては、発色は緑がかった鮮やかな青で、この色はコバルトブルーと呼ばれます。単体で用いることは多くありませんが、メッキとして利用されることがあります。

     

    (2) ニッケル 

    銀白色のニッケルは強磁性をもった金属で、錆びにくい特徴があります。メッキに多く使用されるほか、日本硬貨50円・100円・500円玉は、ニッケルを含みます。メッキ状態でも磁石につく強い磁性があります。ネオジム磁石の防錆メッキとして重要な役割をしています。ニッケルが単独で用いられることは少ないのですが、素材の一部として使われます。また、さまざまな合金をつくることも可能です。

     

    (3) 鉄

    鉄は、安価に入手できるため、磁石素材としてよく使われています。鉄もニッケル同様で、軟磁性体です。純鉄は磁石を離せば、すぐにその性質を失いますが、他の原子が含まれていると、離したあともわずかですが磁化した状態が続きます。磁石としては、酸化鉄を用いるか、他と混ぜ合わせてつくられます。現在流通している多くの磁石には鉄が用いられています。

     

    4. 強磁性体になるわけ

    ⑴ 原子の構造と電子の収容ルール

    原子には原子核とその周囲を回転運動する電子からなることはご存じと思います。個々の電子はルールによって軌道配置されており、決められた軌道内を運動します。また各軌道は殻(カク)とよばれる軌道の収容場のようなものに収容されています。

     

    そもそも原子核の周りには原子番号が増えるに従い、K殻、L殻、M殻、N殻・・・が配置されています。そしてK殻にはS軌道が一つ存在できます。S軌道には電子2つまで入ることができますので。K殻1つでHとHeに対応できます。原子番号3になりますと、K殻にはもう電子が入りませんのでL殻ができ、L殻に入っていきます。L殻には電子が2つまで入庫できるS軌道に加えp軌道というものが加わります。p軌道は3つの直交する軌道からなり各軌道には電子2個入庫できますので、最大3×2=6個の電子が入庫できるということになります。

     

    先ほど言いましたK殻のS軌道は1番目なので1S軌道といい、L殻のS軌道は2S軌道、p軌道は2p軌道ということになっています。ですからK殻+L殻で電子は2+(2+3×2)=10個収容できます。原子番号10のNeまでですね。

     

    さらに原子番号は増えると次はM殻に入っていきます。M殻には電子2個の3S軌道、電子3×2個の3p軌道、に加え3d軌道を持っています。d軌道には5つの軌道があり各軌道には電子2個入庫できますので5×2=10個入庫できます。M殻には2+(3×2)+(5×2)=18個の電子が収容できることになります。M殻のそとにはさらにN殻が配置されます。

     

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

     

    【電子殻への電子配置】

    通常は原子番号の順にエネルギー順位の低い殻の内側から順序よく埋まっていき、電子は逆向きのスピンがペアになるよう入っていくので、磁気モーメントは小さい。

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

    ⑵ ルール破りな遷移金属

    M殻の3p軌道がいっぱいになったら3d軌道にいくかと思いきや、エネルギー順位はわずかにN殻の4s軌道のほうが小さいため、3d軌道ではなく4s軌道に電子は埋まっていきます。そのあと3d軌道に電子が入っていきます。

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

    今までは電子スピンは正方向が来たら次は負方向と順番にバランスよく軌道に埋まっていきましたが、21Scからはそうはいきません。21番から25番までは5つの軌道に同じスピンの方向でどんどん入ってきます。それから26番から30番まで反対向きの電子が入ってくる。ということです。つまり21番から29番のところが非常にスピンモーメントがアンバランスな形になります。それを遷移金属と呼びまして同じような性質を持っています。このうち26Fe、27Co、28Niなどが強磁性の性質を持ちます。

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

     

    5. 強磁性体を活用して強力な磁石を作る理由

     

    ◆ 強磁性体を使って、強力な磁石を作るために必要なもの

    【合金磁石】

    現在流通している強磁性体は、種々の原料を組み合わせて製造されています。金属単体の強磁性体では強力磁石をつくることができません。種類が違う金属同士を組み合わせると合金磁石になります。鉄クロムコバルト磁石、アルニコ磁石が合金磁石として良く知られています。これらの合金磁石は、フェライト磁石(酸化鉄のみでつくられた物)と比べると、高い磁力をもっています。また使用環境の温度に対して磁力が安定し...

    磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

     

    磁性体には応用先が色々あり、日常生活には欠かせません。なぜ物質によって磁気を帯びたりするのか。磁気とは何なのか。今回は、磁性体に焦点を当てて、その種類・原理について、具体例をまじえて解説します。

    【目次】

      1. 磁性体とは

      その材質に外部から磁界をかけたとき、材質内部が強く磁化する、つまり強く磁気を帯びるとき、その材質を強磁性体と呼びます。そして外部磁界を取り除いても磁化が多く残るものを硬磁性体と呼びます。磁石は硬磁性体といえます。また外部磁界を取り除いたらほとんど磁化が残らないものを軟磁性体と呼びます。鉄やニッケルなどは軟磁性体です。

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

      一方、外部磁界をかけた時にごく弱く磁化するものがあり、それを常磁性体と呼びます。空気やアルミなどは常磁性体です。また、外部磁界をかけたときにわずかですが反対方向に磁化するものがあります。それは反磁性体と呼びます。水、銅、亜鉛がそうです。

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

      では、なぜ物質によって磁気を帯びたりするのでしょうか。磁気とは何なのでしょうか。

       

      2. 磁気とは

      磁気とは磁石に吸いよせられたり、反発したり、磁界中で力を受けたりすることを言いますし、磁界とはそういう力を与えるポテンシャルを言います。では磁気の源は何でしょうか。磁気の源は電子のスピンです。スピンには原子核の周りを回る公転と自分が回る自転がありますが、自転が支配的です。 たくさんある電子スピンの向きが偏っていると磁気を帯びますし。偏ってないと帯びないということになります。

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

      3. 強磁性体の金属の種類

      強磁性体の金属の種類としては、コバルト、ニッケル、鉄があります。これらは、外部磁場を除去後も磁化状態を保持します。この特徴が永久磁石や記録メディアなどの応用に利用されています。コバルトは、鉄よりも高温度で磁性を保持します。これは、特定の合金や磁石に使われます。ニッケルも、特定の磁性合金の成分として利用されますが、鉄やコバルトほどの磁化強度を持ちません。

       

      鉄はよく知られた強磁性体で、その強い磁化能力は様々に利用されています。電気モーターのコア材料、データストレージデバイスの磁性材料などです。これらの素材は、異なる特性から、用途に応じて選択されて、電気電子技術・機械技術などの多くの分野において基礎技術となっています。

       

      (1) コバルト

      コバルトは白銀色をした金属です。コバルトは鉄よりも酸やアルカリに強く、粉末では表面は酸化被膜を作ります。硬質合金の素材で、KS磁石鋼(磁性のある特殊な鋼)を製造に用いられます。顔料としては、発色は緑がかった鮮やかな青で、この色はコバルトブルーと呼ばれます。単体で用いることは多くありませんが、メッキとして利用されることがあります。

       

      (2) ニッケル 

      銀白色のニッケルは強磁性をもった金属で、錆びにくい特徴があります。メッキに多く使用されるほか、日本硬貨50円・100円・500円玉は、ニッケルを含みます。メッキ状態でも磁石につく強い磁性があります。ネオジム磁石の防錆メッキとして重要な役割をしています。ニッケルが単独で用いられることは少ないのですが、素材の一部として使われます。また、さまざまな合金をつくることも可能です。

       

      (3) 鉄

      鉄は、安価に入手できるため、磁石素材としてよく使われています。鉄もニッケル同様で、軟磁性体です。純鉄は磁石を離せば、すぐにその性質を失いますが、他の原子が含まれていると、離したあともわずかですが磁化した状態が続きます。磁石としては、酸化鉄を用いるか、他と混ぜ合わせてつくられます。現在流通している多くの磁石には鉄が用いられています。

       

      4. 強磁性体になるわけ

      ⑴ 原子の構造と電子の収容ルール

      原子には原子核とその周囲を回転運動する電子からなることはご存じと思います。個々の電子はルールによって軌道配置されており、決められた軌道内を運動します。また各軌道は殻(カク)とよばれる軌道の収容場のようなものに収容されています。

       

      そもそも原子核の周りには原子番号が増えるに従い、K殻、L殻、M殻、N殻・・・が配置されています。そしてK殻にはS軌道が一つ存在できます。S軌道には電子2つまで入ることができますので。K殻1つでHとHeに対応できます。原子番号3になりますと、K殻にはもう電子が入りませんのでL殻ができ、L殻に入っていきます。L殻には電子が2つまで入庫できるS軌道に加えp軌道というものが加わります。p軌道は3つの直交する軌道からなり各軌道には電子2個入庫できますので、最大3×2=6個の電子が入庫できるということになります。

       

      先ほど言いましたK殻のS軌道は1番目なので1S軌道といい、L殻のS軌道は2S軌道、p軌道は2p軌道ということになっています。ですからK殻+L殻で電子は2+(2+3×2)=10個収容できます。原子番号10のNeまでですね。

       

      さらに原子番号は増えると次はM殻に入っていきます。M殻には電子2個の3S軌道、電子3×2個の3p軌道、に加え3d軌道を持っています。d軌道には5つの軌道があり各軌道には電子2個入庫できますので5×2=10個入庫できます。M殻には2+(3×2)+(5×2)=18個の電子が収容できることになります。M殻のそとにはさらにN殻が配置されます。

       

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

       

      【電子殻への電子配置】

      通常は原子番号の順にエネルギー順位の低い殻の内側から順序よく埋まっていき、電子は逆向きのスピンがペアになるよう入っていくので、磁気モーメントは小さい。

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

      ⑵ ルール破りな遷移金属

      M殻の3p軌道がいっぱいになったら3d軌道にいくかと思いきや、エネルギー順位はわずかにN殻の4s軌道のほうが小さいため、3d軌道ではなく4s軌道に電子は埋まっていきます。そのあと3d軌道に電子が入っていきます。

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

      今までは電子スピンは正方向が来たら次は負方向と順番にバランスよく軌道に埋まっていきましたが、21Scからはそうはいきません。21番から25番までは5つの軌道に同じスピンの方向でどんどん入ってきます。それから26番から30番まで反対向きの電子が入ってくる。ということです。つまり21番から29番のところが非常にスピンモーメントがアンバランスな形になります。それを遷移金属と呼びまして同じような性質を持っています。このうち26Fe、27Co、28Niなどが強磁性の性質を持ちます。

      磁性体とは?種類や原理、具体例についてわかりやすく解説

       

      5. 強磁性体を活用して強力な磁石を作る理由

       

      ◆ 強磁性体を使って、強力な磁石を作るために必要なもの

      【合金磁石】

      現在流通している強磁性体は、種々の原料を組み合わせて製造されています。金属単体の強磁性体では強力磁石をつくることができません。種類が違う金属同士を組み合わせると合金磁石になります。鉄クロムコバルト磁石、アルニコ磁石が合金磁石として良く知られています。これらの合金磁石は、フェライト磁石(酸化鉄のみでつくられた物)と比べると、高い磁力をもっています。また使用環境の温度に対して磁力が安定しています。

       

      【希土類磁石】

      レアアースと呼ばれる金属元素を用いた希土類磁石は、サマリウムコバルト磁石・ネオジム磁石が代表的です。実際に希土類磁石で活用されるネオジムは、コバルトよりも埋蔵量が豊富ですので、名前にレアとありますが、稀少な元素というわけではありません。希土類磁石は、元素合金磁石と比べて高い磁力をもちます。強力な磁力を活かし、多くの製品に用いられています。

       

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      6. まとめ

      本稿では電気電子、機械技術などに貢献する強磁性体を解説しましたが日常生活では人体や紙幣などあらゆる場所に磁性体が存在します。そしてその広い応用から人の暮らしには欠かせないものとなっています。なぜ物質によって磁気を帯びたりするのか。磁気とは何なのかがこの解説でおわかりいただけたのではないでしょうか。

       

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      この記事の著者

      岩瀬 栄一郎

      メカトロ製品など原理開発から構造設計まで競争力ある製品へと育てませんか。設計根拠を大切にし、工法を考慮した、性能、品質の作りこみをしていきます。

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