モグラ叩きの品質管理 中小製造業の課題と解決への道筋(その3)

 

【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】

 

第1章 時代の変化に取り残された「組織とマネジメント」

第3節 モグラ叩きの品質管理

 日本人は、地道に物事のメカニズムを解明して一つひとつ問題を解決していくことが得意です。しかしこれはスピードが求められる製造業では、後追いの対策となり、一歩間違うと市場に出てから問題が発見され、手遅れとなります。確実な「再発防止」と「予防」が厳しく求められるのです。

◆関連解説『品質マネジメントとは』

 物理学や化学の研究の世界では自然界で起こっている現象を捉え、そのメカニズムを解明して新しい物理法則の発見や新しい病気の治療法などを開発します。この分野ではノーベル賞受賞の日本人も多いです。

 しかしものづくりの世界では、問題が発生してから起こっている現象を確認し、メカニズムを解明し対策を講じていく手法では、変化の早い市場の要求に応えられなくなっています。これまでに増して市場に安心安全な製品を供給する使命が高まっている製造業では、問題が発生する前の上流工程で、起こり得る潜在した問題を発見し、未然に防止策を講じていかなければならない時代に来ています。不良はゼロが当たり前の時代に、依然として問題が起こってから対処する従来のモグラ叩きの品質管理の考え方は捨てなければなりません。

 

1、モグラ叩きの根源はカイゼン活動

 問題解決型のQCストーリーのステップは、以下の通りとなっていることは前節で説明しました。

「テーマの選定」→「現状把握」→「目標設定」→「原因の追究」→「対策案の立案」→「試行」→「対策実施」→「効果確認」→「歯止め、標準化」

 これをよく見ると、問題が発生してからアクションを取る「モグラ叩き」の品質管理なのです。かつての日本製品は、品質があまり良くなかったために、製造工程で発生する不良に対して、対策を繰り返して品質を確保していく方法が最も有効な手段でした。当時の「カイゼン活動」は、現場の有効な品質向上策として成り立っており、誰も「モグラ叩き活動」とは考えていなかったのです。

 しかし現在では、不良ゼロは当たり前の時代ですから、工程に製品が流れ出してから問題を潰していく方法では、必ずモレが出て、重大な問題が流出し兼ねません。結果的に今までのQCサークル活動の限界が見え始め、活動が衰退していく原因の一つとなっていると考えられます。

 日本製品の品質は、これまで内外から高い評価を得てきました。その一方で、日本が誇る“品質”にかげりを感じている人々も少なくありません。従来の統計的品質管理やQCサークル活動の効果が段々と得られなくなり、限界を感じて「十分な品質を確保するにはどうすればいいのか?」といった悩みを抱える企業が増えています。

 次に、発生した品質問題を解決するステップを例として説明します。今必要なことは、不幸にして発生した問題は、最優先で再発防止策を講ずることが基本になります。

【問題事例】

 客先から「加工部品の寸法が規格から外れている不良品が約0.2%混入している」とのクレームの連絡を受けました。工場出荷時には全数検査を行っていますが、出荷品10,000個の中に混在していた20個の不良品が発見できず、良品として出荷されてしまいました。

【解決のステップ】

(1) どのようなステップで進めるのか?

 従来のQCストーリーを基本に問題事例を当てはめて考えてみましょう。

 現場では、この対策ステップをできるだけ早く回し、最優先で解決します。特に⑤と⑥は同時に進め、対策、試行の繰り返しによって対策案を導き出します。

 いわゆるQCサークル活動と異なるのは、テーマの選定、目標設定・実行計画のステップは不要であること、不良品の処置と暫定対策を講ずること、期間を設けず最優先で...

できるだけ速やかに解決することです。

 ここで注意しなければならないことは⑤原因の究明、⑥⑦の対策実施と効果確認、⑧歯止め・標準化です。しかし、多くのQCストーリーを見ると、この部分の取り組みが押しなべて不十分となっています。筆者の経験上、扱う問題が大きければ大きいほど、一つの職場の活動範囲だけでは問題は解決しないのです。

 例えば、最終検査のやり方を、抜取検査から全数検査に切り替えなければ、不良が流出するが、それには検査部門の人が不足している。また加工ばらつきが大きく寸法不良が発生するのは、加工機械が古く工程能力が低い、といった問題が浮かび上がってきます。

 人や設備の問題は、職場だけでは解決が困難であり、トップマネジメントの問題です。しかしこのことを放置したままの状態では、不良が流出します。そこで、緊急対応として検査員以外の派遣社員や、パート作業者に検査を任せざるを得なくなってきます。そして、それは仕方ないと誰もが認めてしまうのです。

 

 次回は、第4節 日本式組織の弊害から解説を続けます。

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者