産業のサービス化、「サービスの論理」をきちんと理解する

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1.全ての産業でサービス化が進んでいる

 日本ではまだまだ製造業が幅を利かせているように思われますが、実際は日本のGDPの約70%をサービス業が生み出しています。残る約30%の大部分を占める製造業では、製品がコモディティー化してくると「サービスで差別化」をすることで競争優位を勝ち取る企業が増えてきています。更には製品を販売するのではなくリースすることで事業をストックビジネス化する製造業も増えてきました。例えば米国のGEが航空機エンジンをリースして、使用時間に応じた利用料と保守メンテナンス料で儲けているという具合です。

 農業においても「サービスで収益向上」を行っている農家が注目されています。例えば農家が地産地消のレストランやツアーを運営して、都会から多くの人に地元の名産品を食べに来てもらうといったもので、甲府のワインツーリズムが代表的な例だと思います。

 医療分野においても医療をサービスと捉えることで、患者満足度を高める活動が見られるようになってきました。例えば医師による診察の際のコミュニケーションを改善して患者満足度を高めることが、結果的に通院が必要な患者さんの通院率を高め、治療の質を高めることに繋がるといった形で、サービス化に注力する病院も出てきています。川越胃腸病院では、従業員満足度を高めることで従業員自らが高い品質の医療サービスを提供することで、結果的に患者満足度も向上させるという取り組みに成功しています。 

 このように見てみると、サービス業にとどまらず全ての産業において「サービス」が競争優位や価値そのものに直結するようになってきており、サービスで満足して頂くということが極めて重要になってきていると言えます。と同時に、全ての産業で「我々はサービス業だ」と捉えることで、価値ある気付きが得られる可能性があります。今後日本の産業は、サービスに本気で取り組むことで新たな活路を見出すことが十分にできそうです。そのためにも、先ずはサービスについての論理的かつ実用的な理解を深める必要があります。

 

2.サービスとは?

 前項のように、日本の産業ではサービスの重要性が高まっています。にも関わらず、サービスは目に見えないために雲を掴むような曖昧なイメージなのが現状ではないでしょうか。ゆえに、「サービス設計」というものを組織としてしっかりと行っている企業はまだまだ少なく、サービスの命である「教育やトレーニング」も現場任せになってしまっている企業が多いようです。その結果、直観や経験だけに頼ったサービス提供がなされ、サービス品質がばらついてしまっているというのが現状です。これでは、サービスで満足して頂くのは難しいでしょう。

 それでは、「サービス」とは一体どんなものでしょうか?

 例えばサービスサイエンスでは、「人や構造物が発揮する機能でユーザーの事前期待に適合するもの」をサービスとしています。「事前期待に適合しないもの」は、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と言われてしまうのです。この定義からも、サービスにおいては事前期待を意識することがいかに重要かがご理解いただけると思います。

 また、製造業に対するサービス業の特徴でよく挙げられるのが次の4点です。「サービスは目に見えない」、「サービスは生産と消費が同時で在庫できない」、「サービスはお客様と一緒に作る」、「サービスはお客様合わせが必要」。これらの特徴を少し別の角度から眺めてみると、もう少し違ったポイントも見えてきます。

 例えば「サービスの材料」は何でしょうか?いざこう聞かれると、なかなか答えが出てこないものです。製造業の場合は素材や部品が製品の材料になりますが、サービスの場合は「お客様の課題」が材料になります。つまりお客様が課題を持ってサービスを受けに来て頂かないと、サービスは勝手に提供することができないということになのです。

 続いて「評価」についても、製品との大きな違いがあります。製品の評価は非常に客観的で、サイズや色や機能、デザインなどを、店頭で眺めたり触って他社品と比べながら評価することができます。それに対して「サービスの評価」は非常に曖昧で、自分が良いと思っていても友人に良くないと言われると評価が変わってしまったりするものです。このように、サービスは客観的な評価が難しいと言えます。

 

3.まだまだ製造業文化でドライブされている日本のサービス

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1.全ての産業でサービス化が進んでいる

 日本ではまだまだ製造業が幅を利かせているように思われますが、実際は日本のGDPの約70%をサービス業が生み出しています。残る約30%の大部分を占める製造業では、製品がコモディティー化してくると「サービスで差別化」をすることで競争優位を勝ち取る企業が増えてきています。更には製品を販売するのではなくリースすることで事業をストックビジネス化する製造業も増えてきました。例えば米国のGEが航空機エンジンをリースして、使用時間に応じた利用料と保守メンテナンス料で儲けているという具合です。

 農業においても「サービスで収益向上」を行っている農家が注目されています。例えば農家が地産地消のレストランやツアーを運営して、都会から多くの人に地元の名産品を食べに来てもらうといったもので、甲府のワインツーリズムが代表的な例だと思います。

 医療分野においても医療をサービスと捉えることで、患者満足度を高める活動が見られるようになってきました。例えば医師による診察の際のコミュニケーションを改善して患者満足度を高めることが、結果的に通院が必要な患者さんの通院率を高め、治療の質を高めることに繋がるといった形で、サービス化に注力する病院も出てきています。川越胃腸病院では、従業員満足度を高めることで従業員自らが高い品質の医療サービスを提供することで、結果的に患者満足度も向上させるという取り組みに成功しています。 

 このように見てみると、サービス業にとどまらず全ての産業において「サービス」が競争優位や価値そのものに直結するようになってきており、サービスで満足して頂くということが極めて重要になってきていると言えます。と同時に、全ての産業で「我々はサービス業だ」と捉えることで、価値ある気付きが得られる可能性があります。今後日本の産業は、サービスに本気で取り組むことで新たな活路を見出すことが十分にできそうです。そのためにも、先ずはサービスについての論理的かつ実用的な理解を深める必要があります。

 

2.サービスとは?

 前項のように、日本の産業ではサービスの重要性が高まっています。にも関わらず、サービスは目に見えないために雲を掴むような曖昧なイメージなのが現状ではないでしょうか。ゆえに、「サービス設計」というものを組織としてしっかりと行っている企業はまだまだ少なく、サービスの命である「教育やトレーニング」も現場任せになってしまっている企業が多いようです。その結果、直観や経験だけに頼ったサービス提供がなされ、サービス品質がばらついてしまっているというのが現状です。これでは、サービスで満足して頂くのは難しいでしょう。

 それでは、「サービス」とは一体どんなものでしょうか?

 例えばサービスサイエンスでは、「人や構造物が発揮する機能でユーザーの事前期待に適合するもの」をサービスとしています。「事前期待に適合しないもの」は、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と言われてしまうのです。この定義からも、サービスにおいては事前期待を意識することがいかに重要かがご理解いただけると思います。

 また、製造業に対するサービス業の特徴でよく挙げられるのが次の4点です。「サービスは目に見えない」、「サービスは生産と消費が同時で在庫できない」、「サービスはお客様と一緒に作る」、「サービスはお客様合わせが必要」。これらの特徴を少し別の角度から眺めてみると、もう少し違ったポイントも見えてきます。

 例えば「サービスの材料」は何でしょうか?いざこう聞かれると、なかなか答えが出てこないものです。製造業の場合は素材や部品が製品の材料になりますが、サービスの場合は「お客様の課題」が材料になります。つまりお客様が課題を持ってサービスを受けに来て頂かないと、サービスは勝手に提供することができないということになのです。

 続いて「評価」についても、製品との大きな違いがあります。製品の評価は非常に客観的で、サイズや色や機能、デザインなどを、店頭で眺めたり触って他社品と比べながら評価することができます。それに対して「サービスの評価」は非常に曖昧で、自分が良いと思っていても友人に良くないと言われると評価が変わってしまったりするものです。このように、サービスは客観的な評価が難しいと言えます。

 

3.まだまだ製造業文化でドライブされている日本のサービス

 ここまでで、サービスで満足してもらうためには製造業とは全く違った価値観でドライブする必要がありそうだと感じて頂けたのではないかと思います。しかしながら日本のサービスはまだまだ製造業文化でドライブされています。つまり「良いサービスは喜ばれる」と思ってサービス提供者が勝手に作ったサービスを提供しているケースが非常に多いということです。こういった勝手に作ったサービスには、かなりの割合で「余計なお世話」や「無意味行為」「迷惑行為」が入ってきてしまうものです。これでは、サービスでお客様に満足して頂き、競合に勝つということは難しいでしょう。

 この状況を打開するために、先ずは「サービスの論理」をきちんと理解するということが第一歩になると思います。我々サービス提供者がサービスサイエンスを通して、サービスに関する定義や構成要素を理解したり、感動サービスを実現するための視点やモデルを知った上で、サービスの開発・設計・改善や従業員の教育・トレーニングを行うことが、日本産業や日本企業の価値と競争力を高めることになるとに繋がると信じています。

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この記事の著者

松井 拓己

数少ないサービスサイエンスの専門家として、業界を問わずいろんな企業・団体の方々に面白がっていただいております。

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