“技術者の倫理”について考える

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1. 多発する技術分野での不正行為

 ここ数年、日本では、様々な技術分野で、データの改ざんなどの不正行為が立て続けに明るみになっています。
 
*施工業者での杭打ちデータ改ざん
*施工業者における地盤改良工事での施工データ改ざん
*タイヤ・自動車部品メーカーでの免震装置の性能データ改ざん
*自動車メーカーでの燃費データ改ざん
*自動車メーカーでの無資格者による車の完成検査
*製鉄会社での品質データ改ざん
 
 これらの不正行為は“技術者の倫理”に係わることです。
 
 例えば、日本機械学会倫理規定の前文には、以下のようなことが書かれています。
 
 本会会員は、真理の探究と技術の革新に挑戦し、新しい価値を創造することによって、文明と文化の発展および人類の安全、健康、福祉に貢献することを使命とする。また、科学技術が地球環境と人類社会に重大な影響を与えることを認識し、技術専門職として職務を遂行するにあたって、自らの良心と良識に従う自律ある行動が、科学技術の発展と人類の福祉にとって不可欠であることを自覚し、社会からの信頼と尊敬を得るために、以下に定める倫理綱領を遵守することを誓う。
 *アンダーライン、筆者追記。
 
 「自動車メーカーでの燃費データ改ざん」や「自動車メーカーでの無資格者による車の完成検査」などは、このアンダーラインの箇所に抵触しています。
 
 人的資源マネジメント
 
 ここ数年で明るみになった不正行為を見ていると、様々な技術分野で技術者の倫理が欠如しているように思います。
 

2. 管理基準値の改ざんの指示

 トンネル工事での現場の所長から、現場計測での管理基準値の改ざんを指示されたことがありました。
 
 現場計測の主な目的は、工事を安全に施工するため計測機器を使って、施工に伴い発生する周辺に及ぼす影響を日々観測することです。この他には、学術的な目的もあります。これは、施工対象となる構造物に計測機器を取り付けてこの構造物に作用する力などを計測し、この計測で得られたデータを今後の構造物の設計に反映させることです。
 
 約30年前(会社員の時代)、水路トンネル注1)工事での現場計測業務で現場に出ていました。
 注1):水路とは、人工的に造られた水を流すための構造物のことです。
 
 この現場計測の目的は、新幹線と在来線の高架橋脚注2)の安全管理でした。具体的には、新幹線と在来線の高架橋脚の下に水路トンネルを造るため、このトンネルを掘っているときの高架橋脚の変位量を計測することで高架橋脚の安全を管理することでした。
 注2):高架橋とは、地上に連続して架けられた橋のことです。また、橋脚とは、橋梁の上部構造を支える脚のことです。
 
 私は、この現場計測の責任者でしたが、あるとき現場の所長から呼び出しがありました。所長から言われたのが計測データの管理基準値の改ざんでした。「計測データの取り込みのプログラムを森谷さんが作っていると聞いたが、高架橋脚の安全管理のための管理基準値をプログラム上で変えてくれないか?」という内容でした。
 
 人的資源マネジメント
 
 このプログラムは、高架橋脚に設置した計測機器で自動計測したその変位量をパソコン内に取り込み、取り込んだ値をパソコンの画面上に表示するシステムに関する内容でした。
 
 管理基準値とは高架橋脚の沈下量に関する値です。管理基準値は3段階あり、計測した沈下量が、最も厳しい管理基準値を超えたら工事を中断することになっていました。例えば、これは、管理基準値を7mmとした場合、トンネル掘削に伴い高架橋脚が8mm沈下したら工事を中断させることです。
 
 この管理基準値はプログラム内で設定します。そのため、管理基準値が7mmでもプログラム内でその値を10mmと設定すれば、高架橋脚が9mm沈下しても、プログラム上ではこの値は「管理基準値以下」という判定になります。
 
 所長は、計測値が管理基準値を超えても工事を中断したくなかったので、私に計測データの管理基準値の改ざんを指示したと思いま...

1. 多発する技術分野での不正行為

 ここ数年、日本では、様々な技術分野で、データの改ざんなどの不正行為が立て続けに明るみになっています。
 
*施工業者での杭打ちデータ改ざん
*施工業者における地盤改良工事での施工データ改ざん
*タイヤ・自動車部品メーカーでの免震装置の性能データ改ざん
*自動車メーカーでの燃費データ改ざん
*自動車メーカーでの無資格者による車の完成検査
*製鉄会社での品質データ改ざん
 
 これらの不正行為は“技術者の倫理”に係わることです。
 
 例えば、日本機械学会倫理規定の前文には、以下のようなことが書かれています。
 
 本会会員は、真理の探究と技術の革新に挑戦し、新しい価値を創造することによって、文明と文化の発展および人類の安全、健康、福祉に貢献することを使命とする。また、科学技術が地球環境と人類社会に重大な影響を与えることを認識し、技術専門職として職務を遂行するにあたって、自らの良心と良識に従う自律ある行動が、科学技術の発展と人類の福祉にとって不可欠であることを自覚し、社会からの信頼と尊敬を得るために、以下に定める倫理綱領を遵守することを誓う。
 *アンダーライン、筆者追記。
 
 「自動車メーカーでの燃費データ改ざん」や「自動車メーカーでの無資格者による車の完成検査」などは、このアンダーラインの箇所に抵触しています。
 
 人的資源マネジメント
 
 ここ数年で明るみになった不正行為を見ていると、様々な技術分野で技術者の倫理が欠如しているように思います。
 

2. 管理基準値の改ざんの指示

 トンネル工事での現場の所長から、現場計測での管理基準値の改ざんを指示されたことがありました。
 
 現場計測の主な目的は、工事を安全に施工するため計測機器を使って、施工に伴い発生する周辺に及ぼす影響を日々観測することです。この他には、学術的な目的もあります。これは、施工対象となる構造物に計測機器を取り付けてこの構造物に作用する力などを計測し、この計測で得られたデータを今後の構造物の設計に反映させることです。
 
 約30年前(会社員の時代)、水路トンネル注1)工事での現場計測業務で現場に出ていました。
 注1):水路とは、人工的に造られた水を流すための構造物のことです。
 
 この現場計測の目的は、新幹線と在来線の高架橋脚注2)の安全管理でした。具体的には、新幹線と在来線の高架橋脚の下に水路トンネルを造るため、このトンネルを掘っているときの高架橋脚の変位量を計測することで高架橋脚の安全を管理することでした。
 注2):高架橋とは、地上に連続して架けられた橋のことです。また、橋脚とは、橋梁の上部構造を支える脚のことです。
 
 私は、この現場計測の責任者でしたが、あるとき現場の所長から呼び出しがありました。所長から言われたのが計測データの管理基準値の改ざんでした。「計測データの取り込みのプログラムを森谷さんが作っていると聞いたが、高架橋脚の安全管理のための管理基準値をプログラム上で変えてくれないか?」という内容でした。
 
 人的資源マネジメント
 
 このプログラムは、高架橋脚に設置した計測機器で自動計測したその変位量をパソコン内に取り込み、取り込んだ値をパソコンの画面上に表示するシステムに関する内容でした。
 
 管理基準値とは高架橋脚の沈下量に関する値です。管理基準値は3段階あり、計測した沈下量が、最も厳しい管理基準値を超えたら工事を中断することになっていました。例えば、これは、管理基準値を7mmとした場合、トンネル掘削に伴い高架橋脚が8mm沈下したら工事を中断させることです。
 
 この管理基準値はプログラム内で設定します。そのため、管理基準値が7mmでもプログラム内でその値を10mmと設定すれば、高架橋脚が9mm沈下しても、プログラム上ではこの値は「管理基準値以下」という判定になります。
 
 所長は、計測値が管理基準値を超えても工事を中断したくなかったので、私に計測データの管理基準値の改ざんを指示したと思います。工事を中断すると予定の工期内で工事が完了しません。
 
 もちろん、高架橋脚の安全に係わるような大きな沈下が発生すれば工事を中断したと思います。しかし、管理基準値を数mm超えた程度では高架橋脚の安全に問題がないと考えたのでしょう。
 
 もちろん、「管理基準値の改ざんはできません」と断りました。
 
 この所長は、“技術者倫理の遵守”と“工事工程の遵守”を秤にかけて後者を選びました。
 
 土木学会の「土木技術者の倫理規定」の中で定められている行動規範の“4”は以下の内容です。
 

◆職務における責任

 自己の職務の社会的意義と役割を認識し、その責任を果たす。
 
 土木技術者であるこの所長は、「工事を安全に進めるための責任者」という所長の役割(所長としての責任)を果たしませんでした。
 
 様々な技術分野で不正行為が起こっています。我々技術者はもう一度“技術者の倫理”について考える必要があると思います。
  

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この記事の著者

森谷 仁

「君の書く文書は、わかりにくい」と言われる技術者から、「君の書く文書は、わかりやすい」と言われる技術者へのステップアップ!

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