一人の責任者がすべきステージゲートの最終的な意思決定

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 最終の意思決定は1人の意思決定者が決めるべきでしょうか?それとも合議で決めるべきでしょうか?これはステージゲートに限らず、意思決定では悩ましい項目です。今回はこの点を考えてみましょう。

 

1.1人の意思決定者が決めるメリット

 企業のように効率が重要な組織においては、限定された人的な資源を最大限効率的に利用して、組織目標を達成することが求められます。このような組織においては、組織はヒエラルキー構造を持ち、そのヒエラルキーの階層を構成するそれぞれの組織の1人の長がその統率する組織の成果においてその上の組織の長に対し責任を持つ構造となっています。従って、成果を出すことのできなかった責任者は、解任を含め責任をとらなければなりません。そのかわり、その責任者は、統率する組織に対し権限を行使することが認められ、目的の達成に向けてその組織を動員することができます。また、組織に対してその権限を効果的に行使し、またリーダーシップを発揮して、成果を出すことができると判断された人材が、その組織の長に任命されます。

 ここではそれぞれの階層の組織の長は1人です。複数ですと「船頭多くして船山に登る」ことがおきます。また責任も希釈されてしまいますし、更にその上の長が彼らを統率することも難しくなります。全体の組織マネジメントが複雑になります。

 この1人の組織の長が責任を持つ仕組みは、何千年もの人類の組織運営の経験から生まれたもので、最も効率的な組織構造です。

 従って、クロスファンクショナルな活動である製品開発プロジェクトにおいても、機能組織上の長が責任を持つか、プロジェクトの責任者が責任を持つかという判断はあるものの、基本的にこの組織運営のルールが適用され、1人の責任者が最終の意思決定をするのが効率的です。

 

2.1人の意思決定者が決めるデメリット

 意思決定をするための環境の確実性が高い状況においては、この1人で最終的な意思決定をするという仕組みは最も効率的に機能します。すでに意思決定するための情報が、その意思決定者の統率する組織の中にあり、その意思決定者も類似した意思決定の経験を豊富に持っているからです。

 しかし何度も議論してきたように、ステージゲート法は革新的な製品を実現することを目的としており、革新性と不確実性はコインの裏表の関係にあります。従って、意思決定者は意思決定をするための十分な情報はもっておらず、類似の意思決定の経験が少ない、もしくはないという状況におかれています。また、その意思決定者を任命する側も、どのような能力を持った人間を責任者に任命してよいかの判断を持ち合わせていない可能性もあります。

 このような状況下では、1人の責任者が従来の確実性の高い環境下で、意思決定を行なうと誤った判断をしてしまう危険性が高まります。

 

3.社内の多面的な英知を集める

 ここで最大限に適切な意思決定を行なう方法は、ステージゲート法の中に組み込まれたその他の不確実性低減の仕組みに加えて、その責任者が統率する組織を越えて、社内の多面的な英知を集め判断することです。これら社内の多面的な英知とて十分でない可能性はあるものの、彼の組織内を大きく超えた英知を活用することができます。

 しかし、ここで問題があります。「責任者は1人」のルールをとると、英知を提供してもらう人たちからコミットメントを得ることが難しくなる点です。

 

4.英知を提供してもらう人たちからコミットメントを得る方法

 この問題にどう対処したら良いのでしょうか?2つの方法が考えられます。

(1)利害関係のある情報を提示する

  意思決定の時点では英知を提供する側が直接の利害関係を持たなくとも、多くはそのプロジェクトが進展するに従い、それら部署との関係が発生し、ある部署、例えば生産部門であれば、その開発行為の成果は自部門の主要な関心時になります。従って、早期からそのプロジェクトに関わる情報をできるだけその部門との関係性が明示されるような形で提示し、かつそのような機会を多く持つことです。またここでは、ステージゲート法の大きな特徴であるフロントローディングが意味を持ちます。早期から川下に関わる情報や決定を組み込むことで、関連部署の当該プロジェクトへの関心を高めることができます。

(2)意思決定に参加してもらい「ある程度」の責任を負わせる

  もう一つは、彼らにゲートでの意思決定に参加してもらうことです。単に、アドバイスをするとい...

 最終の意思決定は1人の意思決定者が決めるべきでしょうか?それとも合議で決めるべきでしょうか?これはステージゲートに限らず、意思決定では悩ましい項目です。今回はこの点を考えてみましょう。

 

1.1人の意思決定者が決めるメリット

 企業のように効率が重要な組織においては、限定された人的な資源を最大限効率的に利用して、組織目標を達成することが求められます。このような組織においては、組織はヒエラルキー構造を持ち、そのヒエラルキーの階層を構成するそれぞれの組織の1人の長がその統率する組織の成果においてその上の組織の長に対し責任を持つ構造となっています。従って、成果を出すことのできなかった責任者は、解任を含め責任をとらなければなりません。そのかわり、その責任者は、統率する組織に対し権限を行使することが認められ、目的の達成に向けてその組織を動員することができます。また、組織に対してその権限を効果的に行使し、またリーダーシップを発揮して、成果を出すことができると判断された人材が、その組織の長に任命されます。

 ここではそれぞれの階層の組織の長は1人です。複数ですと「船頭多くして船山に登る」ことがおきます。また責任も希釈されてしまいますし、更にその上の長が彼らを統率することも難しくなります。全体の組織マネジメントが複雑になります。

 この1人の組織の長が責任を持つ仕組みは、何千年もの人類の組織運営の経験から生まれたもので、最も効率的な組織構造です。

 従って、クロスファンクショナルな活動である製品開発プロジェクトにおいても、機能組織上の長が責任を持つか、プロジェクトの責任者が責任を持つかという判断はあるものの、基本的にこの組織運営のルールが適用され、1人の責任者が最終の意思決定をするのが効率的です。

 

2.1人の意思決定者が決めるデメリット

 意思決定をするための環境の確実性が高い状況においては、この1人で最終的な意思決定をするという仕組みは最も効率的に機能します。すでに意思決定するための情報が、その意思決定者の統率する組織の中にあり、その意思決定者も類似した意思決定の経験を豊富に持っているからです。

 しかし何度も議論してきたように、ステージゲート法は革新的な製品を実現することを目的としており、革新性と不確実性はコインの裏表の関係にあります。従って、意思決定者は意思決定をするための十分な情報はもっておらず、類似の意思決定の経験が少ない、もしくはないという状況におかれています。また、その意思決定者を任命する側も、どのような能力を持った人間を責任者に任命してよいかの判断を持ち合わせていない可能性もあります。

 このような状況下では、1人の責任者が従来の確実性の高い環境下で、意思決定を行なうと誤った判断をしてしまう危険性が高まります。

 

3.社内の多面的な英知を集める

 ここで最大限に適切な意思決定を行なう方法は、ステージゲート法の中に組み込まれたその他の不確実性低減の仕組みに加えて、その責任者が統率する組織を越えて、社内の多面的な英知を集め判断することです。これら社内の多面的な英知とて十分でない可能性はあるものの、彼の組織内を大きく超えた英知を活用することができます。

 しかし、ここで問題があります。「責任者は1人」のルールをとると、英知を提供してもらう人たちからコミットメントを得ることが難しくなる点です。

 

4.英知を提供してもらう人たちからコミットメントを得る方法

 この問題にどう対処したら良いのでしょうか?2つの方法が考えられます。

(1)利害関係のある情報を提示する

  意思決定の時点では英知を提供する側が直接の利害関係を持たなくとも、多くはそのプロジェクトが進展するに従い、それら部署との関係が発生し、ある部署、例えば生産部門であれば、その開発行為の成果は自部門の主要な関心時になります。従って、早期からそのプロジェクトに関わる情報をできるだけその部門との関係性が明示されるような形で提示し、かつそのような機会を多く持つことです。またここでは、ステージゲート法の大きな特徴であるフロントローディングが意味を持ちます。早期から川下に関わる情報や決定を組み込むことで、関連部署の当該プロジェクトへの関心を高めることができます。

(2)意思決定に参加してもらい「ある程度」の責任を負わせる

  もう一つは、彼らにゲートでの意思決定に参加してもらうことです。単に、アドバイスをするという立場ではありません。実際に意思決定に参加してもらうのです。意思決定の形としては、ゲートでテーマの評価点付けの投票をしてもらうというのが効果的です。単に挙手するような参加では、議論も不十分になりがちです。また評価項目毎に評価点を投票してもらいます。この仕組みにおいては、彼らは最終の意思決定に大きく影響を与える立場にあることから、最終の意思決定に対して「ある程度」の責任を負います。また、彼らの投票結果や議論の内容を、正式なゲートミーティング資料上に記録をしておきます。

 

5.最終的には1人の責任者が意思決定をする

  上のようなプロセスを辿った上で、最終的には組織のルールに則り、1人の責任者が意思決定をするのが良いと思います。それが組織の長の長たるゆえんであるからです。従って、今回の記事のタイトルである「最終的な意思決定は合議ですべきか?」に対する答えは、「ノー、最終的な意思決定は、一人の責任者がすべき」となります。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


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