海外委託生産における製造物責任管理、委託生産している場合は、組み立てでもPL問題!

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はじめに

 私は10年余り、香港を拠点に華南地区の製造現場に携わっています。具体的には日本からの各種製造仕様を受け、華南企業で製造展開する際のメーカー探し、生産効率化、品質改善などのサポートを行ってきました。ここでは委託生産先におけるPL(Product Liability, 製造物責任の課題と対応について解説します。

 

委託生産におけるPLの現状

 PL問題が発生した場合の責任は、サプライチェーンを構築するすべての組織が対象になり得ます。製品の設計や組み立ての欠陥で、使用者が損傷や死亡事故に至れば、社会的信頼の失墜、法的処分、そして多額な賠償による損失を被ることになります。

 当方もこうしたPL問題を現地ローカルスタッフの教育や現場指導の場で、欠陥作業や賠償の事例紹介をし、PLへの認識付けを行ってきました。しかし、いまだに多くの委託先企業がPL問題への認識が希薄であり、少なからぬリスクが潜んでいるのが現状です。

 

委託生産先での確認・指導

 PL問題は、図のごとくそのほとんどが設計に起因しますので、多くは委託側の日本のメーカーの責任です。しかし、その製品を海外に委託生産している場合は、組み立てでもPL問題となるケースがあるため以下のような確認や指導が推奨されます。

1、設計に従っていること: 特に現地採用の部品材料を確認すべき。同等品でも要注意。電源部分、熱源、容量、性能、鍍金、バネ性、振動、摩耗などがチェックのキーワード。

2、ケーブル配線、部品固定など設計では明確でない部分: 振動、摩耗、熱源の影響有無。配線やパイプのルート、固定方法などを委託初期段階で確認。固定に使われる部品の振動や摩耗の影響、酸化や緩みなど経年劣化も要注意。

3、上記配線や部品の固定が製品の検査項目に含まれていること。

4、取扱い注意書きラベルの貼付: 所定の位置に張られていることを初期の段階で確認する。貼付位置確認が検査項目に含まれていること。

5、検査データの保管:  生産委託先の規定を確認する。

6、確認・指導内容の記録保管と共有化

 海外におけるPL問題

図1. 製造物責任(PL)欠陥の分類

 また、海外メーカーの標準製品をマイナーチェンジし、自社ブランドとして採用するケースも増えてきました。このような場合は、使用部品など設計から見直すことをお奨めしています。PL問題発生リスクとなる電源部分や回転、摩耗、熱源などは特に使用部材の性能確認が必要と考えます。

 

終わりに

 日中関係が微妙となっている時期に...

はじめに

 私は10年余り、香港を拠点に華南地区の製造現場に携わっています。具体的には日本からの各種製造仕様を受け、華南企業で製造展開する際のメーカー探し、生産効率化、品質改善などのサポートを行ってきました。ここでは委託生産先におけるPL(Product Liability, 製造物責任の課題と対応について解説します。

 

委託生産におけるPLの現状

 PL問題が発生した場合の責任は、サプライチェーンを構築するすべての組織が対象になり得ます。製品の設計や組み立ての欠陥で、使用者が損傷や死亡事故に至れば、社会的信頼の失墜、法的処分、そして多額な賠償による損失を被ることになります。

 当方もこうしたPL問題を現地ローカルスタッフの教育や現場指導の場で、欠陥作業や賠償の事例紹介をし、PLへの認識付けを行ってきました。しかし、いまだに多くの委託先企業がPL問題への認識が希薄であり、少なからぬリスクが潜んでいるのが現状です。

 

委託生産先での確認・指導

 PL問題は、図のごとくそのほとんどが設計に起因しますので、多くは委託側の日本のメーカーの責任です。しかし、その製品を海外に委託生産している場合は、組み立てでもPL問題となるケースがあるため以下のような確認や指導が推奨されます。

1、設計に従っていること: 特に現地採用の部品材料を確認すべき。同等品でも要注意。電源部分、熱源、容量、性能、鍍金、バネ性、振動、摩耗などがチェックのキーワード。

2、ケーブル配線、部品固定など設計では明確でない部分: 振動、摩耗、熱源の影響有無。配線やパイプのルート、固定方法などを委託初期段階で確認。固定に使われる部品の振動や摩耗の影響、酸化や緩みなど経年劣化も要注意。

3、上記配線や部品の固定が製品の検査項目に含まれていること。

4、取扱い注意書きラベルの貼付: 所定の位置に張られていることを初期の段階で確認する。貼付位置確認が検査項目に含まれていること。

5、検査データの保管:  生産委託先の規定を確認する。

6、確認・指導内容の記録保管と共有化

 海外におけるPL問題

図1. 製造物責任(PL)欠陥の分類

 また、海外メーカーの標準製品をマイナーチェンジし、自社ブランドとして採用するケースも増えてきました。このような場合は、使用部品など設計から見直すことをお奨めしています。PL問題発生リスクとなる電源部分や回転、摩耗、熱源などは特に使用部材の性能確認が必要と考えます。

 

終わりに

 日中関係が微妙となっている時期に、中国への生産拠点進出は控える状況にあります。一方で自動車や電子機器の部材産業の裾野や貿易インフラをアジア諸国と比較すると、圧倒的に中国が優位です。このことから特に中国にある日系やアジア系企業への委託生産は、今後も継続・進展すると推測されます。現地企業にはPLについて、一層の関心を深めてもらうとともに、発注側である日本企業には、現地でのPL問題へのリスクポテンシャル低減への努力を図っていただきたく願うものです。

 また、将来的には安全設計・組み立て事例や標準を整え、推進機関により共有化することも、もの作りにかかわる者として必要と考えます。

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この記事の著者

青山 利幸

中国進出・委託生産支援のプロ。中国華南での経験と最新情報をベースに、海外戦略に関し実行実現を見据えて適確にアドバイスします。

中国進出・委託生産支援のプロ。中国華南での経験と最新情報をベースに、海外戦略に関し実行実現を見据えて適確にアドバイスします。


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