部分最適化から全体最適化へ

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 ◆大規模技術プロジェクトを成功させる鍵 

                        
 プロジェクトマネジメント我が国ではこれまで、優れたシステムを実現する方法論として、『システムを構成する各部分ごとに最適化を図れば、最適化された各部分を纏め上げた全体が最適化される』とする考え方が主流であったように思います。技術革新が緩やかに進む中で、既に確立された技術を用いてシステムを構成する場合には、部分最適化の積み上げが確かに全体最適化に繋がっていました。既に確立された技術は、規格化や標準化がなされていることが多いので、システムを構成する各部分ごとの最適化が容易であり、また、各部分を他の部分とベストマッチングさせて全体を最適化することも難しくはないからです。
 
 しかし、技術革新が急激に進む中で、最先端技術を用いてシステムを構成する場合には、このようなボトムアップでは全体最適化には繋がりません。最先端技術は規格化や標準化がなされていないことが多いので、システムを構成する各部分ごとに最適化ができたとしても、各部分を他の部分とベストマッチングさせることが容易ではないからです。そこで、実現したいシステムの目的を見据えたトップダウンにより、全体最適化を図ることが極めて重要となってきます。
 
 ボトムアップからトップダウンへの変革は、システムの実現を目指すプロジェクトの運営体制を抜本的に見直すことが大前提となります。ボトムアップでは、プロジェクトを構成する各グループごとに最善を尽くすことが求められます。この場合には、グループを率いる各リーダーは、プロジェクトの責任を互いに分かち合う立場であり、各々の専門分野の技術力に加えて、グループとしての結果を出すための統率・指導力及び折衝・調整力が欠かせません。
 
 一方、トップダウンでは、プロジェクトの成否は偏にプロジェクトリーダーの手腕に掛かってきます。この場合には、プロジェクトリーダーは、プロジェクトの最終責任を一身に負う立場となるため、システムの全般に関する技術力に加えて、優れた企画力、折衝・調整力及び統率・指導力が求められます。
 
 トップダウンでプロジェクトを運営することは、欧米では通例となっていますが、我が国では、戦前の軍用機開発プロジェクトが典型的なトップダウンでした。例えば、零戦については、三菱重工の堀越二郎技師が設計主務者として、零戦開発プロジェクトを率いました。零戦の成功は、堀越二郎技師の卓越した技術力、企画力、折衝・調整力及び統率・指導力の賜物であったと言えます。
 
 新国立競技場の建設問題や、X線天文衛星「ひとみ」が軌道上で空中分解した問題など、大規模な技術プロジェクトの破綻が続発していますが、いずれも発注者のエンジニアリングの視点で捉えてみますと、根源には共通する問題点(全体最適化のコンセプトではなく部分最適化のコンセプトを追求したことです。)が浮かんできます。
 
 例えば、新国立競技場では、プロジェクトをデザイン設計・建築設計・建築施工の三段階に分割して、各段階ごとに競争原理を働かせようとする部分最適化を追求していたと捉えることがで...

 ◆大規模技術プロジェクトを成功させる鍵 

                        
 プロジェクトマネジメント我が国ではこれまで、優れたシステムを実現する方法論として、『システムを構成する各部分ごとに最適化を図れば、最適化された各部分を纏め上げた全体が最適化される』とする考え方が主流であったように思います。技術革新が緩やかに進む中で、既に確立された技術を用いてシステムを構成する場合には、部分最適化の積み上げが確かに全体最適化に繋がっていました。既に確立された技術は、規格化や標準化がなされていることが多いので、システムを構成する各部分ごとの最適化が容易であり、また、各部分を他の部分とベストマッチングさせて全体を最適化することも難しくはないからです。
 
 しかし、技術革新が急激に進む中で、最先端技術を用いてシステムを構成する場合には、このようなボトムアップでは全体最適化には繋がりません。最先端技術は規格化や標準化がなされていないことが多いので、システムを構成する各部分ごとに最適化ができたとしても、各部分を他の部分とベストマッチングさせることが容易ではないからです。そこで、実現したいシステムの目的を見据えたトップダウンにより、全体最適化を図ることが極めて重要となってきます。
 
 ボトムアップからトップダウンへの変革は、システムの実現を目指すプロジェクトの運営体制を抜本的に見直すことが大前提となります。ボトムアップでは、プロジェクトを構成する各グループごとに最善を尽くすことが求められます。この場合には、グループを率いる各リーダーは、プロジェクトの責任を互いに分かち合う立場であり、各々の専門分野の技術力に加えて、グループとしての結果を出すための統率・指導力及び折衝・調整力が欠かせません。
 
 一方、トップダウンでは、プロジェクトの成否は偏にプロジェクトリーダーの手腕に掛かってきます。この場合には、プロジェクトリーダーは、プロジェクトの最終責任を一身に負う立場となるため、システムの全般に関する技術力に加えて、優れた企画力、折衝・調整力及び統率・指導力が求められます。
 
 トップダウンでプロジェクトを運営することは、欧米では通例となっていますが、我が国では、戦前の軍用機開発プロジェクトが典型的なトップダウンでした。例えば、零戦については、三菱重工の堀越二郎技師が設計主務者として、零戦開発プロジェクトを率いました。零戦の成功は、堀越二郎技師の卓越した技術力、企画力、折衝・調整力及び統率・指導力の賜物であったと言えます。
 
 新国立競技場の建設問題や、X線天文衛星「ひとみ」が軌道上で空中分解した問題など、大規模な技術プロジェクトの破綻が続発していますが、いずれも発注者のエンジニアリングの視点で捉えてみますと、根源には共通する問題点(全体最適化のコンセプトではなく部分最適化のコンセプトを追求したことです。)が浮かんできます。
 
 例えば、新国立競技場では、プロジェクトをデザイン設計・建築設計・建築施工の三段階に分割して、各段階ごとに競争原理を働かせようとする部分最適化を追求していたと捉えることができます。また、X線天文衛星「ひとみ」では、トップダウンにより全体最適化を図るプロジェクトリーダーが実質的に不在となる中で、受注企業三社を取り込んだ形でプロジェクトを運営していたため、各社それぞれが責任を持ってそれぞれの最善を尽くそうとする部分最適化を追求していたと捉えることができます。
 
 このことから、全体最適化のコンセプトを追求することは、これからの我が国における大規模な技術プロジェクトを成功に導く上での必須条件であると言えます。また、全体最適化のコンセプトを機能させるには、プロジェクトリーダーが最終責任を全うできるよう、強力な権限の付与を必要としますので、この点について、プロジェクト構成員の意識改革を徹底することも必須条件であると言えます。
 

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この記事の著者

澤田 雅之

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