自社製品による他社の特許侵害

 中小企業さんの町工場やものづくりの現場では、素材の加工や部品の製造などの技術を生かした製品の製造販売が積極的に行われている様子を見聞きします。今回の解説では、加工や部品の製造を行う際に、自社が他社の特許権を侵害するリスクについて解説します。自社が独自に製品の製造をする場合と、発注を受けて製品の製造をする場合の2つのケースに分けて解説します。
 

1. 自社が独自に製造をする場合

 このような場合には、自社で製造する製品が他社の特許権に抵触する可能性の有無に注意しましょう。製品の開発前に自分が開発をしたい製品の特許の有無を調べることをおすすめします。侵害回避調査(侵害予防調査、クリアランスなどともいいます)で、製品の構成等に基づいて、公開された特許公報と特許公報で、かつ権利が存続しているものの有無を調査します。
 

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2.下請けや製造の依頼に基づいて製品の製造・販売を行う場合

 この場合は,a) 製品の発注者が製品の特許権を持っている場合、b)製品の発注者が特許権を持っていない場合、の2つにわけて考えます。
 

a) 製品の発注者が製品の特許権を持っている場合

 発注者に特許を実施する正当な権限(特許権を持っている、通常実施権や専用実施権を持っている,先使用権がある)がある場合は、下請け業者は発注者の一機関としての行為だとすれば、特許を実施しているのは発注者なので、下請けの行為は特許侵害とはならないとされています。下請けの事業者が発注者の一機関に該当するには、次の3つの条件を満たす必要があります。
 
   ・発注者が下請けに工賃を支払う契約をしている。
   ・製品の製造が発注者の指揮監督のもとに行われている。
   ・製品を全て発注者に引き渡し,下請けが他に販売していない。
 
 ただし、下請けの事業者が独自に製品の製造や販売を行う場合は、「発注者の一機関」とはみなされず、発注者の特許を侵害する恐れがあるので注意した方がいいと思われます(東京地方裁判所 平成14(ワ)3237 特許権侵害差止請求事件 平成15年12月26日)。詳しく知りたい方は,次の裁判例を参考にしてください。
 
   ・大判昭13・12・22「模様メリヤス事件」
   ・最判平9・10・28「鋳造金型事件」
 
 意匠権の先使用権者の下請けのケースでも,同様の裁判例があります。
 
   ・最判昭44・10・17「地球儀型トランジスタラジオ受信機事件」
 

b)製品の発注者が特許権を持っていない場合の部品等の製造や販売

 民法719条には、複数の者が共同で不法行為をして損害を与えたとき、各加害者が連帯してその損害に対する賠償責任を負うと規定があり(共同不法行為)、特許の侵害でも同様の考え方がされています。 ものづくりの現場で、部品の発注者と下請けの事業者が共同で他社の特許権を侵害した事例の裁判例(スチロピーズ事件 大阪地裁昭36年5月4日)があります。
 
 この事例では、Xが所有しているスチロピーズの製造方法の特許権について、被申請人のY1とY2がスチロピーズの生産と販売(特許の一次工程の結果から得られる中間物質に相当)→ 他の加工業者が特許の残りの工程に相当する工程を実施 → 最終的な生成物である多孔性成型体を生産という行為があったとされて、被申請人の特許の侵害が争われました。
 
 「他人の特許方法の一部分の実施行為が他の者の実施行為とあいまって全体として他人の特許方法を実施する場合に該当するとき、例えば一部の工程を他に請負わせ、これに自ら他の工程を加えて全行程を実施する場合、または、数人が工程の分担を定め結局共同して全行程を実施する場合には、(略)いずれも特許権の侵害行為を構成するといえるのであろう。」と言われた通り、複数の事業者がそれぞれ分担して特許の一部を実施し、最終的に特許の権利の範囲を満たす製品の生産や販売をした場合は、下請の事業者も共同不法行為とみなされて特許を侵害したとされる場合もあります。自社製品の製造や販売が他社の特許を侵害している可能性を事前に調べることで,訴訟や損害賠償請求、差止請求などのリスクを減らすことが可能です。
 

3.もしも自社の製品が他社の特許を侵害してしまったら

 特許侵害の訴訟で一般的に行われている、無効の抗弁を活用する方法があります。特許法104条の3(特許権者等の権利行使の制限)の1項には,次のように記載されています。
 
 「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」
 
 ここに書かれている「無効にされるべきものと認められるとき」には、その特許の先行例が存在する場合も含まれています。そのため、特許を侵害したとされたときには、その特許の先行例を探します(「無効資料調査」)
 

この記事の著者

長内 悟

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