
性能発注方式のキーポイント 〜要求水準書の作り方と活用法〜
グローバルスタンダードな発注方式である性能発注方式を,基礎から具体的に学ぶ!
DXに伴うソフトウェア開発,オープンイノベーションや情報化施工など,受注業者が有する最先端技術や創意工夫を存分に活かすためのキーポイントを解説!
セミナー趣旨
製造請負や工事の発注には,詳細な設計図書を用意し「この通りに作ってくれ」と要求する「仕様発注方式」と,実現しようとする具体的な目標や要件を示し「このような機能・性能を備えたものを作ってくれ」と要求する「性能発注方式」があります。
ちなみに,仕様発注方式は,他国に類を見ない我が国独自のガラパゴス的な発注方式であり,性能発注方式は,グローバルスタンダードな発注方式です。
DXに伴う大規模なソフトウェア開発,欧米のようなオープンイノベーション,大規模な開発・整備プロジェクトのマネジメント,難工事に欠かせない「情報化施工」,民営化を主眼とする公共事業などを成功させるには,受注業者が有する最先端技術や創意工夫を存分に活かしていくことが必要であり,これには性能発注方式の取組みが欠かせません。
なぜならば,受注業者が有する最先端技術や創意工夫を詳細な設計図書(製造請負仕様書や工事仕様書)に予め取り込んでおくこと(つまり,仕様発注方式の取組み)は非常に難しいため,実現しようとする具体的な目標や要件を要求水準書に予め取りまとめておくといった性能発注方式の取組みしかないからです。
ところが,我が国では過去半世紀以上にわたって,仕様発注方式の取組み方や考え方だけが連綿と引き継がれてきたため,今日でも性能発注方式の取組み方や考え方が未だ十分に理解されていないのです。それゆえ,詳細な設計図書まがいの要求水準書が多く見受けられるところであり,その結果として,仕様発注方式の問題点(受注業者が有する最先端技術や創意工夫を活かせない,受発注者間における責任の所在が不明確になる,など)を受け継いでしまいがちとなっています。
そこで,本セミナーでは,理想的な要求水準書の作成方法と活用方法を中心として,性能発注方式の正しい取組み方や考え方について,各種の事例に基づき分かりやすく解説します。
<受講のおすすめ>
DXの推進に向けて,企業の業務運営の基盤を成す基幹系システムを刷新しようとする民間のプロジェクトでは,仕様発注方式のような取組み方が災いして大規模なソフトウェア開発に失敗し,その責任を巡って裁判沙汰となってしまった事例が少なくありません。また,PFI法に基づく民営化を主眼とする公共事業(設計・施工・運営を一括して受託業者を選定するため,性能発注方式が必須となります。)においても,仕様発注方式で用いる詳細設計図書を文章化したような要求水準書が多く見受けられ,競争原理を完全に阻害してしまう一者応札が全国的に頻発する事態に繋がっています。
このような問題を抜本的に解決するには,性能発注方式の正しい取組み方と,価格と技術の両面での競争原理を確実に働かせることができる理想的な要求水準書の作り方について,十分に理解した上で実践していくことが欠かせないところです。
それゆえ,本セミナーのおすすめポイントは次の2つです。
1つ目は,グローバルスタンダードな性能発注方式の特徴,メリット,正しい取組み方や考え方について,我が国独自のガラパゴス的な仕様発注方式との対比の上で,多数の事例に基づいて具体的かつ包括的に修得して頂けることです。
2つ目は,価格と技術の両面での競争原理が確実に働く理想的な要求水準書の作成方法について,具体的かつ体系的に修得して頂けることです。ちなみに,理想的な要求水準書の要諦は,デザイン思考により「ニーズとシーズのベストマッチング」を図ること,発注者が実現を求める「機能と性能の要求要件」を漏れなく記載すること,受注者の創意工夫に委ねるべき設計には決して立ち入らないこと,性能要件間のトレードオフ関係に注意して全体最適化を図ること,受注者が設計と製造(or施工)を行う上で必要十分となる情報を提供すること,の5項目となります。
受講対象・レベル
- 新規のプロジェクトや事業の立ち上げに携わっている方
- 各種工事/製造請負の発注業務に携わっている方
- グローバルスタンダードな「性能発注方式」の正しい取組み方や考え方を修得したい方
- 「性能発注方式」の成否に直結する「要求水準書」の理想的な作成方法を修得したい方
- トレードオフの問題を抜本的に解決する「全体最適化」の具体的な取組み方を修得したい方
- 「デザイン思考」による「ニーズとシーズのベストマッチング」の具体的な取組み方を修得したい方
必要な予備知識
受講に当たっての特段の予備知識は必要ありません。
セミナープログラム
- 性能発注方式とは?
- 性能発注方式と要求水準書
- 日本人のDNAに組み込まれている仕様発注方式
- 仕様発注方式は,他国に類を見ない我が国独自のガラパゴス
- 仕様発注方式の基本は,「設計・施工の分離の原則」
- 仕様発注方式の本質は,ボトムアップによる部分最適化
- 仕様発注方式とは対照的な性能発注方式
- 性能発注方式は,グローバルスタンダード
- 性能発注方式の基本は,「デザイン思考」によるニーズとシーズのベストマッチング
- 性能発注方式の本質は,トップダウンによる全体最適化
- 全体最適化はプロジェクトや事業を成功させる必須条件
- 全体最適化の成否はプロジェクトや事業の成否に直結
- 「プロ中のプロ」がトップマネジメントしなければ仕様発注方式での全体最適化は困難
- 性能発注方式では受注者に委ねるべき設計に立ち入った場合の全体最適化は困難
- DX,オープンイノベーション,プロジェクトマネジメントを成功させる鍵は,性能発注方式による取組み
- DXに欠かせないソフトウェア開発
- DXとは?
- 我が国では,基幹系システムの更新失敗が頻発〜仕様発注方式のような取組み方が主因
- ソフトウェア開発委託を成功させる鍵は,性能発注方式による取組み
- オープンイノベーション
- イノベーションは目的ではなく手段であり結果
- オープンイノベーションを成功させる鍵は,性能発注方式による取組み
- 優れたベンダー企業を募る方法〜理想的な要求水準書の作成が肝要
- プロジェクトマネジメント
- 成功させる鍵は,プロジェクトマネージャによるトップダウンで全体最適化
- 仕様発注方式の考え方に立脚したプロジェクト運営の弊害〜「組織対応」は百害あって一利無し
- DXに欠かせないソフトウェア開発
- 【事例研究1】零戦の大成功と後継機「烈風」の開発失敗
- 零戦は,20世紀の世界地図を塗り替えた純国産の工業製品
- 零戦が成功した秘訣
- 零戦の計画要求書(たった1枚の要求水準書)は,「ニーズとシーズのベストマッチング」の結晶
- 零戦の計画要求書を目標とした,トップダウンによる全体最適化に成功
- 後継機「烈風」の開発に旧日本海軍は大失敗
- 後継機「烈風」の開発失敗が残した教訓
- 発注者は,受注者に委ねるべき設計に立ち入ってはならない
- 全体最適化の成否は,国運をも左右した
- 【事例研究2】仕様発注方式で失敗・破綻し,性能発注方式で復活・成功した新国立競技場整備事業
- 2015年7月17日,新国立競技場整備計画が白紙撤回
- 白紙撤回された新国立競技場整備計画,工事費試算額の推移
- 新国立競技場整備計画が破綻した原因
- 仕様発注方式の大きなデメリットが露呈
- スペック・工事費・工期の全体最適化に失敗
- 性能発注方式で復活した新国立競技場整備事業
- 復活の鍵は,改正品確法に規定された性能発注方式
- 復活に向けた動きは極めて迅速
- 新国立競技場整備事業成功の歴史的意義
- 【事例研究3】X線天文衛星「ひとみ」の大失敗と小惑星探査機「はやぶさ」の大成功
- X線天文衛星「ひとみ」は国際協力ミッション
- 「ひとみ」は打ち上げに成功した1ヶ月後にバラバラに分解
- 「ひとみ」がバラバラに分解した原因は,ソフトウェアのバグとデータの誤入力
- 「ひとみ」の姿勢測定系の機能設定に大きな問題〜ボトムアップによる部分最適化が主因
- 大成功した小惑星探査機 「はやぶさ」
- 「はやぶさ」の開発スキームは「ひとみ」と同じ
- 「はやぶさ」が遭遇した数多のトラブル
- 「はやぶさ」と「ひとみ」の対比からの教訓
- トップダウンによるプロジェクトの全体最適化が必須
- 製造発注に先立つ設計仕様審査から要求性能審査への移行が必要
- 「はやぶさ」と「ひとみ」のリスクマネジメントとダメージコントロール
- 【事例研究4】外環道大深度地下トンネル工事で調布市内陥没事故が発生
- 陥没事故の概要と経緯
- 陥没事故の主因となった気泡シールド工法
- 仕様発注方式に基づく「あまりにも大雑把な情報化施工」が陥没事故の遠因
- 「現場状況の変化に即応する情報化施工」の実現に欠かせない性能発注方式
- PFI法に基づく公共事業の民営化と性能発注方式
- 1999年に制定・施行されたPFI法
- 公共事業の民営化に欠かせない性能発注方式
- 性能発注の成否を左右する要求水準書
- 2000年代当初は暗中模索で作成された要求水準書
- 工事仕様書の詳細設計内容を文章化したような要求水準書の弊害〜一者応札が頻発
- 価格と技術の両面での競争原理が働く理想的な要求水準書のモデルとなる新潟県見附市の実例
- 新潟県見附市が理想的な要求水準書を作成できた経緯
- 理想的な要求水準書に基づく予定価格の策定方法とその根拠となる規定
- 要求水準書に基づく予定価格の具体的な策定方法
- 会計法の施行令に当たる「予算決算及び会計令」における規定
- 地方自治法とその政令である地方自治法施行令における規定
- 改正品確法における規定
- 性能発注方式の具体的な実践方法
- モデルは宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備事業
- 性能発注方式は合理的で誰でも実践可能
- 前例のない性能発注方式で取り組むことになった経緯
- 我が国初の性能発注方式の合理性とその波及効果
- 性能発注方式を効果的に実践する上での要点
- 性能発注方式の実践に欠かせない発注者ならではの技術力(3つの目利き力)
- シーズの把握力〜発注対象に関連する分野の技術動向を見極める力
- ニーズの把握力〜把握したシーズで解決できる課題を見極める力
- シーズとニーズのマッチング力〜課題解決に適する技術を選択し,その活用により課題解決に向けて期待される効果を的確に予見する力
- 関係者の意志統一を図る概要設計書の作成
- 新国立競技場整備事業と零戦開発における関係者の意志統一の実際
- 概要設計書作成プロセスでニーズとシーズをベストマッチング
- 概要設計書に記載する三項目〜現状の課題,課題解決方策の概要,課題解決で期待される効果
- 価格と技術の両面での競争原理が働く理想的な要求水準書の作成
- 概要設計書に記載した「課題解決方策の概要」に基づき作成
- 発注者が実現を求める「機能と性能の要求要件」を漏れなく記載
- 受注者の創意工夫に委ねるべき設計には決して立ち入らない
- 性能要件間のトレードオフ関係に注意して全体最適化を図る
- 受注者が設計と製造(or施工)を行う上で必要十分となる情報を提供
- 「承認図書」の記載内容と提出義務を明記
- 「ターゲット発見システム整備事業」をモデルとした概要設計書と要求水準書の記載例
- ターゲット発見システム整備事業をモデル事例とした理由
- ターゲット発見システム整備事業の概要設計書の記載例
- ターゲット発見システム整備事業の要求水準書の記載例
- モデルは宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備事業
- ◎ 質疑応答
セミナー講師
澤田雅之 氏
澤田雅之技術士事務所 所長
技術士(電気電子部門)
1953年生。1978年に京都大学(院)工学研究科修士課程を修了し,警察情報通信部門の技官として警察庁に入庁。2013年に警察大学校警察情報通信研究センター所長を退職。2015年に技術士資格(電気電子部門)を取得して,澤田雅之技術士事務所を開業。
警察では,1996年当時の九州管区警察局宮崎県情報通信部長として,「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム新規整備事業」を,我が国では戦後初となる「性能発注方式」で完遂。この時に得た知見に基づき,その後に情報通信部長として勤務した茨城,宮城,福岡,愛知,神奈川の各県では,建築・土木工事を含む数百件の警察情報通信システム整備事業の全てを「性能発注方式」で完遂。
技術士事務所開業後は,警察での「性能発注方式」の実践と成功で得た知見を社会に幅広く還元していくため,国土交通省,地方自治体,民間団体等で数多の講演を実施。
また,数十年来のライフワークである「性能発注方式」を集大成した書籍【「性能発注方式」発注書制作活用実践法】が,2022年9月に(株)新技術開発センターから出版された。
セミナー受講料
38,000円(消費税込)※テキスト代を含みます。
受講料
38,000円(税込)/人