中国工場と品質:中国人の「わかりました」を鵜呑みにしない

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1. 中国進出の品質リスクとは

  今回は、ある日系企業の中国工場進出についての事例です。この企業は、これから進出する場所を決定するとのことで、場所は広東省の東莞市または深セン市までは決っているが、その中のどこにするかで悩んでいました。東莞/深センと言っても広いので、場所によってずいぶん条件が違ってきますので、慎重に選ぶことが必要です。
 
 進出する理由は、競合(同じ日系)が既に進出して広く展開していること。そして、顧客の多くが中国に進出しているので、それら顧客へのサービス/対応強化と言っていました。中国に進出した日系企業のほとんどで、工場設立時期においては品質トラブルが多発して、自社はもちろん顧客にも迷惑を掛けることが起きているので十分注意が必要であることを話しました。日本と同じ設備、機械を持ってきているから大丈夫だと言っているにも関わらず、多くの企業で品質トラブルが多発している事例を紹介しました。
 
 設備や機械は持ってきても、そのオペレーションに関わるノウハウや細かい勘所を持っていかない。また、それらを持っている人を連れてこない。中国の人に仕事をしてもらう時のこつやポイントを誰も知らない。これを1から学んでいたらいくら時間があっても足りません。これらについて、事前に調べ、既に進出している企業に教えてもらうこと、専門家の力を借りることが必要です。
 
 この企業は現在中国で全く生産していない訳ではなく、別の日系企業の工場に委託して1部加工を行なっているのです。この会社では、他の日系企業に委託している1部加工について、その管理と指導を自社でやることを考えていました。事前に指導や管理のノウハウを習得するのが目的とのことです。
 
 自社で管理をやってみるのはよいことですが、中国工場立上げ時の品質トラブル、品質リスクについての次のような事前検討が必要です。
 
 中国
 

2. 中国工場の品質管理

 次は、材料について考えます。 ここで材料の定義をします。ここで言う材料とは、中国メーカーが作っている部品や材料とします。日系中国工場が生産したものも中国製の部品や材料と言えますが、ここではそれは含まないものとします。
 
 中国に進出した日系企業は、当初は生産に投入する部品や原材料を日本から送り込んでいました。しかし、日本からの運賃などの費用を考えると、これではメリットありませんでした。加工賃だけでは競合と差別化できなくなってきたということもあります。自分のところが後追いで中国に出た場合もあるでしょう。
 
 そのようなことから中国現地で調達出来る原材料や部品を使用することになってきます。 これがいわゆる現地調達です。
 
 現地調達も最初は日系中国工場から買いますが、段々と香港系、台湾系、韓国系企業から買うようになります。しかし、顧客からのコストダウン要求は厳しさを増すばかりなので、それに対応するために中国企業からの調達が増加するのが現実です。現実に多くの企業で中国製の部材の使用をしています。
 
 中国製の部材は、今まで使っていた日本製のそれに比べるとコストは安いのですが、品質は悪い。日本製部材では起きなかった不具合が発生することがあります。
 
 その品質の悪さを使う側で消化しきれずにいると、加工した製品や部品の品質が悪くなるのです。 このように日本で生産していたときには使っていなかった中国製の部材を使うことで、その品質の悪さを吸収しきれずに、自社の製品・部品の品質が悪くなるのが、中国進出の材料によるリスク要素です。
 
 使う側でも中国部材の品質改善のために指導を行っているのですが、相手が中国メーカーの場合、そう簡単にことは運びません。多くの日系企業が苦労しています。中国メーカーの指導に関しては、この連載の別の機会に解説します。
 

3. 中国人の「わかりました」を鵜呑みにするな

 仕入先のある部品で同じ現象の不良が、立て続けに3件発生しました。 工場から連絡を受けてすぐにメーカーさんに一報を入れました。実際はその部品を担当する部下の中国人から連絡を入れました。 一報を入れるときに、どのような内容で連絡を入れるかを確認のため聞いてみました。
 
(わたし=A):どのような内容(要求)の連絡にするの?
(部下=B):原因対策と不良対象範囲の特定を要求します。
 
A:いつまでに。 B:4,5日は掛かると思います。 A:そうかもしれない。でもそんなに待てるの? B:・・・・・
A:今すぐこのメーカーが出来ることは何だろう? B:工程変化点の調査、検査データの確認です。
A:他には?
B:・・・・・。不良現品の確認です。
A:他には?
B:・・・・・
A:キープサンプルで再現試験などの確認できるよね。
B:そうですね。
A:それじゃ、この内容でメーカーさんに連絡してください。
B:わかりました!
 
 その後、担当者からメーカーさんに入れたEメールを見て、愕然としました。ついさっき打合せし...

1. 中国進出の品質リスクとは

  今回は、ある日系企業の中国工場進出についての事例です。この企業は、これから進出する場所を決定するとのことで、場所は広東省の東莞市または深セン市までは決っているが、その中のどこにするかで悩んでいました。東莞/深センと言っても広いので、場所によってずいぶん条件が違ってきますので、慎重に選ぶことが必要です。
 
 進出する理由は、競合(同じ日系)が既に進出して広く展開していること。そして、顧客の多くが中国に進出しているので、それら顧客へのサービス/対応強化と言っていました。中国に進出した日系企業のほとんどで、工場設立時期においては品質トラブルが多発して、自社はもちろん顧客にも迷惑を掛けることが起きているので十分注意が必要であることを話しました。日本と同じ設備、機械を持ってきているから大丈夫だと言っているにも関わらず、多くの企業で品質トラブルが多発している事例を紹介しました。
 
 設備や機械は持ってきても、そのオペレーションに関わるノウハウや細かい勘所を持っていかない。また、それらを持っている人を連れてこない。中国の人に仕事をしてもらう時のこつやポイントを誰も知らない。これを1から学んでいたらいくら時間があっても足りません。これらについて、事前に調べ、既に進出している企業に教えてもらうこと、専門家の力を借りることが必要です。
 
 この企業は現在中国で全く生産していない訳ではなく、別の日系企業の工場に委託して1部加工を行なっているのです。この会社では、他の日系企業に委託している1部加工について、その管理と指導を自社でやることを考えていました。事前に指導や管理のノウハウを習得するのが目的とのことです。
 
 自社で管理をやってみるのはよいことですが、中国工場立上げ時の品質トラブル、品質リスクについての次のような事前検討が必要です。
 
 中国
 

2. 中国工場の品質管理

 次は、材料について考えます。 ここで材料の定義をします。ここで言う材料とは、中国メーカーが作っている部品や材料とします。日系中国工場が生産したものも中国製の部品や材料と言えますが、ここではそれは含まないものとします。
 
 中国に進出した日系企業は、当初は生産に投入する部品や原材料を日本から送り込んでいました。しかし、日本からの運賃などの費用を考えると、これではメリットありませんでした。加工賃だけでは競合と差別化できなくなってきたということもあります。自分のところが後追いで中国に出た場合もあるでしょう。
 
 そのようなことから中国現地で調達出来る原材料や部品を使用することになってきます。 これがいわゆる現地調達です。
 
 現地調達も最初は日系中国工場から買いますが、段々と香港系、台湾系、韓国系企業から買うようになります。しかし、顧客からのコストダウン要求は厳しさを増すばかりなので、それに対応するために中国企業からの調達が増加するのが現実です。現実に多くの企業で中国製の部材の使用をしています。
 
 中国製の部材は、今まで使っていた日本製のそれに比べるとコストは安いのですが、品質は悪い。日本製部材では起きなかった不具合が発生することがあります。
 
 その品質の悪さを使う側で消化しきれずにいると、加工した製品や部品の品質が悪くなるのです。 このように日本で生産していたときには使っていなかった中国製の部材を使うことで、その品質の悪さを吸収しきれずに、自社の製品・部品の品質が悪くなるのが、中国進出の材料によるリスク要素です。
 
 使う側でも中国部材の品質改善のために指導を行っているのですが、相手が中国メーカーの場合、そう簡単にことは運びません。多くの日系企業が苦労しています。中国メーカーの指導に関しては、この連載の別の機会に解説します。
 

3. 中国人の「わかりました」を鵜呑みにするな

 仕入先のある部品で同じ現象の不良が、立て続けに3件発生しました。 工場から連絡を受けてすぐにメーカーさんに一報を入れました。実際はその部品を担当する部下の中国人から連絡を入れました。 一報を入れるときに、どのような内容で連絡を入れるかを確認のため聞いてみました。
 
(わたし=A):どのような内容(要求)の連絡にするの?
(部下=B):原因対策と不良対象範囲の特定を要求します。
 
A:いつまでに。 B:4,5日は掛かると思います。 A:そうかもしれない。でもそんなに待てるの? B:・・・・・
A:今すぐこのメーカーが出来ることは何だろう? B:工程変化点の調査、検査データの確認です。
A:他には?
B:・・・・・。不良現品の確認です。
A:他には?
B:・・・・・
A:キープサンプルで再現試験などの確認できるよね。
B:そうですね。
A:それじゃ、この内容でメーカーさんに連絡してください。
B:わかりました!
 
 その後、担当者からメーカーさんに入れたEメールを見て、愕然としました。ついさっき打合せして、「わかりました」と言ったのに、 先方に依頼するとした6項目の内、4項目しか書いてなかったのです。中国人が「わかりました」といっても、 わかっていないということをまた経験した出来事でした。 何回目のことだろうか。
 
 この手の話は前からいろいろな人が言っていますが、まだまだ現実に起きる話です。このような失敗をしないためには、逐次確認をすることです。この場合なら、打合せの後に、何をメーカーさんに依頼(要求)事項として 連絡しますか?と言うふうにです。
 
 そして、出来たものをきちんとチェックしていくことです。 ここで手を抜いてはダメです。そのスタッフに聞いてみた。 どうしてさっき打合せして決めた項目を連絡しなかったのか?
 
 連絡を入れているメーカーのスタッフは、品管のスタッフだから こちらから要求しなくても当然やってくれると思ったので、との言い訳でした。次のように説明し、言い聞かせました。
 
・それは自分で判断しないこと。例えそうであっても、相手がわかっていても、 それでも書いて依頼する方がより確実で間違いがない。
・「わかりました」と言うのは約束の言葉ですよ。
 
 次回も、中国工場と品質のテーマで解説を続けます。
 

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この記事の著者

根本 隆吉

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改善・再構築を第一の使命と考え皆様を支援します。

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