輸配送改善のポイント(その1)

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1. 物流発生コストを把握する

 物流コストの約6割を占めるといわれる輸配送ですが、ここについて何とかしたいがどのような取組が必要か。このようなご質問をよくいただきます。会社の中では物流コストを何とかしろ、といわれます。いい方は「何とかしろ」です。このような指示を受けた部下は大変困惑するのではないでしょうか。
 
 本来ならば今の物流コストの水準が明確になっている必要があります。今、このレベルにある物流コストをここまで下げたい、だから輸配送のコストはこの水準にする必要がある、と理論的に説明できる会社はよいのですが。実際のところ多くの会社で物流コストの水準があいまいで、毎月いくら発生しているのかを即答できない会社も多々あります。そこで、何となく物流コストを下げたいと考えられている会社は、まず自社の立ち位置を明確にする必要がありそうです。
 
 物流コスト改善は、ここからスタートします。物流に対する認識として、その是非は別としても他の経営課題と同レベルにある会社は稀です。ここまでサプライチェーンマネジメントが重要といわれてきてもその意味が理解できず、サプライチェーンの一部たる物流を「コスト」として認識しているのです。
 
 物流は会社の何かしらの活動と紐づけられています。顧客に小ロット納入を行う必要性から物流コストがかかっている場合があります。この例では必ずしも物流コストが「悪い」というわけではありません。顧客へのサービスを高めるために必要なコストという位置づけだからです。
 
 物流コストだけに注目し、それを効率化してしまったら顧客へのサービス水準が低下してしまった。このような事態は本末転倒です。物流コストは下げる必要があるのは事実ですが、物流でお金をかけることでもっと大切なことを支えているのかもしれません。まずは発生コストを把握すると同時に、そのコストがムダなコストなのか、バリューにつながるコストなのかは整理しておく必要がありそうです。
 
  SCM
 

2. 「輸送価格」「輸送距離」を小さくする

 輸配送のコストを構成する3要素についてお話をしたいと思います。その3つとは「輸送価格」「輸送距離」「輸送量」です。もし輸配送コストを下げたいのであればこのいずれかを小さくする活動が求められます。それでは1つずつ確認していきましょう。
 
 まず、「輸送価格」について。最近この価格はドライバー不足の影響で上昇しつつあります。これは需要と供給の関係で担い手がいなければその人たちの給料を上げなければ人は集まらないということの結果です。従業員の給与改善を価格に転嫁するという行為の是非は論議の余地がありますが、物流業や飲食業などは実際に価格への転嫁を実施しています。物流業は労働時間が長いにもかかわらず給料が安い業界です。この構図を変えなければ人は集まりません。建設業がたどってきた道と同じ道を物流が歩いていると考えられます。
 
 さて、輸送をアウトソースしている会社によっては物流価格の水準を知らないために高買いしている場合もあります。一般的に今の価格の水準は市場が決めることになります。まずはいくつかの運送会社から見積もりを取ってみましょう。大手にこだわらず、中小の事業者からも見積もりを取得することをお勧めします。筆者の周りの会社でもこれだけで輸送価格が下がったという会社は何社もあります。まずは輸送価格を適正化することから始めてみてはいかがでしょうか。
 
 次に、「輸送距離」です。輸送距離といったとたんに「それは無理」と考える方が多いようです。しかし本当に無理なのでしょうか。ある会社は製造に必要な部品を半径50km程度の近隣に存在する会社からだけ購入するという購買方針を立てました。これは部品調達時の輸送を考慮し、取った戦略であると解釈できます。
 
 また、配送センターの立地も距離短縮の1つの方策です。配送センターまではトラック満載で運び、配送センターからは細い流れで顧客まで運ぶことになります。当然後者の方が輸送効率は悪くなりがちですから、そのようなルートを短縮するという方策です。さらに自社工場内にサプライヤーを引き込んで、そこで生産してもらうことで調達距離を限りなくゼロに近づける方策があります。組み立てると大きな部品になり、荷姿効率を低下させるものについてはこのような方策が生きてきます。
 

3. 「輸送量」を減らす工夫

 輸配送コストを削減するための視点の3つ目が「輸送量」を減らすことです。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、モノを運ばなければ輸配送コストは発生しません。モノを小さく、軽くすることでコストを小さくすることが可能になるのです。よくメーカーは製品の軽量化を研究しています。たとえば自動車は重量を軽くすることで燃費がよくなります。製品の性能を向上することでエネルギー消費を抑えることができるのです。物流でもこれと類似した発想を持ってもよいのではないでしょうか。
 
 輸配送コストを軽減するために運ぶモノを「小さくする・軽くする」のです。これを意識した製品設計やモノづくり、荷姿づくりに取り組むのです。比較的容易に取り組むことができるのが「荷姿改善」です。荷姿を小さくする・軽くすることは物流スタッフの業務範囲でできることです。
 
 一...

1. 物流発生コストを把握する

 物流コストの約6割を占めるといわれる輸配送ですが、ここについて何とかしたいがどのような取組が必要か。このようなご質問をよくいただきます。会社の中では物流コストを何とかしろ、といわれます。いい方は「何とかしろ」です。このような指示を受けた部下は大変困惑するのではないでしょうか。
 
 本来ならば今の物流コストの水準が明確になっている必要があります。今、このレベルにある物流コストをここまで下げたい、だから輸配送のコストはこの水準にする必要がある、と理論的に説明できる会社はよいのですが。実際のところ多くの会社で物流コストの水準があいまいで、毎月いくら発生しているのかを即答できない会社も多々あります。そこで、何となく物流コストを下げたいと考えられている会社は、まず自社の立ち位置を明確にする必要がありそうです。
 
 物流コスト改善は、ここからスタートします。物流に対する認識として、その是非は別としても他の経営課題と同レベルにある会社は稀です。ここまでサプライチェーンマネジメントが重要といわれてきてもその意味が理解できず、サプライチェーンの一部たる物流を「コスト」として認識しているのです。
 
 物流は会社の何かしらの活動と紐づけられています。顧客に小ロット納入を行う必要性から物流コストがかかっている場合があります。この例では必ずしも物流コストが「悪い」というわけではありません。顧客へのサービスを高めるために必要なコストという位置づけだからです。
 
 物流コストだけに注目し、それを効率化してしまったら顧客へのサービス水準が低下してしまった。このような事態は本末転倒です。物流コストは下げる必要があるのは事実ですが、物流でお金をかけることでもっと大切なことを支えているのかもしれません。まずは発生コストを把握すると同時に、そのコストがムダなコストなのか、バリューにつながるコストなのかは整理しておく必要がありそうです。
 
  SCM
 

2. 「輸送価格」「輸送距離」を小さくする

 輸配送のコストを構成する3要素についてお話をしたいと思います。その3つとは「輸送価格」「輸送距離」「輸送量」です。もし輸配送コストを下げたいのであればこのいずれかを小さくする活動が求められます。それでは1つずつ確認していきましょう。
 
 まず、「輸送価格」について。最近この価格はドライバー不足の影響で上昇しつつあります。これは需要と供給の関係で担い手がいなければその人たちの給料を上げなければ人は集まらないということの結果です。従業員の給与改善を価格に転嫁するという行為の是非は論議の余地がありますが、物流業や飲食業などは実際に価格への転嫁を実施しています。物流業は労働時間が長いにもかかわらず給料が安い業界です。この構図を変えなければ人は集まりません。建設業がたどってきた道と同じ道を物流が歩いていると考えられます。
 
 さて、輸送をアウトソースしている会社によっては物流価格の水準を知らないために高買いしている場合もあります。一般的に今の価格の水準は市場が決めることになります。まずはいくつかの運送会社から見積もりを取ってみましょう。大手にこだわらず、中小の事業者からも見積もりを取得することをお勧めします。筆者の周りの会社でもこれだけで輸送価格が下がったという会社は何社もあります。まずは輸送価格を適正化することから始めてみてはいかがでしょうか。
 
 次に、「輸送距離」です。輸送距離といったとたんに「それは無理」と考える方が多いようです。しかし本当に無理なのでしょうか。ある会社は製造に必要な部品を半径50km程度の近隣に存在する会社からだけ購入するという購買方針を立てました。これは部品調達時の輸送を考慮し、取った戦略であると解釈できます。
 
 また、配送センターの立地も距離短縮の1つの方策です。配送センターまではトラック満載で運び、配送センターからは細い流れで顧客まで運ぶことになります。当然後者の方が輸送効率は悪くなりがちですから、そのようなルートを短縮するという方策です。さらに自社工場内にサプライヤーを引き込んで、そこで生産してもらうことで調達距離を限りなくゼロに近づける方策があります。組み立てると大きな部品になり、荷姿効率を低下させるものについてはこのような方策が生きてきます。
 

3. 「輸送量」を減らす工夫

 輸配送コストを削減するための視点の3つ目が「輸送量」を減らすことです。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、モノを運ばなければ輸配送コストは発生しません。モノを小さく、軽くすることでコストを小さくすることが可能になるのです。よくメーカーは製品の軽量化を研究しています。たとえば自動車は重量を軽くすることで燃費がよくなります。製品の性能を向上することでエネルギー消費を抑えることができるのです。物流でもこれと類似した発想を持ってもよいのではないでしょうか。
 
 輸配送コストを軽減するために運ぶモノを「小さくする・軽くする」のです。これを意識した製品設計やモノづくり、荷姿づくりに取り組むのです。比較的容易に取り組むことができるのが「荷姿改善」です。荷姿を小さくする・軽くすることは物流スタッフの業務範囲でできることです。
 
 一つの箱にいかに多くのモノを入れられるか。これを追求することでモノ1個あたりの容積が縮まります。製品の重量を変更できなくても容器の重量は物流スタッフの意識で変更することができます。鉄製容器を使っている会社は多々ありますが、このような場合、製品重量より容器重量の方が重いことがあります。
 
 このようなことに気づくためにはきちんと荷姿重量をデータ化する必要があります。荷姿重量は製品重量に容器重量を加えたものです。物流担当者が考えなければならないのは、この容器の部分を軽くする工夫です。ですから今輸配送を行っている製品に関し、一度荷姿データを作りこむ努力をしてみることをお勧めします。
 
 また、荷姿データを作成すると面白いことに気づくことがあります。それは路線便の価格表と荷姿データを比較した時の気づきです。製品単位当たりの輸配送価格について見ていくと、あと1サイズ小さくすれば価格的に有利になる場合、逆に1サイズアップすれば有利になる場合があるのです。ですから価格表に合わせて出荷荷姿を変更する改善を行うのです。これは比較的簡単にできる改善ですからぜひ取り組んでみて下さい。そして物流担当者だけでやるべき改善が尽きたと思ったら次の手に打って出ます。
 
 次回も、輸配送改善のポイントの解説を続けます。
  

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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