感性工学を構成する要素 :新環境経営 (その36)

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 前回紹介した、「感性工学」の役割の中では触れなかったが、「感性工学」で人々の物の考え方を変えていこう、しかも技術の立場から変えていこうとの考えがあります。政治システムや教育システムから変えていくよりも、技術の力の方が現代社会に適しているという考えです。技術は毎日人々が使う道具であり、そしてその道具として、対話型の技術を導入します。対話型の技術は、使っているうちに、やりとりの大切さ、他者との価値交換の重変性に気づかせてくれます。技術の立場から人々の物の考え方を変えていくということは、IT技術の進展や、脳科学の進歩の上に「感性工学」を位置付けることになり、情報技術や脳科学の要素も取り込むことになりますが、まずは「感性工学」を構成する要素の「素材戦略」と「感性産業」について解説します。
 

1.「感性工学」の素材戦略

 素材戦略は、日本学術会議の専門委員会が、平成17年8月30日に「現代社会における感性工学の役割」として報告書にまとめています。以下報告書より要約します。
 
 昨今の社会の現状を艦みるに、物質科学技術のみによって我々の欲求を満足させているだけでは、持続性のある生活を送ることは難しい状況となっています。我々がより豊かな人生を送るためには物質的な豊かさに加えて、潤いや安らぎのある精神的豊かさが不可欠です。
 
 モノは、物質でできているが、モノを単にモノとして作る特代は終わりました。モノは、我々の人生に豊かさをもたらすモノでなければなりません。つまり環境を汚染したり、人問に精神的なストレスを与えたりするようなモノは作らないようにしなければなりません。これまでの工業化社会では、より多くより安くを目指して大量のモノを作りだし、使い終わった後のリサイクルや廃棄処理についてはトライ&エラーで処理してきました。DFE(デザイン・フォー・エンジニアリング)の取り組みで、設計段階で、リサイクルや廃棄処理を考慮して、解体しやすい様に設計する取り組みは行われてきましたが、感性工学ではさらに一歩進めて、素材そのものあり方について、述べられています。
 
 モノを作るためには材料が必要となり、モノが有する機能・形態・構造はそこに使用される材料によって規定されます。使用する材料が変わればその性質も異なるため、モノが果たす機能や形態は自ずと変化せざるを得ません。
 
 1.どのようにして作られるのか(加工法)、2.どのような役割を果たしているのか(機能)、3.なぜそのような形になっているのか(形態)というように、「加工法・機能・形態」との関わりの中で材料を把握する必要があります。いいかえれば、モノを形づくる材料には、様々な「生産条件」と共に「機能の
充足」や「加工技術との適合性」が要求され、これらを形態と有機的に関係づけていく必要があります。
 

2.「感性工学」が創出する感性産業

 日本学術会議の専門委員会が、平成17年8月30日に「現代社会における感性工学の役割」として報告書にまとめています。以下報告書より要約します。
 
 消費型産業から感性産業へ。モノ作りの工業化は、安価で良いものを得たいという人間の物質取得欲求に合致しており、なおかつ戦後の貧しい状態から技け出したいという我々の労働意欲も手伝って、高度に発達した。しかし工業化も成熟期に入った今となっては、既製品としてのモノ作りの中心基地は中国や東南アジアあるいはインドに移っており、我が国におけるモノ作りは、現在空洞化の時代を迎えており、転換期にあると言えます。このような状態は危機的であると同時に新しいビジネスチャンスでもあるわけで、積極的な我々の対応が求められます。
 
 環境問題、食糧・エネルギー不足あるいは種々の紛争を見る限り、我々は非常にせっば詰まった危機的状態にあります。大量生産の工業化技術をさらに進展させることで、現在の危機を乗り越えることができるかと問われれば、否でしょうか。我々は、大量生産大量消費の時代から、次の時代に進まなければなりません。
 
 産業の在り方を、現在のような見込大量生産垂れ流し方式(見込み生産、大...
CSR
 前回紹介した、「感性工学」の役割の中では触れなかったが、「感性工学」で人々の物の考え方を変えていこう、しかも技術の立場から変えていこうとの考えがあります。政治システムや教育システムから変えていくよりも、技術の力の方が現代社会に適しているという考えです。技術は毎日人々が使う道具であり、そしてその道具として、対話型の技術を導入します。対話型の技術は、使っているうちに、やりとりの大切さ、他者との価値交換の重変性に気づかせてくれます。技術の立場から人々の物の考え方を変えていくということは、IT技術の進展や、脳科学の進歩の上に「感性工学」を位置付けることになり、情報技術や脳科学の要素も取り込むことになりますが、まずは「感性工学」を構成する要素の「素材戦略」と「感性産業」について解説します。
 

1.「感性工学」の素材戦略

 素材戦略は、日本学術会議の専門委員会が、平成17年8月30日に「現代社会における感性工学の役割」として報告書にまとめています。以下報告書より要約します。
 
 昨今の社会の現状を艦みるに、物質科学技術のみによって我々の欲求を満足させているだけでは、持続性のある生活を送ることは難しい状況となっています。我々がより豊かな人生を送るためには物質的な豊かさに加えて、潤いや安らぎのある精神的豊かさが不可欠です。
 
 モノは、物質でできているが、モノを単にモノとして作る特代は終わりました。モノは、我々の人生に豊かさをもたらすモノでなければなりません。つまり環境を汚染したり、人問に精神的なストレスを与えたりするようなモノは作らないようにしなければなりません。これまでの工業化社会では、より多くより安くを目指して大量のモノを作りだし、使い終わった後のリサイクルや廃棄処理についてはトライ&エラーで処理してきました。DFE(デザイン・フォー・エンジニアリング)の取り組みで、設計段階で、リサイクルや廃棄処理を考慮して、解体しやすい様に設計する取り組みは行われてきましたが、感性工学ではさらに一歩進めて、素材そのものあり方について、述べられています。
 
 モノを作るためには材料が必要となり、モノが有する機能・形態・構造はそこに使用される材料によって規定されます。使用する材料が変わればその性質も異なるため、モノが果たす機能や形態は自ずと変化せざるを得ません。
 
 1.どのようにして作られるのか(加工法)、2.どのような役割を果たしているのか(機能)、3.なぜそのような形になっているのか(形態)というように、「加工法・機能・形態」との関わりの中で材料を把握する必要があります。いいかえれば、モノを形づくる材料には、様々な「生産条件」と共に「機能の
充足」や「加工技術との適合性」が要求され、これらを形態と有機的に関係づけていく必要があります。
 

2.「感性工学」が創出する感性産業

 日本学術会議の専門委員会が、平成17年8月30日に「現代社会における感性工学の役割」として報告書にまとめています。以下報告書より要約します。
 
 消費型産業から感性産業へ。モノ作りの工業化は、安価で良いものを得たいという人間の物質取得欲求に合致しており、なおかつ戦後の貧しい状態から技け出したいという我々の労働意欲も手伝って、高度に発達した。しかし工業化も成熟期に入った今となっては、既製品としてのモノ作りの中心基地は中国や東南アジアあるいはインドに移っており、我が国におけるモノ作りは、現在空洞化の時代を迎えており、転換期にあると言えます。このような状態は危機的であると同時に新しいビジネスチャンスでもあるわけで、積極的な我々の対応が求められます。
 
 環境問題、食糧・エネルギー不足あるいは種々の紛争を見る限り、我々は非常にせっば詰まった危機的状態にあります。大量生産の工業化技術をさらに進展させることで、現在の危機を乗り越えることができるかと問われれば、否でしょうか。我々は、大量生産大量消費の時代から、次の時代に進まなければなりません。
 
 産業の在り方を、現在のような見込大量生産垂れ流し方式(見込み生産、大量生産、ブロダクトアウトの垂れ流しによる生産方式/生産者側から消費者側への一方通行の商品の流れを垂れ流しと表現)から、対話型設計生産方式に変えることにより、我々の意識を物質取得欲求から対話欲求(心情や考え方を交換する欲求)へと転換されることが期待されます。
 
 対話型設計生産方式とは、生産される商品は固有の消費者を想定したモノであるので、生産者と消費者とは、直接のやりとりによって、生産者の考え方、消費者の状況や想いを交換してモノ作りをする方法です。ITが未発達の時代には、垂れ流し方式やむなしでしたが、高度にITが発達したポスト工業化社会である現在では、多様なニーズに対応して、オン・デマンド(需要応答)で、対話型設計生産方式により、生産者から消費者に直接届けられます。
 
 今回は、感性工学の要素である、「素材戦略」と「創出される感性産業」について紹介しました。次回は、「脳が作りだす感性工学の世界」と「感性工学が拓く情報技術」について解説します。
   

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この記事の著者

石原 和憲

人と地域をつなぐ、交流型イノベーター

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