【ものづくりの現場から】未来のものづくりを切り拓く: ノーコード型プラットフォームと製造業の新たな一歩(Things)

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私たちのシリーズ「ものづくりの現場から」では、現場の課題や解決策に焦点を当て、ものづくりの進歩に役立つ情報を提供しています。今回は、製造業専門の製品開発プラットフォームを展開している東京都品川区の株式会社Thingsにスポットを当てます。

この記事のハイライト  

・顧客の課題を解決する製品開発の具体例

 

1.概要

2021年に設立された株式会社Thingsは、製造業向けのソリューションを開発しています。
中堅の加工組立型製造業者向けにフルクラウド/ノーコード型の製品開発プラットフォーム「PRISM」を提供し、2023年3月にプレシリーズAラウンドで合計2.2億円の資金を調達しました。

 

ノーコード型とは

ノーコードとは、ソースコードを記述せずにコンピューターアプリケーションを開発することが可能なサービスのことを指します。ノーコードによりソースコードの記述が不要となるため、開発期間を大幅に短縮することが可能です。このような特性は、たとえば従来のERP(基幹業務システム)では機能の変更に多くの時間が必要であったところ、ノーコード型プラットフォームを用いることで大幅に作業効率を向上させることができます。

 


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2.プラットフォームの誕生背景

Thingsの創業者で代表を務める鈴木氏は、大学で機械工学を学び、大学院に進学、その後、三菱商事株式会社でドバイ向け鉄道プロジェクトやトルクメニスタン向け化学プラントのプロジェクトマネージャーとして活躍しました。
その後AlphaTheta株式会社(旧Pioneer DJ株式会社)でDX推進リード、FOVE, Inc.(視線追跡機能付きVRヘッドセットの開発会社)のCOOとして資金調達と事業開開発を手掛けました。
その経験は、彼の幅広いものづくりの経験を形成し、Thingsの創業へとつながりました。

 

株式会社Things鈴木代表のキャリア

図、鈴木代表の幅広いものづくり経験 (同社報道資料から)

 

鈴木氏は、大企業やファブレス企業、ハードウェアスタートアップでの経験を通じて、製造業界に共通の課題が存在することに気付きました。
それを次のような事例で説明してくれました。

図:製造業で発生する一般的な問題ケース

 

製造業で発生する一般的な問題ケース

①納期直前に間違えた部品で現地据え付けしたことが発覚。
②大慌てで出張
③現地で備品の交換作業を実施

上記のケースは、日本で製造された製品を海外で組み立てる際に実際に発生したものです。
なお、緊急の出張は10名が関与したとのこと。これらの問題はコストの増大や納期への影響をもたらし、深刻な結果となります。

これらの問題は、製造業の特性である「初期の品質が拡大・再生産される」という事実と直結しています。問題解決の鍵は「データの正確な管理と共有」です。
現在、大企業は専用システムや大規模ERPシステムを導入してこれに対応していますが、中小企業やスタートアップは表計算ソフトや汎用データベースソフトを使用しています。

しかし、大規模システムは保守コストが高く、表計算ソフトや汎用データベースソフトは管理が個々人依存になりやすい問題があります。また、どちらの方法も情報の利用が部門間で閉じられがちであり、全社での情報活用が難しいという問題があります。

こうした課題を解決するため、鈴木氏はThingsを創業し、「PRISM」という製品開発プラットフォームを開発しました。このプラットフォームは、以下の特性を持つことを目指しています。

1,多様なフォーマットの製造関連情報を連携できる。
2,必要な情報を安全に共有できる。
3,ユーザーフレンドリーで、利用者が自然に使いたくなるUI/UXを実現する。

 

フルクラウドSaaSBOM PRISM

図、各種ファイル、システムと連携できるプラットフォーム

 

BOMとは

BOM(Bill Of Materials)は、「部品表」や「部品構成表」を指すものです。これは製造業で、製品の製造に要する部品情報やその構成に関する重要な基礎情報として扱われます。製造過程の設計段階から調達スケジュール、工程管理、原価管理まで幅広く利用されています。

一昔前までは、図面があれば製品が作れるという考え方もありましたが、今日では、製品構造の複雑化や個人依存の課題などから、BOMの可視化が多くの企業にとって重要となっています。Excelや図面への手書き情報ではなく、ITを活用した業務としてBOMのシステム化は、製品製造における鍵となる要素であると言えます。

しかし、現在の工場現場では部門別にばらばらのBOMが運用されていることも多く、統合には各BOMを整合させるためのコード番号のルールや名称、寸法などの仕様記載方法の統一などが必要です。

したがって、各部門を横断して安全にデータにアクセスできる共有性と情報統一に向けて使いやすいUIが求められています。

 


関連記事 生産資材管理システムのIT化  原価管理と部品表(BOM)  化学産業のE-BOM、M-BOMについて


 

3.製品開発に不可欠な、使い手(顧客)の視点

Thingsが提供するプラットフォームの大きな特徴の一つは、顧客視点に立った設計です。
代表自身が現場で大量のドキュメントハンドリングに追われ、課題を直に体験してきたことが顧客視点での設計志向につながっています。
それは「使いやすさ」を超え、「使いたくなる」UI/UXそしてCXの実現を目指す開発姿勢を反映しています。

UI/UX/CXとは

図、UI、UX,CXの関係図(筆者作成)

 


関連記事 ユーザーエクスペリエンス(UX)


 

この視点は、ハードウェア/ソフトウェアを問わず、製品開発において非常に重要なポイントです。

 

 

4.「あうんの呼吸」を取り戻す

同社の報道資料では、"あうんの呼吸"(互いの無言のコミュニケーションで共感し合う状態)がある現場が優れたハードウェアを生み出す世界を目指していることが説明されています。

 

DXで活きる人の付加価値

図、”あうんの呼吸”が現場に戻る (同社報道資料より)

 

「かつて日本の経済をけん引していたのは、"あうんの呼吸"のある日本型の組織でした。それは海外でも称賛され、ベストプラクティスとして採用されていました。しかし、IT革命や技術の高度化・複雑化により、"あうんの呼吸"を維持することは困難になりました。私たちの目標は、製品製造の過程で生まれるデータを保存し、誰でも自由に扱えるようにするプロダクトを創り出すことです。そして、製品製造に関わる全ての人が同じ視点を共有し、再び"あうんの呼吸"のある現場が優れたハードウェアを世に送り出す世界を目指します。」(資料より引用)

DXによって、人間が提供する付加価値が更に重要なテーマとなっています。そして、製造業のステップアップに必要な要素として、「あうんの呼吸」—人間特有の無言の協調性と統率—の復活が挙げられます。皆さま、この視点についていかがでしょうか?

 

5.結び

製品開発の現場からみたものづくりの取り組みを紹介する本シリーズでは、様々な視点からものづくりについて考えていきます。今回は、株式会社Thingsとその製品開発の取り組みを取り上げました。

製品開発における顧客の視点、UI/UXの重要性、そしてものづくりにおける「あうんの呼吸」の重要性。これらは、株式会社Thingsが追求する価値であり、製造業の現場で日々問い直されるべき視点であると言えるでしょう。

今後も製造業における新たな取り組みや、その取り組みがものづくりにどのような影響を与えているのかを追ってまいります。皆さま、ご一緒に学び、ものづくりを進化させていきましょう。

 

 

【取材に協力いただいた方】

鈴木 敦也 様  株式会社Things founder CEO

鈴木 敦也 様

株式会社Things
founder CEO

【会社概要】

 

・名称 株式会社Things

・所在:東京都品川区

  HP https://things-inc.com/

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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