「P2M」とは

P2Mとは、A Guide to Project and Program Management for Enterprise Innovationの省略形であり、(財)エンジニアリング振興協会が発行し、日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が普及を担当しているプロジェクトおよびプログラム管理の標準ガイドです。 欧米で先行するPMBOK(1985年)やICB(1999年)に対して、純日本製のプロジェクトマネジメント標準として2001年に発行されました。 複数のプロジェクトを組み合わせたプログラムと呼ぶ大きな統合活動を扱う点と、経営、戦略の視点を取り入れた点に特徴があります。

P2Mが誕生した背景には、20世紀後半の日本経済が直面した「モノづくりからコトづくりへの転換」という切実な課題があった。従来のプロジェクトマネジメント(PM)が「決められた仕様を、いかに効率よく、納期通りに完成させるか」という戦術的な側面を重視していたのに対し、P2Mは「不確実な環境下で、いかにして新しい価値(ミッション)を創造するか」という戦略的な視点に立脚している。

 

1. プログラムマネジメントの真髄

P2Mの最大の特徴は、個別のプロジェクトの上位概念として「プログラム」を定義したことにある。ここで言うプログラムとは、単なるプロジェクトの集合体ではない。特定の事業目的や社会的なミッションを達成するために、複数のプロジェクトを有機的に組み合わせ、全体として最大の価値を生み出すための「統合的な活動」を指す。

例えば、新しいスマートシティを構築するという巨大なミッションがあるとする。そこには「インフラ整備」「ITシステム構築」「住民サービス開発」といった個別のプロジェクトが存在するが、これらをバラバラに完結させても街としての価値は生まれない。これらを全体最適の視点で統合し、当初のビジョンを実現へと導くのがプログラムマネジメントの役割である。

 

2. P2Mを支える「3層構造」のフレームワーク

P2Mの理論体系を理解する上で欠かせないのが、価値創造のプロセスを3つの階層で捉える考え方である。

  • スキーム・マネジメント(構想層) 不透明な現状から「あるべき姿」を描き、ビジネスモデルや事業の全体像を設計する段階である。ここでは、創造性や洞察力が求められ、何が真の課題であるかを定義する力が問われる。
  • システム・マネジメント(実行層) スキームで描かれた構想を、具体的な実行プランへと落とし込む段階である。IT、建築、組織開発など、多種多様な要素を一つの「システム」として機能させるためのアーキテクチャ設計を行う。
  • サービス・マネジメント(運用・評価層) 構築されたシステムを実際に運用し、ユーザーや社会に対して価値を提供し続ける段階である。P2Mでは「作って終わり」ではなく、その後の運用で得られる成果(アウトカム)までをマネジメントの範囲に含めている点が極めてユニークである。

 

3. 「使命(ミッション)」から「価値(バリュー)」への変換

P2Mのもう一つの核心は、マネジメントの目的を「Q(品質)C(コスト)D(納期)」の遵守から、「ミッションの達成」へと昇華させた点にある。 従来のPMが「制約条件との戦い」であったのに対し、P2Mは「価値創造への挑戦」である。プロジェクトの進行中に環境が変化した場合、従来のPMでは計画変更はリスクと見なされるが、P2Mではミッション達成のために最適なルートを再構成する柔軟性が重視される。この「不確実性への適応力」こそが、複雑化する現代のビジネスシーンにおいてP2Mが注目され続ける理由である。

 

4. プロフェッショナルとしての「人間力」

P2Mは手法(メソッド)の提供に留まらず、それを遂行する人間側の資質についても言及している。プログラムマネジャーには、高度な論理的思考力(リテラシー)だけでなく、ステークホルダーとの利害を調整し、チームを牽引する高いコミュニケーション能力や倫理観、すなわち「人間力」が不可欠であると説いている。これは、和の精神や組織の調和を重んじる日本発の標準ならではの視点と言えるだろう。

 

5. 現代におけるP2Mの意義と展望

現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)といった、組織のあり方を根底から変えるような変革が求められている。これらの変革は、単一のプロジェクトで完結するものではなく、長期的な視点と多角的なアプローチを必要とする「プログラム」そのものである。

純日本製として産声を上げたP2Mは、今や日本国内に留まらず、複雑な社会課題を解決するための共通言語として、その有効性を高めている。単なる管理技術の枠を超え、イノベーションを創出するための「実践的な哲学」として、P2Mはこれからの不透明な時代を切り拓く羅針盤となるはずだ。

ミッションを達成し、社会に価値をもたらすという崇高な目的のために、我々はP2Mという知恵をいかに使いこなすべきか。その答えは、個々の現場における「知の統合」と「あくなき挑戦」の中にこそ存在するのである。

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