「ワイブル解析」とは、キーワードからわかりやすく解説

 

1. 「ワイブル解析」とは

複雑なシステムは構成される最も弱い部分から故障するというモデルのもとに、物体の故障を時系列的に記述するための確率分布がワイブル分布で、この分布を利用してシステムの故障状態を調べる方法が「ワイブル解析」です。 システムの故障は、使用開始直後の「初期故障期」、それが終了した後安定する「偶発故障期」、各部の寿命が近づいた「摩耗故障期」に分けられ、いずれの故障率もワイブル関数で示すことが可能です。 またいくつかの不良品が発生した段階で、ワイブル関数に当てはめることで、一定時間後の故障率が予想できます。

 

2. 「ワイブル解析」の対象

品質とは「要求されたニーズ(機能)を満たす程度」と一般に定義されています。信頼性とは、「与えられた条件の中で、規定の期間中、要求されたニーズ(機能)を満たす程度」と定義されています。信頼性は、品質の定義に「規定の期間中」という時間軸が追加されています。お気に入りの家電を購入した場合、購入した当初は所期の性能を満足することは当然として、時間とともに品質がある程度劣化していくことは仕方がないと納得できますが、使用したい期間中に故障してしまうと納得できません。この製品は信頼性が低いといい、時にはクレームの対象となります。ワイブル解析の対象は、時間軸を考慮した品質すなわち信頼性となります。

 

3. 「ワイブル解析」の活用

故障率を下げ、耐用寿命を延ばすことすなわち、信頼性の向上はメーカーにとって最重要課題です。故障率に加え、故障のパターンを定量的に把握するためには、表1に示すようなデータが必要となりますが、現実は全ての製品の寿命データを収集することはほとんど不可能に近い状態です。ほとんどのデータは不完全データですが、エクセルや統計ソフトを活用し、少し工夫を加えることで、精度良く簡単に解析することができます。製品の信頼性の現状や対策効果を把握するための手段であるワイブル解析を積極的に活用することです。

 

4. ワイブル解析の具体的な進め方

ワイブル解析を実務に導き入れる際、まず最初に行うべきはデータの整理です。信頼性試験や市場での故障データから、「いつ」「何個」壊れたかという情報を抽出します。ここで重要なのは、故障に至らなかった個体、すなわち「打ち切りデータ」の扱いです。すべての製品が壊れるまで待つ必要はありません。現時点で動いている製品のデータも解析に組み込むことで、限られた時間内でも精度の高い予測が可能になります。

 

解析の基本ステップは、各故障データの累積故障確率を算出し、それを「ワイブル確率紙」と呼ばれる特殊なグラフにプロットすることから始まります。近年ではエクセル等の表計算ソフトを用いるのが一般的ですが、原理は同じです。プロットされた点が直線上に並ぶとき、その製品の故障特性はワイブル分布に従っていると判断できます。この直線の傾きや位置を特定することで、将来の故障予測や保証期間の設定といった具体的なアクションに繋げることができます。

 

5. 形状パラメータが示す故障の本質

ワイブル解析において最も重要な指標が、直線の傾きを表す「形状パラメータ」です。この数値を見るだけで、その製品が現在どのような故障モードにあるのかを一目で判別することができます。

【初期故障期】

時間の経過とともに故障率が減少していく状態です。設計ミスや製造工程での異物混入、不適切な部品の採用などが疑われます。この場合、出荷前のエージング(慣らし運転)を強化することで、市場での不具合を未然に防ぐ対策が有効です。

【偶発故障期】

故障率が時間に関係なく一定の状態です。これは「指数分布」に相当し、突発的な事故や過負荷など、予測困難な外部要因による故障が多いことを示唆します。

【摩耗故障期】

時間の経過とともに故障率が上昇していく状態です。部品の疲労、腐食、劣化など、いわゆる「寿命」が原因です。この数値が大きければ大きいほど、特定の時期に故障が集中することを意味するため、適切な予防保全や部品交換時期の特定に役立ちます。


このように、単に「壊れた」という事実だけでなく、その「壊れ方」を定量化できる点がワイブル解析の真骨頂です。

 

6. 市場データへの応用と意思決定

ワイブル解析は、設計部門だけでなく品質保証やサービス部門においても強力な武器となります。例えば、市場で数件の不具合が発生した際、「このまま放置すると1年後には何%の製品が故障するのか」を予測することは、リコール判断などの経営的意思決定において不可欠です。

 

また、新製品の開発段階においては、加速試験(過酷な条件での試験)の結果をワイブル解析にかけることで、実使用環境下での寿命を推定することができます。これにより、過剰品質によるコストアップを防ぎつつ、必要な信頼性を確保するという絶妙なバランスを実現することが可能になります。

 

7. まとめ~データが語る「製品の寿命」~

ワイブル解析は、目に見えない「信頼性」という概念を、数学の力で可視化する手法です。複雑な計算式に惑わされがちですが、その本質は「過去の故障データから未来の安心を設計する」ことにあります。

 

現代の製造業において、100%壊れない製品を作ることは不可能です。しかし、ワイブル解析を活用して「いつ、どのように壊れるか」を高い精度で予測できれば、顧客に対して適切なメンテナンス時期を提示し、万が一の際にも迅速かつ合理的な対応を取ることができます。集計されたデータを単なる記録で終わらせず、次世代の製品開発への「知見」へと昇華させるために、ワイブル解析は今後ますますその重要性を増していくでしょう。

 


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