意匠と立体商標 意匠法講座 (その8)

1.意匠の登録要件と商標の登録要件

  前回の第8回に続いて解説します

(1)意匠の登録要件

 
 意匠の登録要件中、制度趣旨から最も重要なものは、新規性(意匠法3条1項各号)と創作非容易性(3条2項)です。意匠法は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とするものですから(意匠法1条)、新規性のない意匠や容易に創作できる意匠は保護に値しないのです。そして、意匠の類似とは「アイデア」の同一であり、商標の類似とは異なる概念です。
 

(2)商標の登録要件

 
 商標の登録要件中、制度趣旨から最も重要なものは、識別力のない商標は登録しないとする商標法3条1項各号と、他人の商標と類似する商標(混同する商標)は登録しないとする4条1項11号等です。商標法は、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とするものですから(商標法1条)、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標は、業務上の信用維持につながらないので保護価値がなく(加えて独占にも適さない)、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標を登録して保護することは、「他人」の業務上の信用維持に反することなので保護に値しないものとされています。
 

2.商品の形状と商標

 

(1)立体商標の二つのタイプ

 
 商標法では、「立体的形状」も商標であると規定しています。商標(商品や役務の出所識別標識)となる立体的形状は、大きく2つのタイプがあります。
 
 ① 商品自体の形状
 
  例えば、コクヨの「カドケシ」(登録商標)この形状は、意匠登録、商標登録の他、特許にもなっています。
 
                                                 
 
 ② 店頭に置かれたり、商品につり下げられるマスコットなど(ペコちゃんやサンダースおじさん)
 
 これらのうち、②は一般に商品と直接関連のある形状をしているものではないので、需要者は「識別標識」であると認識します。したがって、一般に「識別力」が認められることになります。他方①は商品自体の形状ですから「識別標識」とは認識されにくいものです。第8回で書いたように、商品の形状自体は本来的には「識別標識」ではなく、その形状が出所を表示するものと認識されるためには「有名」になる必要があります。そこで、商品の形状自体は、通常「識別力がない」ものとして登録を拒絶され、有名であることを出願人が立証して初めて登録されます。意匠は「新しさ」を求めるのに対して、商標は「知られている」ことを要求します。文字のない立体商標は約600件程度登録されているようですが、その多くは②のタイプです。
 

(2)文字を含む立体商標

 
 先ほど、「文字のない立体商標」と書いたことには訳があります。特許庁が「立体商標」として登録している商標には、立体形状のみのものと、立体形状に文字や図形が表されたものの双方があります。「立体形状」それ自体は商品の形状に過ぎなくで識別力がなくとも、文字や図形に識別力があれば登録されます。
 
 かつでサントリーが非常に参考になる出願をしています。角瓶をはじめとするウイスキーのボトルについて、文字のないものと文字(ラベル)をつけたものの双方を出願したのです。その結果、「角瓶」を含めて、文字のないものはすべて拒絶され、文字のあるものはすべて登録されました。登録された立体商標の効力を考えるとき、文字の有無は重要な着眼点です。文字のある立体商標は、文字が異なれば立体形状が近似していても効力は及ばない可能性が高いためです。
 

3.意匠権の効力と商標権の効力

 

(1)意匠権の効力

 
 意匠権は登録意匠及びこれに類似する意匠を排他独占的に実施することのできる権利です。ここにおける「実施」とは、意匠に係る物品の製造・使用・譲渡などです。「意匠に係る物品の」という点に留意してください。
 

(2)商標権の効力

 
 商標権は指定商品又は指定役務について登録商標を排他独占的に使用することのできる権利です。ここにおける「使用」とは、商品又は商品の包装に標章を付する行為や標章が付された商品を譲渡する行為などです。
 

(3)両者の異同

 
 意匠に部分意匠が含まれ、商標に立体商標に加えて位置の商標が含まれた結果、意匠の構成要素と商標の構成要素とはほぼ一致するものとなっています。しかし、それは単に構成要素が一致するというだけであり、保護の観点、法的評価の観点は全く異なります。
 

(4)具体例

 
 以下、PETボトルのデザインについての意匠権(権利者A社)と、指定商品を「紅茶」としたPETボトルの形状の立体商標(権利者B社)の効力について比較して説明します。先に書いたように、意匠権の効力は、登録意匠に係る物品を業として製造・販売・使用することなどに及びます。意匠に係る物品であるPETボトルに何を詰めて市場に提供するかは、権利の効力に影響しません。ボトルメーカーA社がPETボトルを製造し、これを飲料メーカーB社に販売する行為はA社による登録意匠の実施であり、B社がこのPETボトルに紅茶以外のどんな飲料を入れて販売しても、それはB社による登録意匠の実施になります。
 
 他方、商標権の効力は、商品又は商品の包装に登録商標を付する行為(2条3項1号)、登録商標を付したものを譲渡等する行為(2号)に及び、前者には商品の包装の形状を登録商標の形状とすることが含まれます(2条4項)。飲料メーカーB社における紅茶をPETボトルに包装する行為は1号に該当し、これを販売する行為は2号に該当します。
 
 両者を比較すると、意匠権の効力は「製造」「販売」「使用」すべてに及ぶのに対して、立体商標の効力は、「製造」には及ばず、指定商品(紅茶)を販売するときにしか効力が及ばないという違いがあります。しかし、商標権は登録から20年で消滅しますが、商標権は更新...
する限り半永久的に継続します。ここに立体商標の魅力があります。そこで、20年で消滅する意匠権の延命のために、立体商標が利用されることになります。図1、参照。
 
                      
図1.意匠権と商標権の対比(例)
 今回で「意匠法講座」を終了します。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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