ワーク・エンゲージメントとは

◆「やる気」の数値化、グラフ化で効果を定量把握

 
◆関連解説『人的資源マネジメントとは』
 企画から設計、製造、販売、そして保守という広い意味でのものづくりにおける生産性は、かかわっている人によって数倍から数十倍の違いがあるといわれています。この生産性の違いを生むのは、能力とモチベーションであることはよく知られており、実際、アンケートで「生産性を上げるためには?」というような質問をすると、高い割合で「モチベーションの向上」という回答になることが多いようです。しかし、モチベーション向上にヒトやカネを投じて本気で取り組んでいるところは少ないのではないでしょうか。
 
 モチベーション向上に取り組んでもその効果を把握することが難しいことがその原因のひとつでしょう。モチベーションを定量的に把握することができないからです。しかし、最新の心理学であるポジティブ心理学を活用すれば、モチベーションを測定し定量化することが可能です。一例として、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度を活用して、個人の仕事に対するモチベーション(ワーク・エンゲージメント、以下 WE)を見える化することで生産性を向上させ、さらに離職者や突発的な休職者を減らした事例を紹介します。
 
 図1のグラフは、あるメーカーの設計技術者たちの WE をこの仕組みを使って定量化したものです。9つの簡単な質問により、どのようなモチベーションで仕事に取り組んでいるのかを、活力、熱意、没頭の3つの要素で調べ、点数にします。同じ部署にもかかわらずモチベーションの個人差が非常に大きなことが一目瞭然です。これほど個人差があるということは、組織全体での画一的な取り組みでは個々人のモチベーション、ひいては生産性を上げることが難しく、一人ひとりに合わせた個別対応が大切なことがよくわかります。
 
   
図1.設計技術者たちの WE:ワーク・エンゲージメント
 
 次に、個別対応の活用事例も紹介します。質問に答えるのは1分もかからないため、このメーカーでは毎月 WE を測定しているのですが、個人の WE 推移をグラフ化することで、一人ひとりの仕事に対する意識の変化を知ることができます。
 
 図2のグラフは、設計技術者たちの中のある2人の月ごとの WE 推移です。3カ月連続して大きく下降したA氏は、矢印の時点で突然会社を辞めたいと言い出しました。また、急激に下がったB氏は矢印の時点で突然2週間会社を休んでしまいました。当時はまだ WE を測定するだけで活用できていなかったため、管理職ら周囲は突然のことで大慌てし、開発にも大きな支障をきたしました。
 
 
図2.エンゲージメント点数のグラフ
 
 この両名とも普段の様子に特別な変化はなく、彼らのやる気や精神状態を把握することはできなかったと管理職たちは言っており、このような事態に事前対応するのは困難だったようです。しかし、WE の値が一定期間低下傾向が継続したり、ある値以上に低下した個人に対しては...
、前述の活力、熱意、没頭の3要素をパターン分析し、その結果に合わせて管理者が対応するという仕組みが定着した後は、約1年で退職は皆無、突然の休職者も半減しました。さらに、生産性は 1.5 倍になりました。
 
 WE を使ったモチベーションの見える化は、ものづくりにかかわる技術者個人の精神状態を把握して個別対応を可能にし、組織の生産性向上の取り組みの効果を定量的に把握することに大きな役割を果たします。
 
 この文書は、 2016年3月17の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。
 
 

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