
気候変動という人類共通の危機に対し、究極の解決策として世界が注目する技術があります。それが「フュージョンエネルギー(核融合)」です。太陽が輝き続ける原理を地上で再現することから「地上の太陽」とも呼ばれるこの技術は、燃料が海水から無尽蔵に得られ、二酸化炭素を排出せず、原理的に暴走しないという特性を持ちます。かつて夢物語とされたこのエネルギーが、今まさに実用化へ向けた産業革命の前夜にある理由を解き明かします。
【序章】エネルギーの歴史が変わる瞬間:SFから現実へ
1. エネルギーの歴史が変わる瞬間:SFから現実へ
かつてSF映画やアニメーションの中でしか描かれなかった夢のエネルギーが、現実の電力網に接続される日が近づいています。長らく「実用化まで常にあと数十年」と言われ続けてきたフュージョンエネルギー(核融合)ですが、ここ数年でその状況は劇的に変化しました。超伝導技術の進歩やAIによる制御技術の向上が、理論を現実の装置へと昇華させたのです。もはやこれは遠い未来の科学実験ではなく、手の届く場所にあるエンジニアリングの課題となりつつあります。
2. なぜ今、「フュージョンエネルギー(核融合)」なのか
世界的な脱炭素(グリーントランスフォーメーション:GX)の流れが、この技術を強く求めています。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは重要ですが、天候による変動という課題があります。一方で化石燃料からの脱却は待ったなしの状況です。そこで、「安定的」かつ「クリーン」で、「資源枯渇の心配がない」エネルギー源として、フュージョンエネルギー(核融合)が最後のピースとして浮上しました。環境と経済成長を両立させるための、人類に残された最大の切り札として、今、巨額の投資と技術が集結しているのです。
【第1章】「地上の太陽」の正体とGXへのインパクト
1. 核分裂とは似て非なるもの:重水素と三重水素の融合メカニズム
従来の原子力発電とフュージョンエネルギー(核融合)は、名前は似ていますが、その原理は真逆です。原発が「重い原子を割る」ことでエネルギーを得るのに対し、フュージョンは「軽い原子同士をくっつける(融合させる)」ことでエネルギーを生み出します。 具体的には、海水に含まれる成分などを燃料として、超高温の環境下でそれらを融合させます。その際、融合前の重さの合計よりも、融合後の重さがわずかに軽くなります。この「減った分の重さ(質量)」が、莫大な熱エネルギーへと変わるのです。ごくわずかな燃料から石油数トン分ものエネルギーを取り出せるのは、この自然界の法則を利用しているためです。
2. 再生可能エネルギーの弱点を補う「ベースロード電源」
脱炭素社会の実現において、太陽光や風力発電の普及は不可欠ですが、これらは「お天気任せ」であり、夜間や無風時には発電できません。蓄電池で補うにも限界があります。 フュージョンエネルギー(核融合)は、天候や昼夜に関係なく、24時間365日、一定の出力を安定して供給できる「ベースロード電源」としての役割を果たせます。現在、火力発電が担っている役割をそのままクリーンな技術で置き換えることができるため、産業界にとって非常に使い勝手の良い電力源となります。
3. エネルギー安全保障の切り札として
日本のような資源の乏しい国にとって、エネルギー安全保障は死活問題です。石油や天然ガスは特定の地域に偏在しており、国際情勢によって価格が高騰したり、供給が止まったりするリスクがあります。 しかし、フュージョンエネルギー(核融合)の主な燃料は、海水から豊富に採取できる物質です。つまり、技術さえ確立すれば、日本は実質的な「資源大国」へと変貌できます。燃料を海外に依存せず、かつ二酸化炭素も出さないこの技術は、国の独立と環境保護を同時に達成...

気候変動という人類共通の危機に対し、究極の解決策として世界が注目する技術があります。それが「フュージョンエネルギー(核融合)」です。太陽が輝き続ける原理を地上で再現することから「地上の太陽」とも呼ばれるこの技術は、燃料が海水から無尽蔵に得られ、二酸化炭素を排出せず、原理的に暴走しないという特性を持ちます。かつて夢物語とされたこのエネルギーが、今まさに実用化へ向けた産業革命の前夜にある理由を解き明かします。
【序章】エネルギーの歴史が変わる瞬間:SFから現実へ
1. エネルギーの歴史が変わる瞬間:SFから現実へ
かつてSF映画やアニメーションの中でしか描かれなかった夢のエネルギーが、現実の電力網に接続される日が近づいています。長らく「実用化まで常にあと数十年」と言われ続けてきたフュージョンエネルギー(核融合)ですが、ここ数年でその状況は劇的に変化しました。超伝導技術の進歩やAIによる制御技術の向上が、理論を現実の装置へと昇華させたのです。もはやこれは遠い未来の科学実験ではなく、手の届く場所にあるエンジニアリングの課題となりつつあります。
2. なぜ今、「フュージョンエネルギー(核融合)」なのか
世界的な脱炭素(グリーントランスフォーメーション:GX)の流れが、この技術を強く求めています。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは重要ですが、天候による変動という課題があります。一方で化石燃料からの脱却は待ったなしの状況です。そこで、「安定的」かつ「クリーン」で、「資源枯渇の心配がない」エネルギー源として、フュージョンエネルギー(核融合)が最後のピースとして浮上しました。環境と経済成長を両立させるための、人類に残された最大の切り札として、今、巨額の投資と技術が集結しているのです。
【第1章】「地上の太陽」の正体とGXへのインパクト
1. 核分裂とは似て非なるもの:重水素と三重水素の融合メカニズム
従来の原子力発電とフュージョンエネルギー(核融合)は、名前は似ていますが、その原理は真逆です。原発が「重い原子を割る」ことでエネルギーを得るのに対し、フュージョンは「軽い原子同士をくっつける(融合させる)」ことでエネルギーを生み出します。 具体的には、海水に含まれる成分などを燃料として、超高温の環境下でそれらを融合させます。その際、融合前の重さの合計よりも、融合後の重さがわずかに軽くなります。この「減った分の重さ(質量)」が、莫大な熱エネルギーへと変わるのです。ごくわずかな燃料から石油数トン分ものエネルギーを取り出せるのは、この自然界の法則を利用しているためです。
2. 再生可能エネルギーの弱点を補う「ベースロード電源」
脱炭素社会の実現において、太陽光や風力発電の普及は不可欠ですが、これらは「お天気任せ」であり、夜間や無風時には発電できません。蓄電池で補うにも限界があります。 フュージョンエネルギー(核融合)は、天候や昼夜に関係なく、24時間365日、一定の出力を安定して供給できる「ベースロード電源」としての役割を果たせます。現在、火力発電が担っている役割をそのままクリーンな技術で置き換えることができるため、産業界にとって非常に使い勝手の良い電力源となります。
3. エネルギー安全保障の切り札として
日本のような資源の乏しい国にとって、エネルギー安全保障は死活問題です。石油や天然ガスは特定の地域に偏在しており、国際情勢によって価格が高騰したり、供給が止まったりするリスクがあります。 しかし、フュージョンエネルギー(核融合)の主な燃料は、海水から豊富に採取できる物質です。つまり、技術さえ確立すれば、日本は実質的な「資源大国」へと変貌できます。燃料を海外に依存せず、かつ二酸化炭素も出さないこの技術は、国の独立と環境保護を同時に達成する唯一無二の手段と言えます。
【第2章】科学から産業へ:活発化するフュージョン・ビジネスの潮流
1. 国家プロジェクトから民間レースへのパラダイムシフト
これまでフュージョンエネルギー(核融合)開発は、巨額の予算と時間を要するため、国家主導の学術研究として進められてきました。しかし現在、宇宙開発がNASAなどの国家機関からスペースXのような民間企業主導へ移ったのと同様の変化が起きています。 「ニュースペース」と呼ばれる宇宙ビジネスの興隆と同様に、「ニューフュージョン」とも呼ぶべき民間主導の開発競争が始まっています。スタートアップ企業は、過去の知見を活かしつつ、大胆な手法とスピード感で実用化を目指しており、産業構造そのものが大きく変わりつつあります。
2. 巨額マネーの流入:ビル・ゲイツ、サム・アルトマンの賭け
この分野には、世界的な著名投資家やIT長者たちがこぞって巨額の資金を投じています。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や、生成AI「チャットGPT」の生みの親であるサム・アルトマン氏などが代表例です。 彼らが投資する米国のヘリオン・エナジー社などは、AIのデータセンターが必要とする莫大な電力を賄うために、フュージョンエネルギー(核融合)が不可欠だと判断しています。単なる社会貢献ではなく、次の時代の覇権を握るための「勝てるビジネス」として、兆円単位のマネーがこの市場に流れ込んでいるのです。
3. 日本発スタートアップの躍進と新たなサプライチェーン
日本もこの競争で負けてはいません。京都大学発のベンチャー企業である京都フュージョニアリングなどは、世界中から注目を集めています。 日本の強みは、炉そのものを建設するだけでなく、その周辺機器や重要部品を供給する能力にあります。超高温に耐える特殊な壁や、熱を取り出す装置など、日本の中小企業やメーカーが持つ「ものづくり技術」がなければ、世界のフュージョン開発は進まないと言っても過言ではありません。新たなグローバル・サプライチェーンの中で、日本企業は重要なポジションを確立しつつあります。
【第3章】安全性の真実:なぜ「暴走」は起きないのか
1. 原理的な安全性:「止める」のではなく「止まる」仕組み
多くの人が懸念する「暴走事故」ですが、フュージョンエネルギー(核融合)においては原理的に起こり得ません。従来の原子力発電は、連鎖反応が続くため、異常時には「強制的に止める」制御が必要です。 対してフュージョン反応は、1億度を超える超高温や真空状態など、極めて特殊な条件が完璧に揃わないと維持できません。そのため、装置の故障や地震などで条件が少しでも崩れると、反応は自然に「プスン」と消えてしまいます。「止めなければならない」のではなく、勝手に「止まってしまう」性質を持っているため、原理的にメルトダウンのような事故は発生しないのです。
2. 放射性廃棄物問題への回答
原子力につきまとう「高レベル放射性廃棄物」の問題についても、フュージョンは明確な解決策を持っています。この技術では、処分に数万年~10万年単位の管理が必要な高レベル廃棄物は発生しません。 発生するのは、高速中性子によって装置の建材などが帯びる放射能(放射化)ですが、これらは適切な管理を行えば、100年程度で再利用や一般処分が可能なレベルまで減衰します。これらは適切な管理を行えば、数十年から100年程度で放射能が減衰し、再利用や一般処分が可能になるレベルです。次世代に負の遺産を残さないという意味でも、非常にクリーンなシステムです。
3. 社会受容性(ソーシャル・アクセプタンス)への挑戦
技術的に安全であっても、名前に「核」という言葉が含まれることなどから、漠然とした不安を持つ人は少なくありません。これを克服するためには、社会受容性(ソーシャル・アクセプタンス)を高める活動が不可欠です。 科学的な安全性をただ主張するのではなく、リスクとベネフィットを透明性高く説明し、地域社会との対話を重ねることが求められます。「核分裂」と「核融合」の違いを丁寧に伝え、正しいリスクコミュニケーションを行うことが、技術開発と同じくらい重要な課題となっています。
【第4章】世界開発競争と技術立国ニッポンの勝算
1. 史上最大の実験炉「ITER」と日本の貢献
現在、南フランスで人類史上最大級の国際プロジェクト「ITER(イーター)」の建設が進んでいます。これは日本、欧州、米国、中国などが協力して、フュージョンエネルギー(核融合)の科学的な実証を行うための巨大な実験炉です。 日本はこのプロジェクトにおいて、極めて重要な役割を担っています。心臓部となる巨大な磁石や、高精度の計測機器など、日本の技術がなければITERは完成しません。日本は資金だけでなく、世界最高水準の技術と人材を提供し、プロジェクトを牽引しています。
2. 「JT-60SA」の成果と国家戦略
国際協力だけでなく、日本国内の取り組みも世界をリードしています。茨城県那珂市にある「JT-60SA」は、現時点で稼働している装置としては世界最大のプラズマ体積を誇ります。 ここでの実験成功は、日本がフュージョン技術のトップランナーであることを証明しました。政府もこれを国家戦略の柱の一つに据え、単なる研究にとどまらず、将来の輸出産業として育成する方針を打ち出しています。世界最大級の実験炉を自国で運用できる経験値は、将来の商用炉建設において計り知れないアドバンテージとなります。
3. 日本が握る「素材」と「超伝導」の鍵
欧米や中国が巨額の資金で追い上げてきても、日本には簡単には真似できない「武器」があります。それは素材産業と超伝導技術です。 1億度を超えるプラズマを閉じ込めるための強力な磁場を作るコイルや、過酷な環境に耐えうる特殊な金属材料は、日本の素材メーカーが高い市場シェアと技術的優位性を誇る領域です。世界中のどのベンチャー企業が成功するにしても、その装置を作るためには日本の部材が必要になる可能性が高いのです。完成品メーカーとしての道だけでなく、必須要素技術を握る「プラットフォーマー」としての勝算が日本にはあります。
【第5章】ロードマップ:2050年のコンセントの向こう側
1. 発電実証から商用化へ:2030年代・2050年のマイルストーン
実用化への道のりは明確になりつつあります。2030年代には、実際にフュージョン反応で電気を作り出し、送電網に流す「発電実証」が世界各地で計画されています。ここでの成功を経て、下図のように政府のロードマップでは2050年頃の商用化を掲げていますが、近年の民間企業の参入により、一部では2030年代後半からの小規模な発電実証を目指す動きも具体化しています。これは、カーボンニュートラル目標の達成時期とも合致しており、まさに脱炭素のゴールテープを切るための技術です。

図. 2030年代・2050年のマイルストーン 、フュージョンエネルギー(核融合)
内閣府、ムーンショット目標10から引用(https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub10.html)
2. 残されたハードルを直視する
もちろん、未来はバラ色なだけではありません。解決すべき課題も残されています。第一に、発電コストを既存のエネルギーと競争できるレベルまで下げること。第二に、燃料サイクルの中で必要となる物質(トリチウム)を、システム内で効率よく作り出し循環させる技術の確立。そして、1億度のプラズマを長時間、安定して維持し続ける制御技術の完成です。これらの壁を直視し、一つひとつ乗り越えていく必要があります。
【結び】
夢物語を終わらせ、エネルギーの永続的な解決へ フュージョンエネルギー(核融合)は、もはや遠い未来の夢物語ではなく、私たちが生きている間に実現しうる具体的な目標となりました。この技術が完成すれば、人類はエネルギー不足と環境破壊という二つの呪縛から同時に解放されます。 資源のない日本が、エネルギー輸出国にもなり得るこの技術革新。「地上の太陽」を灯すための最後の挑戦は、私たちの産業と社会を根底から変える、希望に満ちた革命となるでしょう。
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