中小企業における調達購買の現実~兼務と属人化のリスク~

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中小企業における調達購買の現実~兼務と属人化のリスク~

【目次】

    昨今、原材料価格の高騰や急激な円安の進行、サプライチェーンの不安定化など、企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。特に、中小企業においては、売上拡大や生産性向上への注力が優先されるあまり、「調達購買」の機能が空白地帯となっているのが現状ではないでしょうか。営業や生産部門の兼務によって「なんとなく」回っている調達業務は、一見問題がないように見えても、特定の社員の経験や人脈に依存する属人化を招き、コストの妥当性が検証されないまま、経営の「見えないコスト」として利益を蝕んでいます。これは、年間数千万円規模の見えない損失につながる深刻なリスクです。今回は、単なる「安く買う」に留まらない、適正コストでの安定供給と事業リスクの最小化という視点から、中小企業における調達購買の現実的な課題を深く掘り下げます。そして、専任者を置くのが難しい中小企業が、外部支援を効果的に活用し、いかにして属人化から脱却し、企業経営を支える戦略的な調達購買体制を段階的に構築していくべきか、その具体的な道筋を解説します。

     

    1. 調達購買が空白地帯になっている現実

    多くの中小企業では「調達購買部門」という明確な組織が存在しません。営業、技術、生産といった部門が主導し、材料や外注先を探し、見積を取り、発注まで行うこと(調達の兼務状態)が当たり前になっています。一見、それでも仕事が回っているように見えますが、この体制は大きなリスクを孕んでいます。

     

    特定の社員の個人的な経験や人脈に依存し、サプライヤーとの取引関係も曖昧なまま固定化。その結果、コストの妥当性が検証されないまま支出が積み上がり、経営の&ldquo...

    中小企業における調達購買の現実~兼務と属人化のリスク~

    【目次】

      昨今、原材料価格の高騰や急激な円安の進行、サプライチェーンの不安定化など、企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。特に、中小企業においては、売上拡大や生産性向上への注力が優先されるあまり、「調達購買」の機能が空白地帯となっているのが現状ではないでしょうか。営業や生産部門の兼務によって「なんとなく」回っている調達業務は、一見問題がないように見えても、特定の社員の経験や人脈に依存する属人化を招き、コストの妥当性が検証されないまま、経営の「見えないコスト」として利益を蝕んでいます。これは、年間数千万円規模の見えない損失につながる深刻なリスクです。今回は、単なる「安く買う」に留まらない、適正コストでの安定供給と事業リスクの最小化という視点から、中小企業における調達購買の現実的な課題を深く掘り下げます。そして、専任者を置くのが難しい中小企業が、外部支援を効果的に活用し、いかにして属人化から脱却し、企業経営を支える戦略的な調達購買体制を段階的に構築していくべきか、その具体的な道筋を解説します。

       

      1. 調達購買が空白地帯になっている現実

      多くの中小企業では「調達購買部門」という明確な組織が存在しません。営業、技術、生産といった部門が主導し、材料や外注先を探し、見積を取り、発注まで行うこと(調達の兼務状態)が当たり前になっています。一見、それでも仕事が回っているように見えますが、この体制は大きなリスクを孕んでいます。

       

      特定の社員の個人的な経験や人脈に依存し、サプライヤーとの取引関係も曖昧なまま固定化。その結果、コストの妥当性が検証されないまま支出が積み上がり、経営の“見えないコスト”が増加していくのです。

       

      2. 属人化が引き起こす~見えない損失~

      属人化とは、業務の知識や判断が特定の個人に集中している状態を指します。調達購買では、これが最も顕著に表れます。

       

      例えば、ある中小製造業で10年以上同じ担当者が購買をしていたケースでは、担当者は長年付き合いのある業者を優先し、価格交渉もほとんど行わず、リピート発注を続けていました。結果として、他社と比べて同じ材料を常に10〜15%高い価格で購入していたことが、後に判明しました。

       

      仮に年間購買額が1億円だとすると、これは1,000〜1,500万円の損失です。しかも、その担当者が退職した途端、サプライヤーとの関係性が途絶え、引き継ぎも不十分で、生産ラインに必要な部材の納期が遅れ、顧客への納品がずれ込むなど、経営リスクにも直結しました。

       

      属人化の怖いところは「表面上は問題なく回っているように見える」ことです。日常業務の忙しさの中で、こうした非効率は見えにくく、結果的に会社の利益をじわじわと蝕んでいきます。

       

      3. 購買 = コスト削減、だけではない

      調達購買は「安く買う」ことが目的ではありません。重要なのは、適正なコストで、安定した品質・納期を確保し、事業リスクを最小化することです。

       

      例えば、A社とB社で部品単価が5%違う場合、単純に安い方を選びがちです。しかし、B社が納期遅延や品質不良を起こせば、結果的に生産停止や再検査コストが発生します。これにより、安さ以上の損失が発生することも珍しくありません。

       

      調達購買とは「目先の安さ」ではなく「全体最適の視点で経営リスクを抑える仕組み」をつくる役割なのです。

       

      4. 中小企業で専任を置けない現実的な理由とは

      なぜ中小企業では調達専任者が置かれないのでしょうか?その理由はシンプルです。「今の体制でもなんとか回っている」「専門人材を雇うほどの余裕がない」というものです。確かに、短期的にはそれで問題ないかもしれません。しかし、原材料価格が高騰し、円安が進む今のような状況では、“何となくの調達”が大きな経営リスクとなります。調達の最適化を後回しにすることが、将来的な利益損失につながるのです。

       

      5. 外部支援を活用するという選択肢

      専任者を雇う余裕がない企業はどうすればよいのでしょうか。その答えのひとつが、外部の調達購買プロフェッショナルを活用することです。外部支援を活用するメリットは次の3つが、あります。

      • 現状の可視化・・・・購買データや取引構造を分析し、「どこにムダがあるか」を第三者の視点で明確にできる。
      • 仕組みの構築・・・・見積・発注・契約・納品の一連のプロセスを標準化し、属人化を防ぐ体制を整えられる。
      • 実行と教育の両立・・実務を支援しながら社内メンバーに購買の考え方や交渉スキルを伝え、内製化への橋渡しが可能。

       

      外部支援を一定期間導入し、改善効果(コスト削減・納期安定・リスク低減)を定量的に評価した上で、恒常的に部門を設置するかを判断する。このステップを踏めば、リスクを最小化しながら「戦略的な調達機能」を段階的に導入できます。

       

      6. 企業経営を支える基盤~調達購買~

      調達購買というのは、単にモノを買う仕事ではなく、企業経営を支える基盤づくりです。今のようにインフレが続き、為替やサプライチェーンのリスクが増す時代だからこそ、特に中小企業こそ、調達の見直しが企業力を大きく左右します。

       

      まずは兼務や属人化の状態から「見える化」と「仕組み化」を進めること。そして、外部の力を上手く活用しながら、将来的に自社に合った調達購買体制を整えていく。それが『コストを削減する企業』から『利益を創り出す企業』へと進化する第一歩です。

       

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      この記事の著者

      栗田 彩人

      製造業の購買・調達・業務プロセス改革を「現場視点」で支援し、成果が定着する仕組みづくりを実践指導します。

      製造業の購買・調達・業務プロセス改革を「現場視点」で支援し、成果が定着する仕組みづくりを実践指導します。


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