ドゥカティのデスモドロミックとは?仕組みやメリット、歴史を解説!

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ドゥカティのデスモドロミックとは?仕組みやメリット、歴史を解説!


イタリアに本社を置くドゥカティ社は、日本の4大メーカーをはじめ各国のメーカー・ブランドがしのぎを削る2輪車市場で長年にわたって独自の存在感を発揮し、レースの世界でも活躍して人気を集めるメーカーです。このドゥカティのほぼ全てのモデルのエンジンに搭載され、同社を象徴する技術といえる「デスモドロミック」について解説します。

【目次】

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    1. デスモドロミックとは

    デスモドロミックとは、ドゥカティ社のモーターサイクルに採用されている技術で、エンジンを構成する一部の機構です。ギリシャ語のデスモス(つなぐ)とドロモス(道)を語源としています。4ストロークエンジンの吸気および排気バルブをカムシャフトによって動作させる際にバルブスプリングを用いないメカニズムで、日本語では強制弁開閉機構と呼ばれます。現在デスモドロミックを製品に採用しているのは世界の自動車メーカー(2輪および4輪)の中でもドゥカティだけで、ドゥカティの代名詞ともいえる技術となっています。

    2. デスモドロミックの仕組み

    一般的な4ストロークエンジンでは、吸気バルブと排気バルブをカムによる押出しで開き、バルブスプリングによる引戻しで閉めています。これに対してデスモドロミックでは、バルブを閉める動きもカムからアーム(クロージングロッカーアーム)を介して行うのが特徴です。

    (1)そもそもエンジンの"回転"とは

    燃料を吸入→圧縮→爆発→排気のサイクルで燃焼させ、そのエネルギーを回転運動に変えるのがエンジン(内燃機関)ですが、このサイクルを吸気バルブと排気バルブによってコントロールするのが4ストロークエンジンです。吸気バルブが開いて燃料の混合気を吸気→ピストンが上がって混合気を圧縮→プラグが点火して爆発→その力でピストンが動いてクランクシャフトが1回転→排気バルブが開いて排気し、次の1回転で最初に戻って吸気します。つまり1回のサイクルでクランクシャフトが2回転します。
    4ストロークエンジンはこのような仕組みなので、ピストンとバルブが適切に連動することが重要です。ところがエンジンの回転数を上げて行くとピストンが上がった時にバルブが戻りきらず、ピストンとバルブが衝突して損傷してしまいます。これをバルブサージングといい、エンジン高回転化の大きな障壁となります。

    (2)バルブの開閉をコントロールするデスモドロミック

    そこで、バルブの開閉をより適切にコントロールするために考えられた機構がデスモドロミックです。
    この章の最初に書いたように、一般的な4ストロークエンジンではカムによる押出し、スプリングによる引戻しによってバルブを開閉しています。カムシャフトがバルブを押出す際に同時にスプリングを圧縮し、その反発を使ってバルブを引戻すので、引戻しに関してはスプリングの性能に依存することになり、スプリング性能の限界がバルブ回転の限界、つまりエンジン回転の限界を決定づける要因となってしまいます。
    かつてのスプリングは材質や精密度などが今より悪かったこともあり、エンジンの回転を上げるとすぐバルブサージングを起こしてしまって出力を向上できないのが大きな問題点でした。
    そこでバルブを閉める動きも、スプリングではなく...


    ドゥカティのデスモドロミックとは?仕組みやメリット、歴史を解説!


    イタリアに本社を置くドゥカティ社は、日本の4大メーカーをはじめ各国のメーカー・ブランドがしのぎを削る2輪車市場で長年にわたって独自の存在感を発揮し、レースの世界でも活躍して人気を集めるメーカーです。このドゥカティのほぼ全てのモデルのエンジンに搭載され、同社を象徴する技術といえる「デスモドロミック」について解説します。

    【目次】

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      1. デスモドロミックとは

      デスモドロミックとは、ドゥカティ社のモーターサイクルに採用されている技術で、エンジンを構成する一部の機構です。ギリシャ語のデスモス(つなぐ)とドロモス(道)を語源としています。4ストロークエンジンの吸気および排気バルブをカムシャフトによって動作させる際にバルブスプリングを用いないメカニズムで、日本語では強制弁開閉機構と呼ばれます。現在デスモドロミックを製品に採用しているのは世界の自動車メーカー(2輪および4輪)の中でもドゥカティだけで、ドゥカティの代名詞ともいえる技術となっています。

      2. デスモドロミックの仕組み

      一般的な4ストロークエンジンでは、吸気バルブと排気バルブをカムによる押出しで開き、バルブスプリングによる引戻しで閉めています。これに対してデスモドロミックでは、バルブを閉める動きもカムからアーム(クロージングロッカーアーム)を介して行うのが特徴です。

      (1)そもそもエンジンの"回転"とは

      燃料を吸入→圧縮→爆発→排気のサイクルで燃焼させ、そのエネルギーを回転運動に変えるのがエンジン(内燃機関)ですが、このサイクルを吸気バルブと排気バルブによってコントロールするのが4ストロークエンジンです。吸気バルブが開いて燃料の混合気を吸気→ピストンが上がって混合気を圧縮→プラグが点火して爆発→その力でピストンが動いてクランクシャフトが1回転→排気バルブが開いて排気し、次の1回転で最初に戻って吸気します。つまり1回のサイクルでクランクシャフトが2回転します。
      4ストロークエンジンはこのような仕組みなので、ピストンとバルブが適切に連動することが重要です。ところがエンジンの回転数を上げて行くとピストンが上がった時にバルブが戻りきらず、ピストンとバルブが衝突して損傷してしまいます。これをバルブサージングといい、エンジン高回転化の大きな障壁となります。

      (2)バルブの開閉をコントロールするデスモドロミック

      そこで、バルブの開閉をより適切にコントロールするために考えられた機構がデスモドロミックです。
      この章の最初に書いたように、一般的な4ストロークエンジンではカムによる押出し、スプリングによる引戻しによってバルブを開閉しています。カムシャフトがバルブを押出す際に同時にスプリングを圧縮し、その反発を使ってバルブを引戻すので、引戻しに関してはスプリングの性能に依存することになり、スプリング性能の限界がバルブ回転の限界、つまりエンジン回転の限界を決定づける要因となってしまいます。
      かつてのスプリングは材質や精密度などが今より悪かったこともあり、エンジンの回転を上げるとすぐバルブサージングを起こしてしまって出力を向上できないのが大きな問題点でした。
      そこでバルブを閉める動きも、スプリングではなくカムでコントロールするようにしたのがデスモドロミック機構です。デスモドロミックでは、カムの動きによってバルブを閉じるためのロッカーアーム(クロージングロッカーアーム)を、通常のバルブを開くためのロッカーアーム(オープニングロッカーアーム)の他に備えており、これによってバルブを強制的に閉じるようになっています。
      ドゥカティではデスモドロミックでバルブスプリングを廃止することによって、もうひとつのメリットも得ています。それはバルブの長さが短くなるために、エンジンのヘッドを短くできることです。ドゥカティを代表するエンジンレイアウトであるL型2気筒では、フロント側の1気筒のヘッドを短くすることで車体レイアウトの自由度が増し、より走行目的に合ったディメンジョンとすることができるのです。

      3. デスモドロミックの歴史

      デスモドロミックはエンジンの高回転化を目指して考案され、古くから4輪レースの世界で採用されていましたが、公道用市販車で実用化したのは2輪車のドゥカティだけです。その歴史を見てみましょう。

      (1)20世紀のレース用エンジンで採用される

      デスモドロミックのアイデア自体は、古く19世紀終わり頃から考案されていました。4輪車では1912年のフランスグランプリでプジョーが採用したのが初めての実用例といわれています。その後はさまざまなメーカーのレーシングエンジンに採用され、1954~55年にはメルセデスベンツがF1マシンに採用して12戦9勝の成績を残しました。しかし複雑な構造で部品点数も多いデスモドロミックは実用化が困難で、4輪車ではその後の発展は見られませんでした。
      そのデスモドロミックを2輪車で実用化したのがドゥカティです。同社のエンジン開発技術者ファビオ・タリオーニ氏によって1956年に125GPマシンに採用され、同年7月のデビュー戦・スウェーデンGPで優勝したのを皮切りにレースで実績を築きました。4輪用よりも高回転域を多用する2輪用4ストロークレーシングエンジンでは、デスモドロミックは当時最も理想的な動弁系だったのです。

      (2)レーサーから公道量産車へ

      ドゥカティはこのレースでの積み重ねを足場に、1968年に公道用市販車「250マーク3デスモ」をリリースしました。1970年代になるとL型2気筒の大型スポーツモデルに発展して「デスモドロミックのドゥカティ」を確立し、その後のレーシングマシンやほとんどの市販モデルにデスモドロミックを装備して世界のオートバイファンの人気を集めています。
      1972年のイモラ200マイル勝利にはじまり、公道用市販車をベースとする耐久選手権、スーパーバイク選手権などでも、デスモドロミック装備のドゥカティL型2気筒エンジン搭載車は活躍を続けました。さらに21世紀に入るとドゥカティはGPに復帰参戦し、2007年にはタイトルを獲得、その後今日に至るまでMotoGPにおいて上位争いに加わり続けています。

      4. デスモドロミックは一般的なバルブスプリングと何が違う?

      デスモドロミックは一般的なバルブスプリングを用いたバルブ機構と異なり、バルブスプリングを持たず、バルブを閉める動きもカムで強制的にコントロールするのが特徴です。このことによって生じるメリットとデメリットを見ていきます。

      (1)デスモドロミックのメリット

      既に述べてきたように、「高回転時にバルブを正確に開閉できる」ことがデスモドロミックの最大のメリットです。一般的なバルブ機構に使われる金属製スプリングは、高回転域でカムの動きに追従できなくなったり共振を起こしたりすることがあり、バルブサージングを起こしてピストンとバルブが衝突・損傷する恐れがあります。デスモドロミックではスプリングを使わずにバルブを閉じるので、そのようなことがありません。
      またスプリングを用いたバルブ機構で高回転まで正確に動作させるためには、スプリング強化、またはレートの異なるスプリングを重ねて使用するなどの対策が必要です。しかしこれらの方法を取るとバルブを開くために強い力が必要で、パワーロスの原因となってしまいます。デスモドロミックではパーツの接触による摩擦ロスのみとなるため、パワーロスを低減することができます。
      バルブスプリングの共振には、カムの山の形状も影響します。バルブが開く時と閉じる時の
      カム山の形状(プロフィール)が異なると共振によるバルブサージングを起こしやすくなるので、それぞれの場合に理想的な非対称の形状にしにくいのです。デスモドロミックではそのような問題がないので、バルブが開く時と閉じる時のそれぞれに適切なカム山の形状とすることが可能で、高回転・高出力化に有利になります。
      なおドゥカティ以外のメーカーのMotoGPマシンでは、金属製バルブスプリングのかわりに窒素ガスを用いたニュウマチックバルブと呼ばれる機構が使われています。ニュウマチックバルブはパワーロスが極めて少なくまた軽量なのがメリットですが、数100kmの走行ごとに窒素ガスを補充しなければならないため、現時点ではレース専用で公道用市販車には採用不可能な技術です。

      (2)デスモドロミックのデメリット

      高回転・高出力化にメリットが多いデスモドロミックですが、デメリットもあります。まず一般的なスプリングによるバルブ機構より部品点数がかなり多く、部品の製造や組立に多くの工数を要し、また緻密な構造のため高度な品質管理も必要で、結果として製造コストが高くなります。また複雑な構造と部品点数の多さは、摩擦ロスの増大にもつながります。
      市場においても、構造の複雑さはバルブクリアランスの調整をはじめ整備の難易度を高めることになり、メカニックに高度なスキルを要求します。
      これらの点が障壁となって他のメーカーのデスモドロミック採用を妨げ、結果として長年デスモドロミックを手掛けてきたドゥカティの独占技術となっている、と言うことができます。

      (3)ドゥカティのデスモドロミックに乗ることで得られるのは?

      ここまで見てきたように、デスモドロミックには高回転・高出力が得られるという大きなメリットがありますが、デメリットもまた存在し、結果としてユーザーにとっては高価で維持費もかかる2輪車となっています。
      それでもどうしてドゥカティのデスモドロミックに乗る価値があるのか?といえば、それはこの精緻で高性能なメカニズムを我が物にし、体感できるからにほかなりません。レースと異なり一般公道走行では、デスモドロミック機構が必要になるような高回転までエンジンを回すことは滅多にありませんが、そのポテンシャルを秘めたマシンを操る喜びは何物にも代え難いものです。マシン全体の美しく戦闘的なデザインとも相まって、ドゥカティのデスモドロミックは世界中の愛好家を魅了し続けているのです。

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      Ducati SS


      5. まとめ

      デスモドロミックとはドゥカティのモーターサイクルに採用されている技術で、エンジンのバルブを、スプリングを用いずにカムの動きで強制的に閉める機構のことです。バルブスプリングを用いた一般的な機構と比べて、バルブサージングを起こしにくいため高回転・高出力を得ることができるのが特徴です。複雑な機構のため市販車での実用化に成功したのはドゥカティだけですが、レースの世界での活躍はもとより、公道用市販車でも愛好家を魅了しています。

       

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      この記事の著者

      嶋村 良太

      商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸送用機器。技術士(機械部門・総合技術監理部門)

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