合金の量的割合、てこの原理と組成:金属材料基礎講座(その161) わかりやすく解説 

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合金の量的割合、てこの原理と組成:金属材料基礎講座(その161) わかりやすく解説 

金属材料の基礎知識として欠かせないのが、合金の「状態図」です。状態図は、合金の組成と温度に応じてどのような相(液体や固体など)が存在するかを示す地図であり、材料の性質や加工法を理解するための基盤となります。特に、冷却や加熱の過程で、液相と固相といった二つの相が共存する領域を通過する際、それぞれの相がどれだけの「量」存在し、その「組成」がどうなっているのかを知ることは非常に重要です。この量的割合を正確に導き出すために利用されるのが、「てこの原理(Lever Rule)」として知られる巧妙な計算手法です。今回は、全率固溶型の二元合金を例に取り、特定の温度における液相と固相の量的割合、そしてそれぞれの相に含まれる成分(組成)を、状態図とてこの原理を用いて具体的に計算する方法を、段階を追ってわかりやすく解説していきます。これは、合金の微細構造と特性を深く理解するための第一歩...

合金の量的割合、てこの原理と組成:金属材料基礎講座(その161) わかりやすく解説 

金属材料の基礎知識として欠かせないのが、合金の「状態図」です。状態図は、合金の組成と温度に応じてどのような相(液体や固体など)が存在するかを示す地図であり、材料の性質や加工法を理解するための基盤となります。特に、冷却や加熱の過程で、液相と固相といった二つの相が共存する領域を通過する際、それぞれの相がどれだけの「量」存在し、その「組成」がどうなっているのかを知ることは非常に重要です。この量的割合を正確に導き出すために利用されるのが、「てこの原理(Lever Rule)」として知られる巧妙な計算手法です。今回は、全率固溶型の二元合金を例に取り、特定の温度における液相と固相の量的割合、そしてそれぞれの相に含まれる成分(組成)を、状態図とてこの原理を用いて具体的に計算する方法を、段階を追ってわかりやすく解説していきます。これは、合金の微細構造と特性を深く理解するための第一歩となります。

 

◆ てこの原理と組成

状態図における相の量的割合と組成(成分)について見ていきます。例として下図に全率固溶型の状態図を示します。組成c(A-55%B)合金が100gとして、温度Tにおける液相Lと固相αの量的割合と組成を具体的に計算します。なお目印として、液相Lを赤字、固相αを青字で表します。まず状態図より液相L、固相α、合金cの組成を下表に示します。

 

合金の量的割合、てこの原理と組成:金属材料基礎講座(その161) わかりやすく解説 

図.てこの原理と組成の計算例

 

次に液相Lと固相αの量的割合をてこの原理から計算します。基準となる横線はycx(=65-30)、液相Lはcx(=55-30)、固相αはyc(=65-55)です。これを計算すると式(1)、(2)となります。式(1)、(2)は割合なので、これに重量100gをかけると式(3)となります。合金100gのうち液相Lが71g、固相αが29gです。

 

液相Lと固相αの組成は表1のため、液相Lと固相αそれぞれの重量にAの組成、Bの組成をかけます。その結果、液相LのA重量およびB重量、固相αのA重量およびB重量が求められます。この計算を式(4)~(7)に示します。

 

液相Lと固相αのA重量、B重量がそれぞれ求められたので、それぞれのA重量、B重量を合計します。これがc組成(A-55%B)と等しいことが検算になります。検算の結果を式(8)、(9)に示します。このように状態図から各相の量的割合と組成を計算します。

合金の量的割合、てこの原理と組成:金属材料基礎講座(その161) わかりやすく解説 

 

次回に続きます。

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この記事の著者

福﨑 昌宏

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