ポアソン比とはどういう意味?求め方やヤング率との関係、活用例を解説

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ポアソン比とはどういう意味?求め方やヤング率との関係、活用例を解説


機械装置や構造物などの設計で、構造計算や材料の強度計算をする際に登場する数値のひとつに「ポアソン比」があります。よく使う数値で言葉には馴染みがあり、意味も何となくわかっているが、正確な定義となると即答できない… 私も含め、そのような技術者は決して少なくないのではないでしょうか?ポアソン比とは何か?ヤング率との関係や使い方の注意点などをおさらいしてみたいと思います。

【目次】


    ポアソン比とは何か?

    ポアソン比とは、物体に弾性限界内で荷重をかけた際に生じる縦方向(荷重方向)と横方向(荷重に直角方向)のひずみの比のことです。例えば棒を引っ張った場合、棒は引っ張った方向に伸び(縦ひずみ)、引っ張った方向と直角方向には細くなります(横ひずみ)。この「横ひずみ/縦ひずみ」の値がポアソン比です。ポアソン比はヤング率と同様に、弾性限界内ではその材料固有の定数です。また、ポアソン比の逆数をポアソン数、縦ひずみと同時に横ひずみが発生する現象をポアソン効果と呼びます。
    ポアソン比・ポアソン数・ポアソン効果という呼び名は、18~19世紀のフランスの物理学者・数学者シメオン・ドニ・ポアソンにちなんだものです。ポアソンはこの他に、確率・統計で用いられるポアソン分布や、偏微分方程式のポアソン方程式、熱力学のポアソンの法則などにもその名を残しています。

    引張りひずみ、圧縮ひずみとは?

    縦ひずみは引張り方向のひずみなので、引張りひずみとも呼びます。それとは逆に材料を圧縮すると、縮む方向に縦ひずみが生じます。これを圧縮ひずみと呼びます。この際には直角方向の横ひずみは太くなる方向になります。
    従って、引張り荷重の場合は縦ひずみ:プラスの値/横ひずみ:マイナスの値、圧縮荷重の場合は縦ひずみ:マイナスの値/横ひずみ:プラスの値になります。

    ポアソン比の求め方・計算方法

    ひずみとは荷重をかけた時の物体の寸法の変化率のことです。すなわち縦ひずみでは

    ε = λ /l
     ε:縦ひずみ
     λ:物体の長さの変化量
     l:元の物体の長さ

    の式で求められます。引張りひずみの場合はλがプラスなので、ひずみは正の値、圧縮ひずみの場合はλがマイナスなので、ひずみは負の値になります。
    横ひずみでは同様にして

    ε′= δ /d
     ε′:横ひずみ
     δ:物体の直径の変化量
     d:元の物体の直径

    の式で求められます。
    ポアソン比はこの2つのひずみの値から

    ν = - ε′/ ε
     ν:ポアソン比
     ε′:横ひずみ
     ε:縦ひずみ

    の式で求められます。ポアソン比の値はそれぞれの材料固有の定数で、その材料の特性を示すものです。

    材料ごとのポアソン比

    物体に荷重を加えた時に形状が変化しても、体積が変化せず一定である材料のポアソン比は0.5となります。ポアソン比が理論上の上限である0.5に近い材料には、天然ゴム:0.49などがあります。逆に荷重を加えると体積が大きく変化する材料のポアソン比は、ダイヤモンド:0.1、コンクリート:0.2、コルク:ほぼ0などと小さくなります。金属材料のポアソン比は0.3前後、プラスチック材料のポアソン比は0.35前後です。
    機械装置や構造物などによく用いられる材料のポアソン比の目安を、以下に示します。

     鋳鉄:0.27
     鋼:0.28~0.30
     アルミニウム:0.345
     銅:0.343
     黄銅:0.35(亜鉛30%の場合)
     ポリスチレン:0.35
     ポリカーボネート:0.39
     エポキシ樹脂:0.37
     天然ゴム:0.49
     ガラス:0.27

    ヤング率との関係性

    材料の形状変化のしやすさはヤング率(縦弾性係数)で示され、硬い材質はヤング率の値が大きく、柔らかい材質は小さくなります。ポアソン比とヤング率から、以下の式で横弾性係数が求められます。

    G = E×1/2 (1+ν)
     G:横弾性係数
     ν:ポアソン比
     E:ヤング率

    【ヤング率についての解説はこちら】

    ポアソン比の単位と記号

    ポアソン比はギリシャ文字のν(ニュー)で表します。縦ひずみと横ひずみの数値の比率であるため単位はありません。
    ポアソン比を求める素となるひずみの記号はε(イプシロン)です。縦ひずみを求める素となる物体の変化量の記号はλ(ラムダ)、横ひずみを求める素となる物体の変化量の記号はδ(デルタ)です。またポアソン比の逆数がポアソン数で、mで表されます。

    m = 1/ ν
     m:ポアソン数
     ν:ポアソン比

    ポアソン比の活用シーン

    ポアソン比は、機械装置や構造物などの設計の際の構造計算や材料の選定・強度計算などに使われます。機械設計では材料特性値のひとつとして使用し、一般的には鉄鋼材料:0.30、プラスチック:0.35のポアソン比を用います。これらの計算はかつての手計算から、現在では多くの場合CAE解析に移行していますが、ポアソン比がヤング率や横弾性係数などとともに重要な係数であることには変わりはありません。

    ポアソン比を活用する際の注意点

    上記の横弾性係数を求める式G=E×1/2(1+ν)...


    ポアソン比とはどういう意味?求め方やヤング率との関係、活用例を解説


    機械装置や構造物などの設計で、構造計算や材料の強度計算をする際に登場する数値のひとつに「ポアソン比」があります。よく使う数値で言葉には馴染みがあり、意味も何となくわかっているが、正確な定義となると即答できない… 私も含め、そのような技術者は決して少なくないのではないでしょうか?ポアソン比とは何か?ヤング率との関係や使い方の注意点などをおさらいしてみたいと思います。

    【目次】


      ポアソン比とは何か?

      ポアソン比とは、物体に弾性限界内で荷重をかけた際に生じる縦方向(荷重方向)と横方向(荷重に直角方向)のひずみの比のことです。例えば棒を引っ張った場合、棒は引っ張った方向に伸び(縦ひずみ)、引っ張った方向と直角方向には細くなります(横ひずみ)。この「横ひずみ/縦ひずみ」の値がポアソン比です。ポアソン比はヤング率と同様に、弾性限界内ではその材料固有の定数です。また、ポアソン比の逆数をポアソン数、縦ひずみと同時に横ひずみが発生する現象をポアソン効果と呼びます。
      ポアソン比・ポアソン数・ポアソン効果という呼び名は、18~19世紀のフランスの物理学者・数学者シメオン・ドニ・ポアソンにちなんだものです。ポアソンはこの他に、確率・統計で用いられるポアソン分布や、偏微分方程式のポアソン方程式、熱力学のポアソンの法則などにもその名を残しています。

      引張りひずみ、圧縮ひずみとは?

      縦ひずみは引張り方向のひずみなので、引張りひずみとも呼びます。それとは逆に材料を圧縮すると、縮む方向に縦ひずみが生じます。これを圧縮ひずみと呼びます。この際には直角方向の横ひずみは太くなる方向になります。
      従って、引張り荷重の場合は縦ひずみ:プラスの値/横ひずみ:マイナスの値、圧縮荷重の場合は縦ひずみ:マイナスの値/横ひずみ:プラスの値になります。

      ポアソン比の求め方・計算方法

      ひずみとは荷重をかけた時の物体の寸法の変化率のことです。すなわち縦ひずみでは

      ε = λ /l
       ε:縦ひずみ
       λ:物体の長さの変化量
       l:元の物体の長さ

      の式で求められます。引張りひずみの場合はλがプラスなので、ひずみは正の値、圧縮ひずみの場合はλがマイナスなので、ひずみは負の値になります。
      横ひずみでは同様にして

      ε′= δ /d
       ε′:横ひずみ
       δ:物体の直径の変化量
       d:元の物体の直径

      の式で求められます。
      ポアソン比はこの2つのひずみの値から

      ν = - ε′/ ε
       ν:ポアソン比
       ε′:横ひずみ
       ε:縦ひずみ

      の式で求められます。ポアソン比の値はそれぞれの材料固有の定数で、その材料の特性を示すものです。

      材料ごとのポアソン比

      物体に荷重を加えた時に形状が変化しても、体積が変化せず一定である材料のポアソン比は0.5となります。ポアソン比が理論上の上限である0.5に近い材料には、天然ゴム:0.49などがあります。逆に荷重を加えると体積が大きく変化する材料のポアソン比は、ダイヤモンド:0.1、コンクリート:0.2、コルク:ほぼ0などと小さくなります。金属材料のポアソン比は0.3前後、プラスチック材料のポアソン比は0.35前後です。
      機械装置や構造物などによく用いられる材料のポアソン比の目安を、以下に示します。

       鋳鉄:0.27
       鋼:0.28~0.30
       アルミニウム:0.345
       銅:0.343
       黄銅:0.35(亜鉛30%の場合)
       ポリスチレン:0.35
       ポリカーボネート:0.39
       エポキシ樹脂:0.37
       天然ゴム:0.49
       ガラス:0.27

      ヤング率との関係性

      材料の形状変化のしやすさはヤング率(縦弾性係数)で示され、硬い材質はヤング率の値が大きく、柔らかい材質は小さくなります。ポアソン比とヤング率から、以下の式で横弾性係数が求められます。

      G = E×1/2 (1+ν)
       G:横弾性係数
       ν:ポアソン比
       E:ヤング率

      【ヤング率についての解説はこちら】

      ポアソン比の単位と記号

      ポアソン比はギリシャ文字のν(ニュー)で表します。縦ひずみと横ひずみの数値の比率であるため単位はありません。
      ポアソン比を求める素となるひずみの記号はε(イプシロン)です。縦ひずみを求める素となる物体の変化量の記号はλ(ラムダ)、横ひずみを求める素となる物体の変化量の記号はδ(デルタ)です。またポアソン比の逆数がポアソン数で、mで表されます。

      m = 1/ ν
       m:ポアソン数
       ν:ポアソン比

      ポアソン比の活用シーン

      ポアソン比は、機械装置や構造物などの設計の際の構造計算や材料の選定・強度計算などに使われます。機械設計では材料特性値のひとつとして使用し、一般的には鉄鋼材料:0.30、プラスチック:0.35のポアソン比を用います。これらの計算はかつての手計算から、現在では多くの場合CAE解析に移行していますが、ポアソン比がヤング率や横弾性係数などとともに重要な係数であることには変わりはありません。

      ポアソン比を活用する際の注意点

      上記の横弾性係数を求める式G=E×1/2(1+ν)は、材料が等方性弾性体であるという条件下で成立するものです。等方性とは材料の特性が方向によって変わらないことで、例えば鋼材や非結晶性高分子などが等方性弾性体に該当し、強度や弾性係数は荷重の方向に依存しません。
      いっぽう、例えば木材は繊維の方向によって強度や弾性係数などの力学的特性が異なる異方性材料です。アルミダイカストや鋳鉄、また近年使用範囲が広がっている炭素繊維も異方性材料です。このような異方性材料では、上記の横弾性係数の式からは正しいポアソン比を求めることはできず、縦弾性係数、横弾性係数、ポアソン比をそれぞれ個別に求める必要があります。

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      まとめ

      ポアソン比とは、物体に弾性限界内で荷重をかけた際に生じる縦方向と横方向のひずみの比のことで、機械装置や構造物などの構造計算や材料の強度計算などに使われます。ポアソン比はそれぞれの材料固有の定数で、その材料の特性を示します。金属材料のポアソン比は0.3前後、プラスチック材料のポアソン比は0.35前後です。
      等方性弾性体ではポアソン比とヤング率から公式により横弾性係数を求めることができますが、木材やアルミダイカスト、鋳鉄、カーボンファイバーなどの異方性材料ではこの式は成立しないので注意が必要です。

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      この記事の著者

      嶋村 良太

      商品企画・デザインとエンジニアリングの両方の視点を統合し、顧客満足度の高い商品開発を実現していきます。

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