【快年童子の豆鉄砲】(その125)タグチメソッドとは(1)

【目次】

    1. タグチメソッド

    ここからは、表2-1にある「喫緊の課題」の10番目「新製品の市場品質問題が絶えない」の発生要因「開発時の市場品質に対する配慮が足りない」に対する解決手段「タグチメソッド」の説明に入らせて頂きます。

     

    表2-1 中小企業が抱える喫緊の課題12と課題発生要因17に対する解決策の概要

     

    このタグチメソッドは、田口玄一博士が、後述する伊奈製陶(現INAX)における品質改善経験をベースに作り上げた手法で、日本では品質工学と呼ばれているのですが、アメリカで大変な評価を得て、ゼロックス社のドン・クロージングによりタグチメソッドと命名され、最近では日本でもこちらの方がポピュラーになっています。

     

    ここで何故タグチメソッドをお勧めするかと言いますと、これから中小企業が生き残るには、市場経験のない市場創造型商品開発への挑戦が必要なのですが、その場合、決め手になる「開発における市場品質の造り込み」の手段として「タグチメソッド」の活用は必須と言えるからです。

     

    従って、ここでは、なぜタグチメソッドをお薦めするのかを、その考え方や効用を中心にご説明し、それをお読みになって、タグチメソッドを使おうという気になられたものの、もう少し詳しく知りたいと思われた方には、「タグチメソッド入門」立林和夫著(日経文庫1197 2009年3月13日初版)をお勧めしたいと思います。この本は、とても読み易くてタグチメソッドの中身がよく分かるだけでなく、最後に“参考図書と学習のガイド”と言う個所に、皆さんのニーズに合った本が的確に紹介されていますのでお勧めです。

     

    タグチメソッドは、実験計画法と同様で、使ってみてはじめて十分な理解ができるものですので、ある程度勉強されたら、セミナーと言ったところではなく、具体的テーマを持って、現在現役で活用しておられる方にコンタクトされて指導を仰がれるのがよいと思います。

     

    2. 品質の定義と市場品質に対する対応

    1)品質の定義

    先ず、品質の定義ですが、一般的な品質管理のベースになっているISO9000では「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義されていて、買い手側である顧客(消費者)が求める特性との合致度」が「品質」と言えるのですが、タグチメソッドでは「品質とは、品物が出荷後、社会に与える損失である。ただし、機能そのものによる損失は除く」と定義されているのです。

     

    2)前者(一般的な品質管理)定義の問題点

    両定義を、ここで取り上げているテーマ「市場クレーム」という観点から見てみますと、前者の場合、“本来備わっている特性の集まり”および、それを満たす“要求事項”が、市場での使われ方、即ち、市場品質をカバーできているかという点が問題になります。

     

    と言いますのは、市場での使われ方は多種多様である上、経時劣化も想定すべきですので、“本来備わっている特性の集まり”が満たすべき“要求事項”に、そういった市場品質に関わる内容を落とし込むのは“無理”と言えるからです。

     

    従前のように、顧客の要求が単純明快な初期段階ならともかく、製品機能が複雑になり、使用環境、使われ方の多様さが増した上、要求レベルが上がってきた現在、その“無理”が、市場クレームという形で表面化しているのが現状と言え、現在の品質管理(TQM)が限界を迎えていると言えます。

     

    3)タグチメソッドの定義について

    一方、後者のタグチメソッドにおける定義は、ズバリ市場品質が対象で、しかも、市場で使われたときに生じる“社会に与える損失”即ち、“市場クレーム”に焦点を絞っていますので、ここで取り上げているテーマ「市場クレーム」に対する対応策を検討する上で的確と言えます。

     

    3. タグチメソッドとは

    1)日本では品質工学

    タグチメソッドは、田口玄一博士が、後述する伊奈製陶(現INAX)における品質改善経験をベースに作り上げた手法で、日本では品質工学と呼ばれているのですが、アメリカで大変な評価を得て、ゼロックス社のドン・クロージングによりタグチメソッドと命名され、最近では日本でもこちらの方がポピュラーになっています。

     

    2)タグチメソッドの原点

    1953年、伊奈製陶(現INAX)がタイル製造の焼付工程を“バッチ式”から“トンネル式連続式”に生産革新したところ、コンベア中央部の温度が低く生焼け不良...

    が20%発生し、その対策としてバーナーを追加して炉内温度を均一化する計画を立てたが、経営的に追加投資出来ない事態となった。

     

    この問題解決に若き(当時29歳)田口玄一氏が取り組み、炉内の高温部、低音部共によく焼ける材料配合にするという対策方針を立て、最適配合を求めるための実験7因子2水準を直行表(L8)に割り付けて実験して求めた最適配合にすることにより、炉内温度をそのままで不良率を2%にすることに成功したのです。

     

    この経験をした田口氏は「これは、経験した生焼け不良対策、即ち、事後改善だが、事前に炉内の温度分布を入手すれば、事前にこの実験を行って最適配合を手に入れることが出来たのではないか」と考えたのです。要するに、事前にノイズの範囲を予測し、そのバラツキに耐える頑健な(ロバスト)製品設計をすることにより、品質不良を未然予防すべきである、即ち、今でいう“未然防止”と言うことになります。

     

    この経験をもとに確立した「製品に関わるノイズのバラツキを予測し、直行表を使って最も頑健な製品設計、即ち“ロバスト設計”をすることにより不良を未然に防止する」という考えがタグチメソッドの原点と言えます。

     

    3)タグチメソッドの考え方

    製品の品質を、製品を使った時の「製品性能」とした場合「品質問題」は「ノイズによる製品性能のバラツキ」が原因といえるのですが、タグチメソッドでは、そのノイズを下記3種類に分類しています。

    • ① 外乱(使用条件のバラツキ、使用中に飽きる環境条件の変化)
    • ② 内乱(使用中に製品内部の状態変化)
    • ③ 製造バラツキ(製造のバラツキや使用部材のバラツキ)

    “③”は、メーカー側の従来の品質管理で対応できますが、“①”と“②”は、対象が、市場で発生するノイズですので、メーカー側としては直接的な対処が出来ないのです。

     

    では、どうするかなんですが、そうしたノイズを可能な限り事前に把握し、それを許容できる設計をするしかないわけです。

     

    ここで問題になるのが、多種多様な市場でのノイズの影響をどのようにして把握するかなんですが、通常のやり方では、大変な試験が必要になるのですが、タグチメソッドでは、実験計画法(直交表)を採用することにより、対処可能な回数の試験に絞り込めるのです。

     

    そのあたりを具体的にご理解頂けるよう、次回は、タグチメソッドの原点と言える「伊奈製陶(現INAX)における品質改善事例」をご説明します。

     

     

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