スナップフィットの外し方の設計思想とは

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スナップフィット

 

プラスチック部品同士の締結用にスナップフィットは様々な製品で使われています。

プラスチック製の穴埋めキャップやクリップ、目地・シールパーツは、部品そのものを変形させて反力で摩擦力により外れないようにしています。問題は、応力緩和によって反力が低下していくことです。

このような部品は、穴や隙間自体に特殊な形状や加工が不要で、挿入するのは部品だけのため使用例は多くあります。しかし、パーツの肉厚・長さなど反力の大きさに影響を与える要因がたくさんあり不具合が起きやすいようです。例えば穴径や隙間のバラツキ、キャップやクリップ、目地・シールパーツのバラツキ、環境温度などです。

さらにそこに応力緩和が加わるため、高い信頼性の設計を行うことは難しいでしょう。建築・住宅設備では隙間埋めのために、このような例が数多くありますが、部品外れや浮き、ガタツキのトラブルが後を絶たないようです。外れにくさだけを考えると、反力に頼らないスナップフィットのような構造が望ましいといえます。スナップフィットは挿入する際には部品を変形させますが、応力緩和の心配は挿入後に応力は発生しないので必要ありません。

今回は、このような背景を踏まえて、スナップフィットの概要を解説します。

◆関連解説記事『プラスチック材料の特性を考慮した強度設計(その1)』

 

1. スナップフィットとは

スナップフィットとは、プラスチックや金属などの結合に使用される機械的接合法の一つで、材料の弾性を利用して部品をはめ込むように固定する構造のことです。

身近な例では、プラモデルで接着剤を使用せずにこの方式で部品をはめ込んで組み立てる種類の商品があり、スナップフィットモデル、スナップフィットキットと呼ばれています。

 

スナップフィットの結合構造としては、組み立て、分解を可能にするためのたわみ部分(板バネ)の先端に、拘束するためのフック状の保持部を設けたカンチレバータイプが最も一般的で、各種の製品に広く使われています。他に円筒の周囲に保持部を設けたタイプ、ボールジョイント状のボールソケットタイプなどがあります。

これらのスナップフィットの構造は、使用する機械装置などの部位とその機能に合わせて選択されます。一般に多く使われるプラスチック製のスナップフィットでは、射出成形で製造することによって複雑な形状や大量生産に対応しています。

 

ある特定の用途に最適化した機能を持つスナップフィットも各種作られています。例えばオイレス工業が供給する食品製造業の生産機械向けのブッシュと呼ばれるスナップフィットでは、樹脂部品に色を付けることで万一破損した際にも見つけやすくなっており、製品への異物混入を防止することができます。またポジティブリスト適合の樹脂を使用することで、食品安全基準への対応を図っています。

 

2. スナップフィットのメリット・デメリット

スナップフィットのロック部分は、弾性的にたわんで挿入し、元の形に戻って締結するため柔軟性が求められ、その分、強度はどうしても低くなりがちです。

そのため多くの場合、ロック部分による拘束は部品の取り付けと反対方向に限り、他の方向はロケーターにより拘束していく方法を取ります。

 

スナップフィットは以下のようなメリットがあります。

①部品点数を少なくして軽量化を図ることができる。

②単純な形状のため安価である。

③形状設計に自由度があり、さまざまな異種材料と組み合わせても問題が無い。

④組立・分解作業が容易で、生産時の組立性はもとより保守、修理、リサイクル性も非常に優れている。

⑤接着剤や潤滑剤がいらない。

 

いっぽう、スナップフィットには以下のようなデメリットがあります。

①部品の成形精度、また固定強度・精度に限界がある。

②使用可能なプラスチック材料に一定の制約がある。

③繰り返しの使用でプラスチック材料が劣化して疲労破壊することがある。

④特に高温や低温環境では、使用方法に注意しないと破損の原因になる。

 

3. スナップフィットの外し方の設計思想

スナップフィットは、使用するシーン(いつ、誰が、何のために外すのか)を考えた外し方の設計をする必要があります。

①誰が外すのか

人によって、力の強さ、知識、使用する工具なども変わってきます。

スナップフィットを設計する際には、使用者の特性や使用状況を考えて設計していく必要があります。...

スナップフィット

 

プラスチック部品同士の締結用にスナップフィットは様々な製品で使われています。

プラスチック製の穴埋めキャップやクリップ、目地・シールパーツは、部品そのものを変形させて反力で摩擦力により外れないようにしています。問題は、応力緩和によって反力が低下していくことです。

このような部品は、穴や隙間自体に特殊な形状や加工が不要で、挿入するのは部品だけのため使用例は多くあります。しかし、パーツの肉厚・長さなど反力の大きさに影響を与える要因がたくさんあり不具合が起きやすいようです。例えば穴径や隙間のバラツキ、キャップやクリップ、目地・シールパーツのバラツキ、環境温度などです。

さらにそこに応力緩和が加わるため、高い信頼性の設計を行うことは難しいでしょう。建築・住宅設備では隙間埋めのために、このような例が数多くありますが、部品外れや浮き、ガタツキのトラブルが後を絶たないようです。外れにくさだけを考えると、反力に頼らないスナップフィットのような構造が望ましいといえます。スナップフィットは挿入する際には部品を変形させますが、応力緩和の心配は挿入後に応力は発生しないので必要ありません。

今回は、このような背景を踏まえて、スナップフィットの概要を解説します。

◆関連解説記事『プラスチック材料の特性を考慮した強度設計(その1)』

 

1. スナップフィットとは

スナップフィットとは、プラスチックや金属などの結合に使用される機械的接合法の一つで、材料の弾性を利用して部品をはめ込むように固定する構造のことです。

身近な例では、プラモデルで接着剤を使用せずにこの方式で部品をはめ込んで組み立てる種類の商品があり、スナップフィットモデル、スナップフィットキットと呼ばれています。

 

スナップフィットの結合構造としては、組み立て、分解を可能にするためのたわみ部分(板バネ)の先端に、拘束するためのフック状の保持部を設けたカンチレバータイプが最も一般的で、各種の製品に広く使われています。他に円筒の周囲に保持部を設けたタイプ、ボールジョイント状のボールソケットタイプなどがあります。

これらのスナップフィットの構造は、使用する機械装置などの部位とその機能に合わせて選択されます。一般に多く使われるプラスチック製のスナップフィットでは、射出成形で製造することによって複雑な形状や大量生産に対応しています。

 

ある特定の用途に最適化した機能を持つスナップフィットも各種作られています。例えばオイレス工業が供給する食品製造業の生産機械向けのブッシュと呼ばれるスナップフィットでは、樹脂部品に色を付けることで万一破損した際にも見つけやすくなっており、製品への異物混入を防止することができます。またポジティブリスト適合の樹脂を使用することで、食品安全基準への対応を図っています。

 

2. スナップフィットのメリット・デメリット

スナップフィットのロック部分は、弾性的にたわんで挿入し、元の形に戻って締結するため柔軟性が求められ、その分、強度はどうしても低くなりがちです。

そのため多くの場合、ロック部分による拘束は部品の取り付けと反対方向に限り、他の方向はロケーターにより拘束していく方法を取ります。

 

スナップフィットは以下のようなメリットがあります。

①部品点数を少なくして軽量化を図ることができる。

②単純な形状のため安価である。

③形状設計に自由度があり、さまざまな異種材料と組み合わせても問題が無い。

④組立・分解作業が容易で、生産時の組立性はもとより保守、修理、リサイクル性も非常に優れている。

⑤接着剤や潤滑剤がいらない。

 

いっぽう、スナップフィットには以下のようなデメリットがあります。

①部品の成形精度、また固定強度・精度に限界がある。

②使用可能なプラスチック材料に一定の制約がある。

③繰り返しの使用でプラスチック材料が劣化して疲労破壊することがある。

④特に高温や低温環境では、使用方法に注意しないと破損の原因になる。

 

3. スナップフィットの外し方の設計思想

スナップフィットは、使用するシーン(いつ、誰が、何のために外すのか)を考えた外し方の設計をする必要があります。

①誰が外すのか

人によって、力の強さ、知識、使用する工具なども変わってきます。

スナップフィットを設計する際には、使用者の特性や使用状況を考えて設計していく必要があります。

②外す目的は

目的に応じて、外す頻度、外しやすさ、外す手順を変えていく必要があります。

例えば電気製品などのリモコンでは、電池を交換する際に一般のユーザーが何度も素手で外すので、簡単に外せるように設計する必要があります。

それに対してシュレッダーの刃の交換などでは、一般のユーザーには簡単に開けられないように、特殊工具を使用しないと開かない設計としています。

 

4. 応力緩和でトラブルを起こさないためには

設計者にとって、クリープや応力緩和といったプラスチックの粘弾性特性を活かしたスナップフィットはやっかいな特性です。設計時に材料特性を完全に把握して設計を行うことができればよいですが、手間のかかる材料評価を考えると簡単ではありません。そういう意味では、トラブルを起こさないためには設計者はプラスチック材料にできるだけ常時荷重・変形を発生させないことを優先させることが重要です。

 

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この記事の著者

嶋村 良太

商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸送用機器。技術士(機械部門・総合技術監理部門)

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