研究開発テーマのマネジメントとは

 
  
 
 ものづくり企業は、研究開発テーマから新たに企業経営の柱を生み出す必要があり、投資を惜しんではいけないのですが、なかなか中止できるテーマがないため、財務に大きな影響を及ぼす場合が散見されます。一方、研究開発テーマの整理から、テーマを中止した場合の担当技術者のモチベーションや処遇も経営の頭痛の種です。そこで今回は、次の3点に関して技術マネジメントを解説します。
 
 

1. 新規開発と経営資源

 
 研究開発にどの程度の経営資源を投入するかは、企業経営者の事業経営に対する考え方(成長重視か安全重視か)、企業(または事業)年齢、業種等によって区々であり、一律に述べることはできませんが、研究開発費の売上高比率は、全産業ベースおよび中小企業の場合について、国の調査結果が報告されており、これが一つの目安になると思います。
 
 例えば、日本の全企業について、2005~2009年度の5年間を調査したデータでは、研究開発費の売上高比率の全産業の平均値は3.4%、製造業では4.3%、電気機械の場合は、5.0%、情報通信が7.1%、医薬品が15.1%、光学機械器具等では7.8%となっています。
 
 これに対し、中小企業について、同じ期間を調査したデータでは、製造企業全体で1.6%、化学工業は2.3%、精密機械器具は2.9%、電気機械器具は2.9%、一般機械器具で1.3%となっており、全企業ベースに比べて全般的に低い数値になっています。
 
 ただし、ここに示された研究開発費は、研究費トータル(基礎的なものから、品質改良、コストダウン、新商品開発等の全てを含む)であり、その中における新規開発の比率については具体的な数値がなく、全く不明です。
 

2. 増えすぎたテーマを絞り込む時の考え方と選定方法

 
 開発テーマを絞り込む場合にはまず、開発テーマを下記のような性格によって分類することが大切です。
 
  A.現事業の延長線上の開発(同一製品の品質・性能向上、コストダウン等)
  B.現事業の周辺事業の開発(同一製品の周辺用途への展開)
  C.現事業の周辺事業の開発(現事業への周辺製品の展開)
  D.周辺事業への周辺製品への展開
 
 現事業は衰退期にあるとのことですので、Aのテーマに経営資源を投入しても、例え事業の延命は図れたとしても成長や高い利益率を望むことはできません。したがって、B、C等の周辺ビジネス、さらにDのような新規ビジネスを目指した開発テーマにも一定の経営資源を投入することが事業の成長、利益率の向上にとって不可欠です。A、B、C、Dに投じる経営資源の割合をどの程度にするのかを事業戦略の立場から予め、設定しておくことが大事です。
 
 開発テーマの絞り込みを行う場合には、開発テーマをA、B、C、Dの区分で分類した上で、各区分内の開発テーマの優先順位付けを行い、もしある区分に分類されたテーマを全て実施するとその区分に割り当てられた開発費をオーバーしてしまうのであれば、開発費の枠の中に納まるように優先順位の低い開発テーマをカットすることになります。
 
 開発テーマの優先順位付けは下記のような観点を総合的に判断して実施します。
 

(1) 市場評価

 
 

(2) 技術評価

 
 

(3) 競合他社評価

 
 

(4) 事業・財務評価

 
 

(5) 事業に対する貢献度

 
 
 絞り込みは、開発テーマの推進に際しても、適宜進めていくことが必要です。そのための手法としてステージゲートシステムが米国で開発され、今や世界の多くの企業で実践されています。
 
 ステージゲートシステムでは開発の初期段階から事業化までの過程を、調査、ビジネスプランの策定、開発、テストと検証、市場投入等のいくつかのステージに区分し、ステップワイズに開発を進める手法です。
 
 一般に、開発ステージが上がるにつれて、経営資源の必要投入量が増えることになりますので、次のステージに進む場合にはゲートと言われるチェックポイントで審査を行い、次のステージに進んでいいか、同じステージでさらに検討を進めるべきか、あるいはその段階で開発を中止すべきか、を判断します。この時に使用される判断基準は、上記の1~5をステージ毎にアレンジしたものとなります。
 
 ゲートにおけるチェックに際しては、常に開発テーマ全体を見渡し、A.B.C.D間の経営資源配布割合の見直し、過去に中止の判断をしたテーマの再評価等を行って、より適切な戦略展開ができるように心がけることが大事です。
 

3. 中止テーマ担当技術者に対する注意点

 
 上述の「開発テーマの絞り込みの考え方」について、日ごろから十分に開発技術者に説明し、理解して頂いておくことが大切です。その上で、テーマを中止する場合には、上記の考え方に基づいて適切な判断が行われるように務め、あるテーマが中止と判断された場合には、責任者が担当技術...
者と十分な話し合いを行い、担当技術者に結論を理解してもらうことが必要です。
 
 その際、仮に担当技術者の努力不足が中止の判断の主な原因であるとすれば、その点について、担当技術者にしっかりと指摘を行うことが担当技術者の今後の成長を図る上で大事です。一方、担当技術者本人に起因しない事項が中止判断の大きな理由であったのであれば、そのことを担当技術者に説明し、さらには、事情が変化すれば、再びチャレンジの機会があるかも知れないことを説明しておくことが大事です。
 
 なお、担当していたテーマが中止になった技術者については、他のテーマへのチャレンジを促し、速やかに新たな課題に挑戦できるよう環境条件を整えていくことが、担当者本人にとっても、企業にとっても大切なことです。
 
 このような配慮をしっかり実施すれば、担当技術者のモチベーションの低下を最小限度に悔い止めることができるでしょう。
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者