1. 製造業における環境への対応経緯
今でこそ日本は、中国のPM2.5などの空気汚染を疎ましいものとして非難していますが、ご存知のように1960年代70年代は同様の問題を抱えていました。川崎ぜん息、四日市ぜん息に代表される工場からの汚染物質が空中に放出され、水俣病の水銀などの有害物質が川などに排出され病気の原因となり、多くの死者まで出し、工場地帯、人口密集地帯の川は生物が住めない環境となっていたのです。
その原因は、まずそれら有害物質と健康との因果関係が今ほどはっきり解明されていなかったこともありますが、それ以上に経済成長と豊かな生活への志向が強く、環境保護にまで気持ちが回らなかったことが挙げられます。
図1.社会発展と環境維持のバランス
高度成長とともに、製造業副産物の健康への影響が明らかになるにつれ、少しずつ法律も整備が進み、企業への環境対応要求が強くなっていきました。国際的な流れも加速し、1992年に「人類は持続可能な開発の中心にある」というリオ宣言を地球サミットで公開するに至って、環境重視は定着したと言って良いでしょう。
もちろんまだ十分に経済発展の恩恵を受けていない途上国に過度の負担を強いることは難しく、だからと言って中国を始めとする有害物質大量排出国を野放しにすると、活動の国際的成果が極めて限定されるなど、バランスのとり方が容易ではありません。
またここにきて米国トランプ大統領がCOP(気候変動枠組条約締約国会議)21で決議されたパリ合意からの離脱を示唆するなど、時代に逆行する動きもあり予断を許しません。直近の経済発展や生活重視と将来的な持続的発展のトレードオフは今後も続きます。決定的な解決はないものの、少しずつ理想に近づいていくと信じたいものです。
2. 製造業に関連する環境関連法案
前項のような歴史を受けて、日本の環境関連法案は整備され、現在では図2のような体系になっています。
図2.環境関連法体系
(1)環境基本法
環境に関する基本的な方針として、以下3点が規定されています。
- 環境の恵沢の享受と継承
- 環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築
- 国際的協調による地球環境保全の積極的推進
(2)循環型社会形成推進基本法
国、地方公共団体、事業者、国民それぞれの責務を明示し、製品の生産時だけではなく、使用時や廃棄後の環境影響まで生産者の責任であるとする「拡大生産者責任」の考え方を示しています。また3R(Reduce:使用削減、Reuse:再使用、Recycle:再生使用)を筆頭とする廃棄物処理の優先順位や個別法規制定についても言及しています。
(3)廃棄物処理法
廃棄物毎に処理責任者を設定し、その実行を書面で管理するマニュフェスト制度も規定されています。
(4)資源有効利用促進法
資源が大量使用・大量廃棄されることを抑制し、リサイクルによる資源の有効利用の促進方法を規定します。
(5)個別法
分野別に5つのリサイクル法や、購入時に環境対応製品を優先するグリーン購入法、そして大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、化学物質審査規制法、省エネ法、新エネルギー利用促進法など、社会情勢に対応して多くの法律が整備されてきました。
これらはいずれも製造業の生産活動に強く関連するものであり、十分に理解して遵守する必要があります。
3. 環境マネジメントシステムISO14000シリーズ
以上のように法律を整備しながら、日本は環境問題に取り組んできたわけですが、違反しなければそれで良しというのではなく、より良い社会づくりに向けて継続的にPDCAを回していくことが望まれているものの、その仕組みを自律的に築くことは容易でありません。そこで制定されたのが、国際的な環境マネジメントの標準であるISO14000シリーズです。これは言ってみれば良くできた教科書のようなもので、その通りシステム化するだけで必ずうまくいくわけではないのですが、これを参考せずに構築しようとすると、たいへんな試行錯誤の末に効果の低いシステムになりかねません。
要求項目の中心は「4.3計画」...