MTシステム超入門(その10)

37.クラッチディスクの外観検査

 MTシステム研究会で筆者が事例報告した、クラッチディスク(自動車部品の一つ)の外観検査の事例は、後に国内外で評価を受けることになりました。 1996年のことで、千歳市にある(株)ダイナックスの製品について「これまで目視検査してきたが、枚数も多いし大変なので自動化ができないか」との依頼を受け、取りかかりました。その結果、かなり微妙な傷や汚れも見分けることができたのです。

 それまでどの画像メーカでもうまくいかなかったディスク検査が、なぜMTシステムで成功したのかは、今考えても不思議なところがあります。 T先生も筆者も画像を専門に扱ったことはありません。理由を挙げるなら、

  ①「パターン認識は計測」との捉え方が的を射ていること

  ②画像にT先生の特徴定義のアイディアを適用したこと

  にあると思っています。

 人間や動物がやっている同じ方法をコンピュータにさせればうまくいく、と考えやすいのですが、技術では多くの場合、別のやり方を採用してきました。空を飛びたいと考えた昔の人が腕に羽根をつけてみて失敗し、最後にプロペラを採用して成功しました。 クラッチ検査では、画像を波形の集まりとして処理を行ないました。画像は輝度すなわち濃淡の集合です。そうすると、傷や汚れがある場合には、右図下に示すように輝度波形が乱れます。

 T先生の方法は、「波形に横線を何本か引いて、数を数える」という方法です。数えることならコンピュータは得意です。 “波形パターンとしての類似性”を判断する根拠の一つが「数を数える」方法であり、実際に有効に働きます。また、従来の定石だった“周波数分析”や“ウェーブレット”にない利点も持ち合わせています。

 

38.数え方の簡単な説明

 波形からの特徴抽出方法である「数え方」について、ごく簡単にご説明します。  図では波形に対して等間隔で3本の線が引かれています。線と波形との交点の数を数えると一番下の線では4、真ん中は6、上は2です。この(4 6 2)という数値の組み合わせは、ここに見えている波形の特徴を示しています。周波数の要素、振幅の要素、さらには波の形状の要素を持っています。

  線の数が増えれば情報量は増えますが、適切な数があります。

 

39.異音検査

  「数を数える+MTシステム」の実用例として「異音検査」があります。 あるメーカでは、出来上がった歯車部品の動作音に異常がないかどうかを、若い女性の耳を使い検査していました。この課題に適用して女性の判定と遜色のない結...

果が出たので、検査の自動化が可能となりました。

 それまで動作音検査のためには、女性が二畳ほどの防音室に入って検査をしていました。仕事とは言っても苦痛だったことでしょう。

 

40.経済の動きと振動現象

 経済は繰り返し周期を持つそうですが、それを解析するために「周波数解析」あるいは「スペクトル解析」という理論が発展しました。振動現象が持つ特性を総合的に取り出す数理です。スペクトル解析はものづくり技術などでも重要な手段です。

  「数を数える」方法は、こうしたスペクトル波形にも利用することができ、波形の同一性を数値化することができます。

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