燃料電池 次世代技術(その1)

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 神奈川県では参入希望の中小企業を対象に「スマートエネルギー関連製品等開発促進事業(HEMS)」を、埼玉県では「次世代産業参入支援事業費補助金」を展開しています。これらは、次世代産業分野への参入、オンリーワン技術の確立等、現状を打破するイノベーションに取り組もうとする中小企業を支援しています。特に、神奈川県では「開発アドバイザー」制度を設けて具体的なアドバイスも実施しています。
 
 しかしながら、資本力、人材力等で優る大企業でも計画通り進行できていないようです。中小企業にとって次世代技術の開発は、リスクの巨大な山のようなものです。開発アドバイザーとしての経験、大学の次世代技術講座講師等の経験から、次世代技術の本質、今後どうあるべきかを含めて考察します。
 

1. 燃料電池とは

 
 燃料電池とは、水素と酸素の電気化学的な反応等により発生した電気を継続的に作り出すことができる発電装置のことです。電気を使い切れば終わる乾電池等の一次電池や、充電してくり返し使用できるリチウムイオン電池等の二次電池と区別されます。都市ガスやLPガス等から取り出した水素と空気中の酸素を利用して、水の電気分解の逆の化学反応により直接電気へ変換し発電します。
 
<特長>
(1)電気を使う場所で発電するので送電で発生する無駄がありません。
(2)従来の発電方式では捨てていた、発電の際に発生する熱も お湯として 利用できるので、エネル
   ギーを効率よく使えます。
(3)同じ量の電気と熱を使う場合、これまでよりCO2の排出が少なくなります。
(4)音が40dBレベルで、図書館並みの静けさです。
(5)排出されるのが水だけなのでクリーンです。酸性雨の原因となる大気汚染物質(NOx、SOx)は
   殆ど発生しません。
 

2. 燃料電池の発電原理

 
 燃料電池の発電原理は、簡単に言えば「水の電気分解」を逆にしたものです。「水の電気分解」では、電解質を溶かした水に電流を通して水素と酸素を発生させますが、燃料電池では、図1のように電解質をはさんだ電極に水素を、そしてもう一方の電極に酸素を送ることによって化学反応を起こし、水と電気を発生させます。
 
燃料電池
図1.燃料電池の発電原理    
  

3. 燃料電池スタックの構造

 
 燃料電池が発電をおこなう部分は、スタックと呼ばれています。このスタックは、セパレーターにはさみ込まれたMEA(Membrane Electrode Assembly)の集合体で構成されています。個々のセパレーターには、燃料となる水素(水素リッチガス)や酸素(空気)を流すための流路が形成されています。
 
燃料電池
図2.燃料電池スタックの構造 
 
 乾電池のように、プラスとマイナスの電極板が固体高分子膜(電解質膜)をはさむ構造になっています。これをセルと呼びます。セルのプラス極(酸素極)とマイナス極(水素極)には数多くの細い溝があり、この溝を外部から供給された酸素と水素が電解質膜をはさんで通ることによって反応が起こり、電気が発生します。必要な出力を得るためには何枚ものセルを重ねます。これをパッケージにしたものを燃料電池スタックと呼びます。
 

4. 燃料電池の種類

 
表1.燃料電池の比較表 
燃料電池
 
 現在研究されている燃料電池は、大別すると、表1のように固体高分子型、リン酸型、固体酸化物型、溶融炭酸塩型の4種類があります。作動温度や使用する燃料、発電の出力規模等、それぞれの特長を生かして利用されています。例えば、燃料電池自動車向けには、主に固体高分子形の燃料電池が使われています。固体高分子形は、電解質に高分子イオン交換膜を使用しています。作動温度は80℃~100℃と低く、小型化しても出力効率が良いのが特長です。家庭用の定置形電源システムや自動車用などへの利用も期待されています。
 

5. 課題と今後の展望

 
 燃料電池の普及に対して、政府、独立行政法人、民間団体、地域がさまざまな施策を進めています。中小企業・小規模事業者にとっても地域社会を大きく変える潜在力を秘めたものとなります。そのためには、どのような課題があるか、その概要を下記に整理してみました。これらを踏まえて、企業戦略を精査していく必要があると考えます。
 
① 燃料電池の基本性能の向上
・燃料電池スタック、改質器、水素燃料貯蔵、全体システムについて、高効率化、耐久性等の向上が必要
 
② 経済性と性能の向上 
・自動車用燃...
 
 神奈川県では参入希望の中小企業を対象に「スマートエネルギー関連製品等開発促進事業(HEMS)」を、埼玉県では「次世代産業参入支援事業費補助金」を展開しています。これらは、次世代産業分野への参入、オンリーワン技術の確立等、現状を打破するイノベーションに取り組もうとする中小企業を支援しています。特に、神奈川県では「開発アドバイザー」制度を設けて具体的なアドバイスも実施しています。
 
 しかしながら、資本力、人材力等で優る大企業でも計画通り進行できていないようです。中小企業にとって次世代技術の開発は、リスクの巨大な山のようなものです。開発アドバイザーとしての経験、大学の次世代技術講座講師等の経験から、次世代技術の本質、今後どうあるべきかを含めて考察します。
 

1. 燃料電池とは

 
 燃料電池とは、水素と酸素の電気化学的な反応等により発生した電気を継続的に作り出すことができる発電装置のことです。電気を使い切れば終わる乾電池等の一次電池や、充電してくり返し使用できるリチウムイオン電池等の二次電池と区別されます。都市ガスやLPガス等から取り出した水素と空気中の酸素を利用して、水の電気分解の逆の化学反応により直接電気へ変換し発電します。
 
<特長>
(1)電気を使う場所で発電するので送電で発生する無駄がありません。
(2)従来の発電方式では捨てていた、発電の際に発生する熱も お湯として 利用できるので、エネル
   ギーを効率よく使えます。
(3)同じ量の電気と熱を使う場合、これまでよりCO2の排出が少なくなります。
(4)音が40dBレベルで、図書館並みの静けさです。
(5)排出されるのが水だけなのでクリーンです。酸性雨の原因となる大気汚染物質(NOx、SOx)は
   殆ど発生しません。
 

2. 燃料電池の発電原理

 
 燃料電池の発電原理は、簡単に言えば「水の電気分解」を逆にしたものです。「水の電気分解」では、電解質を溶かした水に電流を通して水素と酸素を発生させますが、燃料電池では、図1のように電解質をはさんだ電極に水素を、そしてもう一方の電極に酸素を送ることによって化学反応を起こし、水と電気を発生させます。
 
燃料電池
図1.燃料電池の発電原理    
  

3. 燃料電池スタックの構造

 
 燃料電池が発電をおこなう部分は、スタックと呼ばれています。このスタックは、セパレーターにはさみ込まれたMEA(Membrane Electrode Assembly)の集合体で構成されています。個々のセパレーターには、燃料となる水素(水素リッチガス)や酸素(空気)を流すための流路が形成されています。
 
燃料電池
図2.燃料電池スタックの構造 
 
 乾電池のように、プラスとマイナスの電極板が固体高分子膜(電解質膜)をはさむ構造になっています。これをセルと呼びます。セルのプラス極(酸素極)とマイナス極(水素極)には数多くの細い溝があり、この溝を外部から供給された酸素と水素が電解質膜をはさんで通ることによって反応が起こり、電気が発生します。必要な出力を得るためには何枚ものセルを重ねます。これをパッケージにしたものを燃料電池スタックと呼びます。
 

4. 燃料電池の種類

 
表1.燃料電池の比較表 
燃料電池
 
 現在研究されている燃料電池は、大別すると、表1のように固体高分子型、リン酸型、固体酸化物型、溶融炭酸塩型の4種類があります。作動温度や使用する燃料、発電の出力規模等、それぞれの特長を生かして利用されています。例えば、燃料電池自動車向けには、主に固体高分子形の燃料電池が使われています。固体高分子形は、電解質に高分子イオン交換膜を使用しています。作動温度は80℃~100℃と低く、小型化しても出力効率が良いのが特長です。家庭用の定置形電源システムや自動車用などへの利用も期待されています。
 

5. 課題と今後の展望

 
 燃料電池の普及に対して、政府、独立行政法人、民間団体、地域がさまざまな施策を進めています。中小企業・小規模事業者にとっても地域社会を大きく変える潜在力を秘めたものとなります。そのためには、どのような課題があるか、その概要を下記に整理してみました。これらを踏まえて、企業戦略を精査していく必要があると考えます。
 
① 燃料電池の基本性能の向上
・燃料電池スタック、改質器、水素燃料貯蔵、全体システムについて、高効率化、耐久性等の向上が必要
 
② 経済性と性能の向上 
・自動車用燃料電池では、現在の自動車エンジンのコストと同程度が必要で、1kw当たり4,000円が目標
・定置用燃料電池では、エンドユーザー負担を50万円/台以下にすることが目標であり、耐久性では、
 約10万時間、4,000回の起動停止が必須
 
 燃料電池
水素ステーション:出典(北大・J-エナジー・フレイン・エナジー)         
 
③ 燃料開発と水素価格
・燃料電池で利用する水素の製造、貯蔵、輸送方法が供給インフラ整備と併せて大きな課題
・水素価格は、現在のガソリン価格と同水準となる40円/Nm3が目標
 
④ 基準・標準等のソフトインフラの整備
・安全性、耐久性の基準や機器等の基準・標準について、国内的・国際的整備に積極的に取り組む必要有
 
  

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この記事の著者

粕谷 茂

「感動製品=TRIZ*潜在ニーズ*想い」実現のため差別化技術、自律人財を創出。 特に神奈川県中小企業には、企業の未病改善(KIP)活用で4回無料コンサルを実施中。

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