TOC思考プロセスとは

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◆ TOC思考プロセスの手順

 

 TOC(TOC:Theory of Constraints)制約条件の理論の思考プロセスは、自然科学で幅広く活用される因果関係というコンセプトを人が絡む組織の課題解決に適用し、自然科学における再現性のある科学を社会科学の領域に持ち込んだ制約理論で、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラットが開発したマネジメント理論です。

 

 組織が目的達成に向けて活動するうえでの本質的な制約や課題を発見し、組織的に解決していくプロセスを提供します。つまり、組織の目的達成を阻害する悪しき方針や評価基準をあぶりだし、それを解決した"あるべき姿"を描き、それを活用・実現するためのプランを策定する体系的に問題を解決するアプローチ方法です。TOC思考プロセスは、図1の3つのステップで問題解決を進めます。

 
TOC思考プロセス
 図1.TOC思考プロセスの手順

1. TOC思考プロセス1:何を変えるか

 このステップでは、変えなければならない本質的な問題を見つけます。本質的な問題とは、目的達成に向かううえで存在する数々の"好ましくない事実"を引き起こしている根本的な原因です。問題を解決仕様とした時に、すべての諸問題に対して個別に対策を打つのは効果的でしょうか。 
 たとえば医者の処方を考えてみましょう。医者は「頭痛」「関節痛」「鼻づまり」「せき」などの個別の症状に対して治療をしたり、薬を出したりはしません。それらの症状を引き起こす原因となる病気を分析し、その病気に対して治療を施します。ビジネスの組織についても同様で、現在、数々の症状を引き起こしている病気が存在していると考えられます。TOC思考プロセスでは、その病気である「中核問題」に対して治療、改善を施すことで、問題解決をはかるのです。
 

2. TOC思考プロセス2:何に変えるか

 このステップでは、「何を変えるか」で見つけた本質的な問題に対する解決策を見つけます。解決策を実行することで、思いがけない副作用が生じる可能性があります。ですから、ここで生じる副作用も洗い出し、その対策についても検討する必要があります。
 

3. TOC思考プロセス3:どのように変えるか

 このステップでは、「何に変えるか?」で見つけた解決策を実行するための計画を策定します。解決策を実行するためには、それを妨げるさまざまな障害が存在します。それらの障害を一つずつ乗り越えていくロードマップを描き、アクションを洗い出していくのです。
 

4. TOC思考プロセス4:組織変革に対する抵抗を打破する

 組織全体にかかわる中核問題を解決するためには、関係者の協力が不可欠です。しかしながら、人は変化に対して本能的に恐怖を感じます。特に納得できない変化に対しては、恐怖のあまりかたくなに抵抗します。ですから、変革を実現するためには、関係者の抵抗を取り除き、合意・協力を得る作業が必要なのです。TOC思考プロセスでは、人間の変化に対する抵抗心理を、次の6段階の階層構造ととらえます。 
(1) 問題の存在に合意しない
(2) ソリューションの方向性に合意しない
(3) ソリューションが問題を解決できると思わない
(4) ソリューションを実行するとマイナスの影響が生じる
(5) ソリューションの実行を妨げる障害がある
(6) その結果起こる未知のことへの恐怖
  TOC思考プロセスで用いる5つのツリーは、この抵抗の6階層に基づいて構成されています。5つのツリーを順番に構築することで、抵抗の階層を一つずつ突破しながら「何を変えるか?」「何に変えるか?」「どのように変えるか?」の答えを見つけることができるのです。
 

5. TOC思考プロセス5:5つのツリー

 TOC思考プロセスを効果的に実行するには、図2に示した5つのツリーが使われます。それらを順番にここで解説しましょう。 
TOC思考プロセス
  図2.TOC思考プロセスで使用される5つのツリー関係図

(1) 現状構造ツリー

 現状構造ツリー作成の目的は、数々の"好ましくない事実"を共通に引き起こしている中核問題を見つけること、つまり「何に変えるか?」の答えを見つけることです。"好ましくない事実"のほとんどにつながっている根本的な原因が、変えるべき中核問題ということになります。現状構造ツリーは、"好ましくない事実"を含む事実を因果関係で整理し、問題の全体構造を明らかにするフレームワークであり、このツリーにより、中核問題が明らかになるため、前記4(1)「問題の存在に合意しない」という段階を打破することが可能となります。
 

(2)対立解消図

 対立解消図作成の目的は、中核問題を解決するためのアイディアをひねり出すことです。TOC思考プロセスでは、何らかの対立によって生じた結果が「問題」であると考えます。その対立を解消するアイディアが、中核問題に対する解決策の指針となります。対立解消図は、中核問題の背景にある対立構造を明らかにするフレームワークであり、このツリーによって解決策の方向性が明らかになるため、前記4(2)「ソリューションの方向性に合意しない」を突破することが可能となります。
 

(3) 未来構造ツリー

 未来構造ツリー作成の目的は、対立解消図で検討したアイディアが効果的かどうかをシミュレーションし、そのアイディアが「何に変えるか?」の答えであるかどうかを検証していくことです。また、解決策によって生じうる副作用を洗い出し、それらに対する対策もここで検討します。未来構造ツリーは、解決策によって本当に良い状態が実現されることを明らかにするフレームワークであり、このツリーによって解決策が本当に問題を解決する確証と、副作用に対する対策が明らかになるため、前記4(3)「ソリューションが問題を...
 

◆ TOC思考プロセスの手順

 

 TOC(TOC:Theory of Constraints)制約条件の理論の思考プロセスは、自然科学で幅広く活用される因果関係というコンセプトを人が絡む組織の課題解決に適用し、自然科学における再現性のある科学を社会科学の領域に持ち込んだ制約理論で、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラットが開発したマネジメント理論です。

 

 組織が目的達成に向けて活動するうえでの本質的な制約や課題を発見し、組織的に解決していくプロセスを提供します。つまり、組織の目的達成を阻害する悪しき方針や評価基準をあぶりだし、それを解決した"あるべき姿"を描き、それを活用・実現するためのプランを策定する体系的に問題を解決するアプローチ方法です。TOC思考プロセスは、図1の3つのステップで問題解決を進めます。

 
TOC思考プロセス
 図1.TOC思考プロセスの手順

1. TOC思考プロセス1:何を変えるか

 このステップでは、変えなければならない本質的な問題を見つけます。本質的な問題とは、目的達成に向かううえで存在する数々の"好ましくない事実"を引き起こしている根本的な原因です。問題を解決仕様とした時に、すべての諸問題に対して個別に対策を打つのは効果的でしょうか。 
 たとえば医者の処方を考えてみましょう。医者は「頭痛」「関節痛」「鼻づまり」「せき」などの個別の症状に対して治療をしたり、薬を出したりはしません。それらの症状を引き起こす原因となる病気を分析し、その病気に対して治療を施します。ビジネスの組織についても同様で、現在、数々の症状を引き起こしている病気が存在していると考えられます。TOC思考プロセスでは、その病気である「中核問題」に対して治療、改善を施すことで、問題解決をはかるのです。
 

2. TOC思考プロセス2:何に変えるか

 このステップでは、「何を変えるか」で見つけた本質的な問題に対する解決策を見つけます。解決策を実行することで、思いがけない副作用が生じる可能性があります。ですから、ここで生じる副作用も洗い出し、その対策についても検討する必要があります。
 

3. TOC思考プロセス3:どのように変えるか

 このステップでは、「何に変えるか?」で見つけた解決策を実行するための計画を策定します。解決策を実行するためには、それを妨げるさまざまな障害が存在します。それらの障害を一つずつ乗り越えていくロードマップを描き、アクションを洗い出していくのです。
 

4. TOC思考プロセス4:組織変革に対する抵抗を打破する

 組織全体にかかわる中核問題を解決するためには、関係者の協力が不可欠です。しかしながら、人は変化に対して本能的に恐怖を感じます。特に納得できない変化に対しては、恐怖のあまりかたくなに抵抗します。ですから、変革を実現するためには、関係者の抵抗を取り除き、合意・協力を得る作業が必要なのです。TOC思考プロセスでは、人間の変化に対する抵抗心理を、次の6段階の階層構造ととらえます。 
(1) 問題の存在に合意しない
(2) ソリューションの方向性に合意しない
(3) ソリューションが問題を解決できると思わない
(4) ソリューションを実行するとマイナスの影響が生じる
(5) ソリューションの実行を妨げる障害がある
(6) その結果起こる未知のことへの恐怖
  TOC思考プロセスで用いる5つのツリーは、この抵抗の6階層に基づいて構成されています。5つのツリーを順番に構築することで、抵抗の階層を一つずつ突破しながら「何を変えるか?」「何に変えるか?」「どのように変えるか?」の答えを見つけることができるのです。
 

5. TOC思考プロセス5:5つのツリー

 TOC思考プロセスを効果的に実行するには、図2に示した5つのツリーが使われます。それらを順番にここで解説しましょう。 
TOC思考プロセス
  図2.TOC思考プロセスで使用される5つのツリー関係図

(1) 現状構造ツリー

 現状構造ツリー作成の目的は、数々の"好ましくない事実"を共通に引き起こしている中核問題を見つけること、つまり「何に変えるか?」の答えを見つけることです。"好ましくない事実"のほとんどにつながっている根本的な原因が、変えるべき中核問題ということになります。現状構造ツリーは、"好ましくない事実"を含む事実を因果関係で整理し、問題の全体構造を明らかにするフレームワークであり、このツリーにより、中核問題が明らかになるため、前記4(1)「問題の存在に合意しない」という段階を打破することが可能となります。
 

(2)対立解消図

 対立解消図作成の目的は、中核問題を解決するためのアイディアをひねり出すことです。TOC思考プロセスでは、何らかの対立によって生じた結果が「問題」であると考えます。その対立を解消するアイディアが、中核問題に対する解決策の指針となります。対立解消図は、中核問題の背景にある対立構造を明らかにするフレームワークであり、このツリーによって解決策の方向性が明らかになるため、前記4(2)「ソリューションの方向性に合意しない」を突破することが可能となります。
 

(3) 未来構造ツリー

 未来構造ツリー作成の目的は、対立解消図で検討したアイディアが効果的かどうかをシミュレーションし、そのアイディアが「何に変えるか?」の答えであるかどうかを検証していくことです。また、解決策によって生じうる副作用を洗い出し、それらに対する対策もここで検討します。未来構造ツリーは、解決策によって本当に良い状態が実現されることを明らかにするフレームワークであり、このツリーによって解決策が本当に問題を解決する確証と、副作用に対する対策が明らかになるため、前記4(3)「ソリューションが問題を解決できると思わない」と、(4)「ソリューションを実行するとマイナスの影響が生じる」という段階を突破することが可能となります。
 

(4) 前提条件ツリー

 前提条件ツリー作成の目的は、解決策実行のためのロードマップを作成することです。解決策を実行しようとするとさまざま障害が発生するため、それらすべてを乗り越えていかなければなりません。前提条件ツリーは、障害を克服した状態である「中間目的」と、それらをどのような順で実現していけばよいかを明らかにするフレームワークであり、このツリーによって障害を克服していくシナリオが明らかになるため、前記4(5)「ソリューションの実行を妨げる障害がある」という段階を突破することが可能となります。
 

(5) 移行ツリー

 移行ツリー作成の目的は、解決策の実行計画を作成すること、つまり「どのように変えるか」を描いていくことです。移行ツリーは、前提条件ツリーで洗い出した各中間目的を実現するためのアクションを網羅的に洗い出すフレームワークであり、ここで洗い出したアクションを統合し、解決策を実行するための計画を作成します。このツリーによって、解決策実行のためのアクションが明確になります。 

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この記事の著者

村上 悟

世界の常識となったTOC(制約理論)で企業の生産性を大幅に向上し、なおかつ日本の経営風土にそった「しくみ」を提供します。

世界の常識となったTOC(制約理論)で企業の生産性を大幅に向上し、なおかつ日本の経営風土にそった「しくみ」を提供します。


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