『価値づくり』の研究開発マネジメント (その12)

 
 
 今回も、前回から引き続きオープンイノベーションの経済学、「競争原理」について、解説します。
◆関連解説『技術マネジメントとは』
 

1.コマツの商品開発

 
 「競争相手よりすべてで上を目指すような、優等生的商品開発はやめよう。今までの仕組みでは、常識をくつがえすような突き抜けた商品は絶対に出てこない。それよりも、まず何を犠牲にするかで合意しなさい」と指示した。何かを犠牲にしない限り、際立った特徴は生まれません。ライバルに負けてもいいところ、同じでいいところをあらかじめ決めておき、その分、強みに磨きをかければいい。(コマツ相談役坂根正弘、NHKテレビテキスト:2011年7月、仕事学のすすめ)これは、コマツの社長として経営改革を実行した現相談役の坂根氏の言葉です。「強みに磨きをかける」こと自体は、とりたてて新しい主張ではありませんが、坂根氏が強調しているのは「ライバルに負けてもいいところ、同じでいいところをあらかじめ決めておき」と「その分、強みに磨きをかければいい」をセットで考えましょうということです。
 

2.オープンイノベーションの世界での「競争原理」の意味

 
 これまでは、「競争原理」というルールに基づき、主に商品といった総括されたアウトプットの世界で競争していたものが、前回、解説したようにオープンイノベーションの世界では、企業には商品を実現するための一つ一つの機能の単位で競争することが求められます。
 
 このような文脈の中では、実は上の「他社に負けても良いところを決め、一方で自社の強みとすべきところを見極め、強みに磨きをかける」は、商品開発だけではなく、経営全体にも言えることです。経営全体という視野で、この概念をオープンイノベーションの世界で考え直すと、次の3点ということです。
 
 ・一歩進めて「他社に負けても良いところ」は、他社の世界レベルの強い力を活用すれば良い
 ・一方で、自社の強みとして磨く能力を見極め、それを継続的に磨き、世界レベルにする
 ・自社のバリューチェーン・サプライチェーンを世界最強のもの(世界一)にする
 

3.定義すべき自社の強みとは

 
 それではここでいう「自社の強み」は、どのように考え定義すれば良いのでしょうか
 

(1)自社の強みの定義の時間的視点

 
 自社の強みとは、自社が「すでに強い」強みを定義するということではありません。自社の強みは未来志向で、「自社が強みとすべき強み」で定義しなければなりません。そもそも、ほとんどの場合、自社の既存の強みは、それは世界一の強みには至っていないのが現実です。
 
 現在は世界レベルに達していなくても、さらには弱くても、その将来の強みを磨くことに今後継続的に経営資源を集中的に投入し、世界レベルに高めていけば良いのです。
 

(2)自社の強みの定義の広さ

 
 一企業が、バリューチェーンを構成する技術開発力、生産能力、マーケティング力という広い範囲で定義された能力で、「競争原理」に基づき、世界中の競合企業と競い、世界一になるということは、不可能です。より狭い領域で自社の強みを定義しなければ、世界一にはなれません。
 
 技術開発力で言えば○○技術、生産能力で言えば○○製品分野での生産管理能力、マーケティング力で言えば○○業界での潜在ニーズ把握能力、と言った狭い具体的なレベルに落として定義し、その点での自社能力の強化に経営資源を集中することが求められます。
 

(3)自社が定義する自社の強みの数

 
 ここでのポイントは「経営資源を集中」して、その分野では世界一の実現を目指すことにあるわけですので、自社の強みは何十も何百をあるということではいけません。何十も何百もの強みで、世界一になることは不可能です。したがって、自社が磨くべ...
き強みは、数少ない領域に絞り込む必要があります。まさに、能力での選択と集中です。
 

4.今こそ自社の強みを明らかにした経営が求められる

 
 以上のようにオープンイノベーションが経営の中で当たり前のものとなりつつある現在、経営レベルで自社のバリューチェーン、サプライチェーンを世界一にするには、経営全体を構成する機能においてコマツの坂根氏が言う「ライバルに負けてもいいところ、同じでいいところをあらかじめ決めておき、その分、強みに磨きをかければいい」を行い、他社に負けて良いところはさらに一歩進めて他社の最強の能力を説教的に活用することを、していかなければなりません。
 
 

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