デザインによる知的資産経営:知的資産の活用事例と進め方(その3)

 前回のその2に続いて解説します。
 

3.知的資産の活用事例

 

(3)開発の視点

 
 製品としての完成と、商品としての完成は異なります。よくあるのが、「製品として完成したからこれを売ればいい」という発想。これは違います。製品として完成しているとしても、それが「商品」として市場で受け入れられるかどうかは別の問題です。市場で受け入れられる形にしてこそ「商品」として成り立ちます。この事例における第三段階です。
 
 商品として完成させるには、売れる商品とするための仕掛けをしなければなりません。そのためには、商品開発に「営業部門の知見」を入れることが必須だと思います。もし、この製品(開発の成果)を、何もアレンジしないで日本で販売したらどうなるでしょうか。「ストーブの燃焼不良を改善できる装置です。熱で発電もできる装置です」として発売した場合を考えてください。
 
 需要者(多くはキャンプ愛好者)はどう思うでしょうか。多くの人は、「燃焼不良は別に困っていないよ。熱で発電できるといったって、キャンプ場にも電気はいっぱいあるよ。別に困っていないよね」。つまり、欲しいと思わない、買わないと考えるのではないでしょうか。電力が不足している地域のあるアフリカと日本とでは事情が異なるのです。
 
 おそらく、営業部門からは「こんな物は売れない」という意見が出るでしょう。しかし、否定的な意見は出ても、第三段階②で書いたようなポジティブな意見は出てこないのが普通です。このポジティブな知見を得る手法が「デザイン」です。前記第一段階での①と⑤の知見の結び付きが、この製品を商品として成立させた、開発の要だったのだろうと思います。
 

4.「当たり前」のことを集める

 

(1)集めることが出発点

 
 先に示したさまざまな知見、第三段階の②を除くとしても、日常の企業活動や開発活動の中では見過ごされており、開発を担当している人たちは誰もが、「そんなこと当たり前じゃないか」と考え、製品開発の場でそのような知見が役立つとは考えていないのではないでしょうか。「何か新しい技術はできないか?」という技術志向になっているのではないでしょうか。
 
 先に示した事例の第一段階における知見は、いずれもその企業の人にとっては当たり前の知識かもしれません。しかし、「当たり前の知見」をすべて洗い出して可視化しなければ、それらをつなげることはできません。つなげれば新しいステップに到達できるかもしれない。つなぐことができなければ、新しいステップへは到達できないのです。
 
 必要なのは、「当たり前のこと」を拾い上げて集め、可視化し、これらをつなぎ...
合わせるようにすることです。集める情報は、自社が取り扱う商品やサービスの部門に限ってはダメです。前記事案における「緊急時のスマホ充電」という知見は、分析すると「震災などの緊急時には停電する」「緊急時に情報を得る手段としてスマホが極めて有効」という知見に分けることができます。これらは、3.11を経て得られたものでしょう。
 
 次回の最終回は、(2)具体的な情報を集めるの解説です。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者