デザインによる知的資産経営:イノベーション・ブランドと知的資産(その2)

 知的資産経営を語るとき、2つのキーワードがあります。イノベーションとブランド(づくり)です。そこで、これら2つの言葉の意義を明らかにしつつ、イノベーションやブランドと「知的資産」とのつながりを解説します。今回は、前回のその1に続いて解説します。
 

(3)発明とイノベーション

 
 先に示したグライグ・M・ボーゲルらによるイノベーションの定義、「新しい技術の発明だけに留まらず、インサイトに基づく活用、商品化、機能拡張、既存技術との組み合せなどを含む」によれば、「発明」も、イノベーションの一要素となります。
 
 INNOVATIONが、INNOVATEの名詞形であるという語源を考慮すると、イノベーションとは「改革」に至るための方法を示す言葉であると理解できます。企業は、商品またはサービスを需要者に提供して需要者に喜びを与え、その対価として利益を上げる活動をするものです。需要者に喜びを与えるために、そして対価を得るために、新しい商品やサービスを創出する。その商品やサービスを創出する手法としてイノベーションを位置づけてはどうでしょうか。
 
 このときに重要なのが、イノベーションの定義です。とりわけ、「インサイト」すなわち顧客の潜在願望です。企業として顧客に何を提供できるかについては今までも検討されてきて、新商品開発においては多大な費用をかけて調査もされています。しかし、調査を行うにしても「新しい機能を付加する」という企業側の潜在意識が隠れた調査だったのではないでしょうか。
 
 アンケート調査において、「こんな機能があったらどうですか?」と企業から聞かれれば、よほどおかしな機能でない限り、需要者は「いいですね」と答えます。でも、それは顧客の「潜在願望」とは異なる場合が多いように思います。これでは、ガラパゴスへの道です。
 
 「イノベーションに発明(技術開発)は必要である。しかし、発明のテーマは需要者の潜在願望である」ということになります。これは需用者とは離れた基礎研究の重要性を否定するものではありません。むしろ、豊富な基礎研究の成果が、需用者の「こんなものが欲しい」(潜在願望)に対応することになるのです。
 
 プロダクトアウトからマーケットインへ、といわれて企業もそのように努力したのだと思います。しかし、マーケットへの理解が不足していたのかもしれません。例えば、テレビのように万人が使用する機器にさまざまな機能を付け、その使用説明書が非常に分かりにくいといわれていることは、その結果であるといえるのではないでしょうか。逆に、マーケットを理解したアップルは、携帯電話機の機能を最小限に絞り、付加機能はアプリに任せるという形で「iPhone」を市場に出しました。
 

(4)イノベーションの源泉は何か

 
 これは、ひと言でいえば「知的資産」です。先に書いた垂直統合から水平統合へという変化においても、自社および協業企業の知的資産の検討が欠かせません。繰り返しになりますが、イノベーションとは「新しい技術の発明だけにとどまらず、インサイトに基づく活用、商品化、機能拡張、既存技術との組み合わせなどを含む」ものであり、「企業から見て何かが増えたということではなく、顧客から見て価値のある飛躍」が重要なのです。
 
 企業は顧客から見て価値あるものを提供しなければならない、それをやり遂げることがイノベー...
ションだと思います。先を考える企業は昔からやっていたことであり、決して新しいことでも難しいことでもないのです。
 
 イノベーションの源泉は「顧客の潜在願望」を見極めることです。それを理解したうえで、自社で何ができるかを考えることです。自社の知的資産・情報と「顧客の潜在意識」をどうやってつなぐのか、ということになります。
 
 ここで重要なのは、自社で何ができるのかを客観的に見極めることです。その基礎となるのが、自社の知的資産をはっきりと理解することです。
 
 次回のその3では、ブランドについて解説します。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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