テーマのリスク分散 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その61)

更新日

投稿日

技術マネジメント

失敗を許すR&Dテーマ

 クライアント先の開発現場で次のような相談をされることがあります。

  • うちの会社は成功することが前提。失敗を許す文化なんてありません。
  • 今までにない新しい商品企画・R&Dテーマを考えてくれ!とオファーされたのにも関わらず、100%企画提案が通りません。最後は今までと同じ、既存事業のR&Dテーマに決まってしまいます。
  • うちは大企業病を患っています。事業計画上、数百億円規模の売り上げ見込みが立たない限り、革新的なR&Dテーマは承認されません。

 多かれ少なかれ、皆さんの会社でも同じようなことが起こっているのではないでしょうか?

 それぞれの企業における環境は千差万別、解決プランも同様ですが、今回は新規性の高いR&Dテーマを推し進めるために有効な考え方について解説します。

1. R&Dテーマのレベルを分ける

 将来のビジネスチャンスを獲得するためには、新規事業や今までにない新商品の創出は企業ミッションの一つです。これを実現するため新規性の高い、ある意味で失敗する可能性が高いR&Dテーマを推進することは必須であるにも関わらず、リスクを考慮して稟議が通らないケースが多々あります。

 このようにグルグルと同じようなケースを繰り返さないために、リスク分散が有効です。リスク分散とは、R&Dテーマのレベルを3つ程度に分け、配分することです。これはスタートアップ成長の4ステージに近しいイメージかもしれません。要は複数あるR&Dテーマをそれぞれレベルに応じて進めましょうという考え方です。

 具体的には、次のように設定するとよいでしょう。

 【レベル3のテーマ】

 既存事業へ確実に貢献するR&Dテーマとして、すでに決定しているある程度の機能・スペックが決定している商品企画に必要な技術開発を行う。

 【レベル2のテーマ】

 既存事業に貢献できそうなR&Dテーマとして、2~3シリーズ先の商品企画の価値提供につながりそうな機能・スペックを実現する技術開発を行う。

 【レベル1のテーマ】

 新規事業および企画されていない新商品を想定したR&Dテーマとして、環境分析により将来の顧客価値を仮説した結果、商品・サービスを実現するための技術開発を行う。

 レベル1のテーマを失敗が許されるR&Dテーマとし、レベルそれぞれのリソース配分を決めます。

2. リスクを分散する

 複数あるR&Dテーマのレベルを分ける、つまりリソース配分や次ステップへの移行判定基準を変化させるという考え方は、研究開発活動におけるリスクを分散できるという効果があります。私が尊敬しているファーストリテイリングの柳井さんの著書で、このような内容を目にしました。

 それは挽回できる・立ち上がれる余力を残して失敗する(しろ)という考え方です。

 よくよく考えてみると当たり前のことですが、エンジニアであった当時の私には目からウロコ。当時の私は、冒頭で紹介した事例のそのもの、成功を前提とした考え方にとらわれていたのです。

 例えば、資産を増やすために皆さんは何をするでしょうか?

 宝くじを買う、ビットコイン?、銀行での貯蓄、投資信託、株、保険・・・それぞれを自身の生活環境などに応じて配分するかと思います。R&Dテーマも同様にリソース配分することで、不...

技術マネジメント

失敗を許すR&Dテーマ

 クライアント先の開発現場で次のような相談をされることがあります。

  • うちの会社は成功することが前提。失敗を許す文化なんてありません。
  • 今までにない新しい商品企画・R&Dテーマを考えてくれ!とオファーされたのにも関わらず、100%企画提案が通りません。最後は今までと同じ、既存事業のR&Dテーマに決まってしまいます。
  • うちは大企業病を患っています。事業計画上、数百億円規模の売り上げ見込みが立たない限り、革新的なR&Dテーマは承認されません。

 多かれ少なかれ、皆さんの会社でも同じようなことが起こっているのではないでしょうか?

 それぞれの企業における環境は千差万別、解決プランも同様ですが、今回は新規性の高いR&Dテーマを推し進めるために有効な考え方について解説します。

1. R&Dテーマのレベルを分ける

 将来のビジネスチャンスを獲得するためには、新規事業や今までにない新商品の創出は企業ミッションの一つです。これを実現するため新規性の高い、ある意味で失敗する可能性が高いR&Dテーマを推進することは必須であるにも関わらず、リスクを考慮して稟議が通らないケースが多々あります。

 このようにグルグルと同じようなケースを繰り返さないために、リスク分散が有効です。リスク分散とは、R&Dテーマのレベルを3つ程度に分け、配分することです。これはスタートアップ成長の4ステージに近しいイメージかもしれません。要は複数あるR&Dテーマをそれぞれレベルに応じて進めましょうという考え方です。

 具体的には、次のように設定するとよいでしょう。

 【レベル3のテーマ】

 既存事業へ確実に貢献するR&Dテーマとして、すでに決定しているある程度の機能・スペックが決定している商品企画に必要な技術開発を行う。

 【レベル2のテーマ】

 既存事業に貢献できそうなR&Dテーマとして、2~3シリーズ先の商品企画の価値提供につながりそうな機能・スペックを実現する技術開発を行う。

 【レベル1のテーマ】

 新規事業および企画されていない新商品を想定したR&Dテーマとして、環境分析により将来の顧客価値を仮説した結果、商品・サービスを実現するための技術開発を行う。

 レベル1のテーマを失敗が許されるR&Dテーマとし、レベルそれぞれのリソース配分を決めます。

2. リスクを分散する

 複数あるR&Dテーマのレベルを分ける、つまりリソース配分や次ステップへの移行判定基準を変化させるという考え方は、研究開発活動におけるリスクを分散できるという効果があります。私が尊敬しているファーストリテイリングの柳井さんの著書で、このような内容を目にしました。

 それは挽回できる・立ち上がれる余力を残して失敗する(しろ)という考え方です。

 よくよく考えてみると当たり前のことですが、エンジニアであった当時の私には目からウロコ。当時の私は、冒頭で紹介した事例のそのもの、成功を前提とした考え方にとらわれていたのです。

 例えば、資産を増やすために皆さんは何をするでしょうか?

 宝くじを買う、ビットコイン?、銀行での貯蓄、投資信託、株、保険・・・それぞれを自身の生活環境などに応じて配分するかと思います。R&Dテーマも同様にリソース配分することで、不要なリスクを抱え込まず失敗することがあっても軌道修正しながら徐々に資金源=コア技術へと育成できるというロジックです。

 

3. R&Dテーマを決定するために

 ここまで失敗、失敗と繰り返してきたため、レベル1のテーマは失敗前提だと思い込まないでください。当然ながら宝くじ同様、一回の挑戦で当たることもあるのですから。新規性が高いR&Dテーマに対してチャレンジすることを諦めず、楽しみ、軌道修正しながら事業につながるR&Dテーマへ育成するためにも、3つのレベル分け・リソース配分・次ステップへの移行基準の設定を推奨します。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

川崎 響子

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
MVPの活用 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その82)

  ◆ 研究開発にMVPを活用する  今回は「研究開発にMVPを活用する」をテーマに解説します。  MVPとは、Minimum Via...

  ◆ 研究開発にMVPを活用する  今回は「研究開発にMVPを活用する」をテーマに解説します。  MVPとは、Minimum Via...


技術戦略  研究テーマの多様な情報源(その35)

    前回は、個人、組織単位で共通的にスパークの頻度を上げる方法について、解説しました。今回は、革新的テーマ創出・実現のため...

    前回は、個人、組織単位で共通的にスパークの頻度を上げる方法について、解説しました。今回は、革新的テーマ創出・実現のため...


短期開発プロセスのしくみづくり【連載記事紹介】

  短期開発プロセスのしくみづくりの連載記事が無料でお読みいただけます!   ◆短期開発プロセスのしくみ構築 短期開発プロ...

  短期開発プロセスのしくみづくりの連載記事が無料でお読みいただけます!   ◆短期開発プロセスのしくみ構築 短期開発プロ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
ソフトウェア開発スケジュールと結合テスト プロジェクト管理の仕組み (その7)

 前回のその6:進捗管理可能なソフト開発計画に続いて解説します。    ソフトウェア開発スケジュールでは次のような問題を抱えています。 &...

 前回のその6:進捗管理可能なソフト開発計画に続いて解説します。    ソフトウェア開発スケジュールでは次のような問題を抱えています。 &...


プリウスの開発事例から学ぶ画期的挑戦

 トヨタ・プリウスが1997年に世界初の量産ハイブリッド車として市場に出た時は大きな衝撃を社会にもたらしました。2009年に20万8876台を売り上げ...

 トヨタ・プリウスが1997年に世界初の量産ハイブリッド車として市場に出た時は大きな衝撃を社会にもたらしました。2009年に20万8876台を売り上げ...


国際財務報告基準への技術部門の対応とは

1. 国際財務報告基準とは    国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)...

1. 国際財務報告基準とは    国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)...