協力会社との「共創」が未来を拓く――雨どいメーカーが挑む新市場への挑戦(デンカアステック)

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日本のものづくり、特に伝統的な住宅建材の市場において、今これまでにない変革の風が吹いている。今回取材に訪れたのは、雨どいを中心とした建築資材メーカーとして長い歴史を持つデンカアステック株式会社だ。
現在、同社は長年現場で雨どいを販売してきた3人の新事業開発担当者を中核に、前例のない新しい雨水利活用市場の開拓を進めている。一見、無謀とも思えるこの挑戦のプロセスにこそ、成熟した日本のものづくりが次代を生き抜くための本質的なヒントが隠されている。

【目次】

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    写真:協力会社の日本化学産業株式会社青柳工場内設置の浸水対策資材検証装置(デンカアステック社資料)

    住宅着工数の減少という避けて通れない課題、120個のテーマからの出発

    新事業の幕開けは、極めて現実的、かつ切実な危機感からだった。
    日本の少子高齢化に伴い、将来的な住宅着工数の減少は確実視されている。これまで通り、雨どいを供給するだけのビジネスモデルに依存していては、未来の成長線を描けないことは誰の目にも明白だった。この目に見える厳しい未来を前に、同社は「新事業開発部」を立ち上げた。
    配属されたのは、20年以上雨どいを売ってきた現場を知り尽くした3人。
    「どんな事業でもいい、新しい市場を創れ」というミッションのもと、彼らが最初に始めたのは120個ものアイデア出しだった。その中には、今振り返れば恥ずかしいほどの「タイムマシンを作る!」のような荒唐無稽なテーマもあったという。
    模索の中で彼らが辿り着いたのは、「自分たちが長年培ってきた「雨水」の集排水技術の強みの上にこそ、新しい市場がある」という確信だった。 そこから、これまで当たり前すぎて見過ごしていた、自社の本質的な強みに気づく

    ※記事:アイデア発想法とは(その1)  

    「今までは集めた雨を『早く排水する』ことしか考えていなかった。しかし、この集水技術を活かして、水を『利活用する』『制御(防災)する』方向へ舵を切れないか?」
    自社の強みを再定義した瞬間、彼らの快進撃が始まった。

    「雨水は汚い」というイメージを覆す、壁掛け型雨水タンク『ピュアエデン』

    写真:雨水タンク「ピュアエデン」災害時に無電源でも水供給が可能(同社資料より)

    最初に形となったのが、壁掛け型雨水タンク『ピュアエデン』だ。
    従来の雨水タンクといえば、地面に置くものが多く、放置すれば中にカビや藻が生えて「災害時でも触りたくない水」になってしまう課題があった。そこで彼らは、スペースを取らない壁掛け薄型デザインに加え、タンク内の水質を維持する「水循環機能」の開発に挑んだ。
    ここで『ピュアエデン』のその後の大きな力となったのが、雨水利用研究の第一人者である福井工業大学の笠井教授との出会いだ。
    笠井教授は、雨水を極限まで綺麗にろ過して作った「雨水ドリンク」を開発するなど、「雨水を飲む・味わう」という常識破りのアプローチで雨水の可能性を追究し続けている、まさに“雨水の熱き専門家”だ。

    写真:福井工業大学笠井研究室が開発した雨水(あまみず)飲料 (同社資料より)

    そんな教授の知見を得て生まれたのが、「一雨ごとにタンク内の水が自動で入れ替わる機能」だ。これによって、トイレに流しても不快感のない透明な水質を維持することに成功。さらに雨水の用途拡大として開発中のシステムでは、水質検査を重ねた結果、なんと水道水52項目の基準をすべてクリアするほどの清浄性を実現した。
    「地面に落ちる前の雨は、本来は非常に綺麗な蒸留水。最適な処理をすれば最高の資源になる」という確信のもと、現在は福井県の駅前商店街のリノベーション拠点で、シェアキッチンやトイレの水を雨水で賄う社会実装が始まっている。現地では「雨水ラーメン」のイベントなども行われ、かつての「雨水=汚い」というイメージを180度覆す取り組みが着実に広がっている。

    常識を覆す「備えない防災」日本初フェイズフリー土台水切り『ダムアーマー』

    写真:床下浸水の被害を防ぐプロダクト「ダムアーマー」(同社技術資料より)

    彼らの挑戦は利活用にとどまらない。ゲリラ豪雨や激甚災害が多発する昨今、次に焦点を当てたのが、住宅の「床下浸水」を防ぐ防災製品『ダムアーマー』だ。
    豪雨による内水氾濫が起きた際、大規模な浸水でなくても住宅の「土台水切り(基礎の通気口)」から下水混じりの汚水が侵入する。実は、地上から45センチ未満の床下浸水は火災保険の補償外になるケースが多く、仮に保険が適用されても補修費用を全額補填できない場合が多い。さらに、一般的な木造戸建住宅が地上から50センチ以上の床上浸水にまで至ると、その補修費用は1000万円前後にまで一気に増大する。一度浸水を許せば、復旧には莫大な時間とお金、そして甚大な精神的負担がかかるにも関わらず、これまでは有効な具体的対策がない状態だった。

    参考:2014/8広島豪雨災害。広島在住の筆者が当時の状況を家族に聞くと「幼い子2人が居て、急な大雨で雨戸を閉めるのが精一杯だった」とのこと

    しかし、従来の土嚢や止水板は「パニック状態で設置できない」「普段の置き場に困る」という致命的な弱点があった。住宅の基礎には普段は「通気」が必要だが、災害時には「閉めねばならない」という矛盾が存在する。大手建材メーカーすら二の足を踏んでいたこの領域に、彼らは挑んだ。
    開発の大きなきっかけとなったのは、多くの被災現場を見てきた一般社団法人 防災住宅研究所の児玉理事との「大きな災害に直面すると、人は思うように動けなくなる」という議論だった。
    この課題を解決すべく誕生した『ダムアーマー』は、普段は通気口として機能しながら、水害時の水位上昇を感知すると、内部の吸水膨張剤(紙おむつ等と同原理の特殊素材)が反応し、電気も人の手も使わずに自動で通気口を完全シャットアウトする。

    写真:従来品には無かった「吸水膨張剤」で浸水被害を低減させる(同社技術資料より)

    何もしなくていい「備えない防災(フェイズフリー)」。素材開発から挑んだこのシンプルな美しさと社会課題への姿勢は高く評価され、見事2025年度のグッドデザイン賞を受賞。実験では驚異的な止水性を叩き出し、テレビをはじめとする多くのメディアからも今、新築戸建住宅の「新しい常識」となるのではと注目を集めている。

    「ものづくり」を動かすのは、理屈を超えた「ことづくり」の熱量

    これまでにない新しい「当たり前」を創るイノベーションの根底には、いつも理屈を超えた作り手の熱量がある。
    デンカアステックの取り組みがまさにそれだ。彼らの熱意は、外部の熱い専門家である笠井教授や、一般社団法人防災住宅研究所の児玉理事、そして志を同じくする協力会社(日本化学産業株式会社など)を瞬く間に巻き込んでいった。彼らは単なる「発注・受注」の関係ではなく、未来を共に創る「パートナー」として対等に手を取り合ったのだ。
    さらに、雨水利用を想定していなかった大手トイレメーカーの製品基準に対しても、自ら何度も足を運んで口説き落とし、「雨水対応の専用トイレ」の共同開発へと導く圧倒的な行動力を見せた。
    彼らを突き動かしたのは、「儲かりそうだから」という机上の計算ではない。 「雨水って本当は綺麗でもったいないよね」「床下浸水で避難生活を余儀なくされる人を一人でも減らしたい」という、そんな純粋な想いと課題解決への熱量こそが、彼らの原動力だった。
    効率的な大量生産モデルであれば、既存の市場を調査し、売れるものだけを安く作ればいい。しかし、まだ見ぬ市場を切り拓く新事業においては、まず「こと」を創り、それに共感する人々を巻き込んでいくプロセスこそが本質だ。そして、その強い想いを形にするためにこそ、日本の「ものづくりの力」が必要とされる。

    ※記事:ものづくり、表と裏の競争力とは

    「いつか、日本の住宅に雨水タンクやダムアーマーが標準装備される時代を創りたい」

    地道に自治体やホームセンターへ足を運び、市場そのものを自らの手で創り出そうとしている新事業開発担当者の彼らの目には、確かな未来のビジョンが映っている。停滞と言われる日本のものづくり現場において、彼らが放つ圧倒的な熱量こそが、私たちの暮らしに「新しい安心の当たり前」をもたらしてくれるだろう。

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    会社概要

    会社名: デンカアステック株式会社(Denka Astec Co., Ltd.)
    設立: 2021年(令和3年)4月
    本社所在地: 東京都港区
    主な事業内容:住宅用雨どい、および関連資材の製造・販売
    Webサイトhttps://www.denka-astec.co.jp/


    この記事の著者

    大岡 明

    改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

    改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。