戦略的RPA導入のための業務分析手法

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1. RPA~パソコン作業を自動化

 RPA(Robotic Process Automation)とは、様々なデータソースを参照しながら行う定型的パソコン作業を自動化するソフトウェアロボットです。「プログラミング知識不要」とうたうRPAもあり、現場主導でも導入可能ですがその場合、以下のような問題も懸念されます。

  1. 営業、経理、調達などで似たようなメール配信ロボットを開発
  2. 見積もり回答のための書類作成がロボットで省力化されても、社内承認プロセスに問題があれば、客先回答期間が短縮されるとはかぎらない

 費用対効果の面から、このような問題を回避しつつ、個別作業だけでなく組織としての業務効率も改善する戦略的RPA導入を推奨します。そのためには、必要なロボットの要件や優先順位を把握するための業務分析・要件定義が必須です。分析の結果、重複機能のモジュール化で開発コストを削減したり、手順やルール変更だけで効率が上がればこれに越した事はありません。

2. 従来の業務分析手法

 しかし、業務分析には工数がかかります。図1に、従来の業務分析のイメージを示します。ITコンサルタントに依頼するケースです。彼らは御社の業務を知っている訳ではないので、社員はヒアリングや検討セッションで時間を取られます。そして、コンサルがまとめる(高価な)資料の多くは、IT業界独特の書式で書かれます。その資料を担当社員が理解できるのか?その時は理解できたとしても、数年後に別の社員が理解・保守できるのか?不安は尽きません。

 このような人間系で行う業務分析は余りに時間がかかるという事で、最近プロセスマイニングが登場しました。ITシステム上のイベントログを自動取得して、業務プロセスの実態を自動で可視化するToolです。しかし、業務のシステム化が十分進んでいなければ意味がありません。

3. 第3の業務分析手法(i-DSM)

 そこで、前出とは異なる第3の手法(i-DSMと呼称)を紹介します。この手法で、図2のような異なる部署間のTask連携を効率的に分析し、RPA化するTask定義と優先順位、既存ITシステムとの連携などを検討します。i-DSMとは、Design Structure Matrix手法を応用したものです。DSMの原理・効用については、私のキーワード解説、活用事例を参照ください。本記事も、DSM活用事例の一つです。

 i-DSMでは、各Taskを簡潔なIPO書式で定義します。図3にIPOシートのイメージを示します。まず、Task定義(=プロセス短冊)を地道に集めます。順序は問いませんので、思いついた時にすきま時間で可能です。

 以下に、手順の概略を示します。

  • ステップ0.戦略課題を設定。組織の業務効率向上(全体最適)を狙うなら、分析の前に戦略課題が必要です。例えば、納期回答期間短縮や決算書作成期間短縮など。これで、分析すべき業務範囲が定まります。業務分析自体が難題なので、選択と集中が必要です。
  • ステップ1.戦略課題に関係する各部署のTaskやデータストアを洗い出す
  • ステップ2.Outputデータ名を決める
  • ステップ3.各Taskに必要なInputデータ名をOutputデータ名から拾う
  • ステップ4.Task実行のノウハウを付記
  • ステップ5.各TaskをデータのOut/In関係で繋ぐと、Task手順とデータの流れが可視化されます。DSMの機能で雑多なプロセス短冊の集まりから最適手順を導き、工数情報があればガントチャートまで半自動で作成します。よって、“ヒアリング&セッション資料作り”の従来方式より、効率的にクリティカルパスやボトルネックを発見できます。図4に分析から得られる知見を示します。

4. i-DSMの利点

  1. IPO記入は、各自の作業をブレイクダウンするだけで、すきま時間で可能。
  2. Outputの命名で社内用語が統一される。”初期XX”や”1次XX”など、個人や部署によって用語が微妙に異なってはトラブルのもと。
  3. 若手が聞き取り役になってIPOを整備すれば、ベテランの負荷を減らしつつ知識伝承の場となる。
  4. 複数部署のIPOを統合すればデータの流れが可視化される。自分のOutputを誰が使っているのか判明→変更連絡漏れの防止。Inputの決定時期判明→フロントローディング促進。
  5. IPO統合はテレワークでも実施可能で、従来のセッション方式による3密を避けられる。
  6. DSMで最適手順に並べ...

1. RPA~パソコン作業を自動化

 RPA(Robotic Process Automation)とは、様々なデータソースを参照しながら行う定型的パソコン作業を自動化するソフトウェアロボットです。「プログラミング知識不要」とうたうRPAもあり、現場主導でも導入可能ですがその場合、以下のような問題も懸念されます。

  1. 営業、経理、調達などで似たようなメール配信ロボットを開発
  2. 見積もり回答のための書類作成がロボットで省力化されても、社内承認プロセスに問題があれば、客先回答期間が短縮されるとはかぎらない

 費用対効果の面から、このような問題を回避しつつ、個別作業だけでなく組織としての業務効率も改善する戦略的RPA導入を推奨します。そのためには、必要なロボットの要件や優先順位を把握するための業務分析・要件定義が必須です。分析の結果、重複機能のモジュール化で開発コストを削減したり、手順やルール変更だけで効率が上がればこれに越した事はありません。

2. 従来の業務分析手法

 しかし、業務分析には工数がかかります。図1に、従来の業務分析のイメージを示します。ITコンサルタントに依頼するケースです。彼らは御社の業務を知っている訳ではないので、社員はヒアリングや検討セッションで時間を取られます。そして、コンサルがまとめる(高価な)資料の多くは、IT業界独特の書式で書かれます。その資料を担当社員が理解できるのか?その時は理解できたとしても、数年後に別の社員が理解・保守できるのか?不安は尽きません。

 このような人間系で行う業務分析は余りに時間がかかるという事で、最近プロセスマイニングが登場しました。ITシステム上のイベントログを自動取得して、業務プロセスの実態を自動で可視化するToolです。しかし、業務のシステム化が十分進んでいなければ意味がありません。

3. 第3の業務分析手法(i-DSM)

 そこで、前出とは異なる第3の手法(i-DSMと呼称)を紹介します。この手法で、図2のような異なる部署間のTask連携を効率的に分析し、RPA化するTask定義と優先順位、既存ITシステムとの連携などを検討します。i-DSMとは、Design Structure Matrix手法を応用したものです。DSMの原理・効用については、私のキーワード解説、活用事例を参照ください。本記事も、DSM活用事例の一つです。

 i-DSMでは、各Taskを簡潔なIPO書式で定義します。図3にIPOシートのイメージを示します。まず、Task定義(=プロセス短冊)を地道に集めます。順序は問いませんので、思いついた時にすきま時間で可能です。

 以下に、手順の概略を示します。

  • ステップ0.戦略課題を設定。組織の業務効率向上(全体最適)を狙うなら、分析の前に戦略課題が必要です。例えば、納期回答期間短縮や決算書作成期間短縮など。これで、分析すべき業務範囲が定まります。業務分析自体が難題なので、選択と集中が必要です。
  • ステップ1.戦略課題に関係する各部署のTaskやデータストアを洗い出す
  • ステップ2.Outputデータ名を決める
  • ステップ3.各Taskに必要なInputデータ名をOutputデータ名から拾う
  • ステップ4.Task実行のノウハウを付記
  • ステップ5.各TaskをデータのOut/In関係で繋ぐと、Task手順とデータの流れが可視化されます。DSMの機能で雑多なプロセス短冊の集まりから最適手順を導き、工数情報があればガントチャートまで半自動で作成します。よって、“ヒアリング&セッション資料作り”の従来方式より、効率的にクリティカルパスやボトルネックを発見できます。図4に分析から得られる知見を示します。

4. i-DSMの利点

  1. IPO記入は、各自の作業をブレイクダウンするだけで、すきま時間で可能。
  2. Outputの命名で社内用語が統一される。”初期XX”や”1次XX”など、個人や部署によって用語が微妙に異なってはトラブルのもと。
  3. 若手が聞き取り役になってIPOを整備すれば、ベテランの負荷を減らしつつ知識伝承の場となる。
  4. 複数部署のIPOを統合すればデータの流れが可視化される。自分のOutputを誰が使っているのか判明→変更連絡漏れの防止。Inputの決定時期判明→フロントローディング促進。
  5. IPO統合はテレワークでも実施可能で、従来のセッション方式による3密を避けられる。
  6. DSMで最適手順に並べ直したIPOシートは業務手順書であり、教育やIT導入検討の基礎資料となる。
  7. 可視化したプロセスが(IT業界書式でなく)誰でも理解可能な表現で、変更も容易。変更はプロセス短冊を修正するか差し替えるだけ。

 失敗しないRPA導入には、戦略課題を一つこなしてみて、その経験を順次横展開する事を推奨します。なお、今回ご紹介した手法を実施するにはDSMの知識が必要です。しかし、これを1から勉強するより専門家の知識を活用するのが効率的でしょう。Big Data分析にデータサイエンティストを活用するのと同様です。ご興味あれば、いつでもお問い合わせください。

参考文献
西本 明弘「i-DSMによる製品設計プロセスモデリングに関する考察」 日本機械学会論文 (2008)
S・エッピンジャー 「デザイン・ストラクチャー・マトリクス」 慶応義塾大学出版会 (2014)
「デザイン科学事典(3章:設計構造マトリックス)」 日本デザイン学会 (2019)

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この記事の著者

西本 明弘

設計プロセス設計コンサルタント。複雑な業務プロセスをDSM技法で効率的に俯瞰・分析し、全体最適の視点から手戻り削減、技術伝承、効果的 IT投資・運用を図ります!

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