「ARIZ」とは、キーワードからわかりやすく解説

 

1. 「ARIZ」とは

TRIZの体系には多彩なサブツールが含まれるため、自分の課題に対してどのツールをどんな順番で使うのかという問題が当然発生します。 アルトシュラーはその問題に対する一般解を、ARIZというアルゴリズムで提供しました。例えば最終版のARIZ-85では、①問題の把握、②技術的矛盾の定義、③理想的最終結果の明確化、④物理的矛盾の定義、⑤物理的矛盾モデルの作成、⑥資源の活用、⑦問題解決ツールの活用という順番が規定されています。

 

2. 「ARIZ」の本質

ARIZは、発明的問題解決の思考アルゴリズムを意味するロシア語の頭文字を英語に置き換えたものです。TRIZを考案したG・Altshuller(アルトシュラー)は、狙いを次のように表現しています。「どんな困難でも扱えるように、複雑な問題をまず適切に定義し、そして解決できるようにしたい。」発明級の難問を分析し解決することを目的としたアルゴリズム形式の複合的な思考手順となっています。言い換えれば、数十種の質問を順番に答えていき解決策にたどり着かせようとするものです。上級者向けのTRIZツール活用チェックリストといってもよいでしょう。

 

ARIZは、長期の研究および実践による検証の結果、新しい発明原理や知識データベースを取り込み改良が重ねられてきました。年ごとに改定された年号を入れ、ARIZ85Cのように表現されています。

 

ARIZは「複雑な」問題に取り組むために存在しているとされているようです。私たちがアイデア出しに行き詰まったとき、助けてくれる最後の砦(とりで)としてARIZを使えばよいのだと考えます。

 

3. 「ARIZ」を支える解決の思考プロセス

ARIZが単なる問題解決のチェックリストで終わらないのは、そのアルゴリズムの根幹に「理想的最終結果(IFR)」というTRIZの核心的な概念が組み込まれているからです。IFRは、問題解決によって達成されるべき究極の、そして矛盾のない状態を、現在のシステムが、追加のコストや複雑さを一切生じることなく、自力で実現するという形で定義します。この極限まで理想を追求する思考様式こそが、既存の技術的制約や慣習にとらわれない、真に革新的な解決策を生み出すための大きな推進力となります。

 

ARIZの手順では、まず解決すべき具体的な問題を特定し、それを抽象度の高い「技術的矛盾」(例:「速くしたいが、そのために重くなってしまう」)として捉え直します。そして、次にIFRを明確に定義することで、問題解決の方向性を強く規定します。このIFRの設定は、問題解決の旅における「北極星」のようなものであり、その後の分析とツールの適用を誤った方向に進ませないための羅針盤の役割を果たします。

 

IFRの明確化の後、ARIZはさらに深く問題の核心に迫ります。それは、技術的矛盾が顕在化しているシステム内部の、より具体的な「物理的矛盾」(例:「この部品は熱伝導性を上げるために『全体的に』厚くなければならない、しかし、重量を減らすために『その同じ場所が』薄くなければならない」)を定義することです。物理的矛盾は、同じシステム内で、同一のパラメータに対して相反する要求が存在する状態を指し示します。ARIZの強力な点は、この物理的矛盾を特定することにあり、なぜならTRIZのデータベース(例:分離原理)は、まさにこの種の物理的矛盾を克服するために特化して設計されているからです。

 

4. 「ARIZ」の実践と応用

ARIZのアルゴリズムは、上記のように問題の抽象化、理想化、そして矛盾の特定という非常に体系だった手順を踏みます。この手順を辿ることで、問題解決者は、自身の専門分野や過去の経験に依存する心理的惰性から抜け出し、問題そのものを客観的に、そして多角的に捉え直すことが可能になります。

 

例えば、ARIZが求めている「資源の活用」は、問題を解決するために外部から何か新しいものを持ち込むのではなく、既存のシステム内やその周辺に既に存在するが、まだ活用されていない要素(時間、空間、エネルギー、情報など)を洗い出し、それらを解決策の一部として利用することを促します。この視点は、コスト効率が高く、実現性の高い革新的な解決策を生み出す上で極めて重要です。なぜなら、最良の解決策はしばしば、何も追加することなく、あるものを単に別の方法で利用することによって達成されるからです。

 

ARIZは、その手順の厳密さゆえに、初めてTRIZを学ぶ者にとっては難解に感じられるかもしれません。しかし、ARIZを繰り返し適用し、その思考プロセスを内面化することで、発明的思考の訓練となり、徐々に複雑な問題を見た際に、無意識のうちに「矛盾はどこにあるか?」「IFRは何だろう?」「隠れた資源は?」といったARIZ的な問いかけができるようになります。この習熟の先にこそ、アルトシュラーが目指した「どんな困難でも扱える」真の発明家への道が開かれます。ARIZは、単なるツールの適用順序を示すものではなく、発明的な洞察力を獲得するための高度な思考ドリルとしての役割を果たしていると言えるでしょう。最終的に、ARIZは、私たちが遭遇する最も難しい技術的課題に対して、系統的かつ論理的な道筋を提供し、偶然ではなく必然として革新的な解決策へと導くための、最も洗練されたアルゴリズムなのです。

 


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