目標管理と能力開発の問題 中小メーカ向け経営改革の考察(その23)

◆事業計画と目標管理に関する問題と対策

 前回のその22に続いて解説します。事業計画が達成されない原因を調べると、次の様な問題点が考えられます。
 

1.細分化した部門別目標設定の整合性が図られていない場合

 目標管理に取り入れた部門別の目標と事業計画の整合性が取れていないと、事業計画に掲げた内容を達成する事はできません。その具体的な例は次の通りです。
 
(1)対象製品の明示の問題
(2)資材部門の問題
(3)営業部門の問題
 
上記の(1)(2)これらについては、その1で解説しましたので、今回は、(3)営業部門の問題を解説します。
 
・営業部門の問題
 
 営業では、品目別の調達期間と生産期間から最小限必要になる納期を決めて受注交渉を行います。このような調整を行わず顧客の要求をそのまま受け入れて生産指示を出すと、社内も調達先も、できそうにない納期を押し付けられて、混乱することになります。その結果、納期遅れが発生し顧客の信用を失うだけでなく、社内でも損失が発生します。受注に際しての納期交渉では、自企業内の生産余力が一覧できる、図1のような中日程生産計画表が生産部門から営業に伝達されている必要があります。この余力の範囲を越えた短納期の要求があるときには、別途に生産部門と交渉することになります。また、顧客の要求する仕様が明確になっていないと、見積り誤りや変更の多発が生じ、設計や生産部門に損失を増やすことになります。
 
      
図1.中日程生産計画表の例
 
 (注)中日程生産計画表は、営業が納期交渉に利用することが目的である。この目的に最適の表を、それぞれ自企業の実態に合わせて作成する。ネック工程が明らかになっている場合には、その工程の余力を示すと、調整がしやすくなる。参考書『工程管理改善のキ-ポイント』 新郷重夫(日刊工業新聞社)
 

2.目標管理の課題に取組む方法に問題がある場合

 目標管理として割り当てられた課題に取り組む際、月次の行動計画に展開することは必ず行わなければならないことですが、それが確実に行われている中小企業は少ないでしょう。半期ごとに報告会を開催している企業の例では、報告の直前になって慌ててまとめている場合があるようです。このような事では形式的な内容になりがちで、成果を期待することはできません。
 
 目標を達成するためには、解決しなければならない要素技術、要素作業を細かく挙げて、その順序と期間を決めます。これらが中間目標になり、事前に収集しなければならない必要資料があることがわかります。それらを明らかにすると、記録を取るために事前に関係者に協力を求めること、独自に資料収集の準備を行うこと、等の効果的な活動ができるようになります。
 
 こうした行動計画をしっかりと立てないで、目先に思いついたことを感覚的に実行すると、やり直しや停滞が頻発することになり、時間損失が必要以上に発生し、目標の期限までに改善活動が達成できなくなります。そして、いたずらに費用がかさみ、生産性の低い活動になります。事業計画の目標達成度は、計画の立て方と、それに必要な資料収集への取り組み方に大きく影響されます。
 
 行動計画を立案・実施・評価する過程は、PDCAの手順を踏む必要のあることが広く知られています。特に、Pの段階が非常に重要で、この段階以降の成否に大きく影響します。その具体的な手順は次のようになります。
 
P(Plan=計画)の段階
 
a. 目標と目的を明らかにする。
b. 目的に照らして目標値と達成の期限を確認する。
c. 目標達成に関連する制約条件(費用の限界、開発案件の品質仕様の限度、期限、業界の競合関係)
                                         を確認する。
d. 目標を達成するに必要と考えられる関連事項の調査内容と期限を決める。
e. 調査内容に基づき目標値達成のために克服しなければならない問題点を順序に関係なく全て挙げる。
f. 挙げた問題点の中で、解決に最も困難が伴うと想定されるものを最大の問題として特定する。
g. 克服しなければならない問題点の取り上げる順序を決め、期限内に解決するように割り当てる。
h. 最大の問題の解決が図られないと他の問題解決にも影響が出てくるから、この問題には極力早く着手
 し、集中的に取り組む。そして、他の問題点と並行して取り組むことができるようにする。
i. 克服すべき問題点別に中間目標の目標値と期限を設定し、当初に確認した目標と目標値を満足させる事
 ができるのか確認する。
j. 最終目標期限の前に余裕の期日を設けて、活動経過から反省点、成功要因を確認する期間にする。
k. 全体の割り付けが済んだら、制約条件に反するような決め方になっていないか全体のバランスは取れ
 ているか、総合的に検討する。
 
D(Do=実行)の段階
 
l.   活動計画の概要が決められたら、担当の割り当てを行う。
m. 月次報告会に関する書式への記述及び問題解決への取り組みに当たっての記録の書式作成の担当者を
     決める。
n.  活動開始する日程と全体調整の責任者を確認して、活動開始する。
 
C(Check=評価)の段階
 
o.  活動の過程で、中間目標の期限ごとに取り組み状況の反省会を持つ。計画した通りに問題解決が図ら
    れなかった場合には、職場内で調整の場を持ち、活動計画の修正を行う。目標の修正が必要な場合に
    は承認の手続きを取る。
p.  活動計画の内容について評価を行う時に、目標値、期限が明確になっていないと適正な評価ができな
    い。評価内容について評価者と被評価者の解釈の差異が大きくなり、不満を導き出す元になるので
    必ず明確にしておく。
 
A(Act=改善)の段階
 
q.  活動計画が終結した段...
階で、活動の経過を点検する。問題解決が目的の通りに果たされた場合は、そ
    の内容を標準的な方法として再利用できるようにデ-タを所定の書式に登録し、勉強会を開催して、
    普及させます。問題解決が不足している場合は、再度計画の立て直しを行い、この課題に取り組むの
    か、廃止にするのか決めます。廃止の場合には、失敗の理由と関連資料を整備して、以降の活動の参
    考に資する。計画の内容が粗雑になるほど、有意義な反省点、それに基づく教訓も導き出せない。計
    画に習熟する努力が必要です。
 
 行動計画を実行していく過程で常に心していかなければならないのは、目的に照らして行動するということです。練り上げた行動計画であっても、中間目標に取り組んでいる過程で陥りやすいのは、目下取り組み中の問題解決に力が入り過ぎて、個々の方法論に陥り、目的を意識しなくなってしまうことです。困難な事態に遭遇した時に、目的を忘れて目先で発生している問題解決にばかり力が注がれると、誤った方向に判断する事態に陥りやすいようです。
 
 困難であっても目的に沿うような判断を行わなければならない場合が存在することを、しっかりと心に留めておきます。また、分担して中間目標に取り組んでいる場合には、担当者間の連携が維持できるように、情報交換を行う方法、時期を決めます。そして、問題解決の相乗効果が得られるような仕組みを作る必要があります。
 

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