TRIZ(発明問題解決の理論)の紹介 (その1)

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 TRIZ (Theory of Inventive Problem Solving) はロシアで生まれた技術思想で、創造的な問題解決のための技法です。特許の分析から、発明の原理を抽出し、技術システムの進化の法則を明らかにして、矛盾を解決するための一般的な問題解決プロセスを明確にしました。TRIZの普及の鍵はその簡易化にあります。TRIZのエッセンスを簡潔に表現して、なおかつ、 やさしい問題解決プロセスUSITを紹介します。
 

1.はじめに   

  旧ソ連の民間で開発されて、冷戦後に西側にも知られて注目されたTRIZについての紹介です。TRIZは、「発明問題解決の理論」という意味のロシア語名称の略号を英語綴りにしたもので、発音は英語のTreesと同じです。旧ソ連で1946年に、 海軍の特許審査員G.S. アルトシュラー(当時20才) が 多数の特許の中には、似た発想や類似の考え方が別の分野で、別の時代に別の問題で適用されていることに気付きました。"独創的な発明にも、自ずからパターンがあると認識しました。そこで、優れた特許から発明のパターンを抽出し、それを学ぶことによって、誰でも発明家になれるだろうと考えました。試行錯誤と偶然のひらめきに頼らなくてよくなるだろうと考えました。
 
 彼はこの発想をスターリンに提案しましたが、その結果反体制的であるとして、強制収容所に送られ、その後も、当局の抑圧の中で彼は特許の研究から、発明の原理を抽出し、ボトムアップに、技術の新しい見方と技術課題に対する問題解決の技法をつくり上げていきました。1970-74年に、毎週日曜日に開講する研究所で弟子を養成した他は、全く私的な草の根組織で研究・普及活動をしたのでした。彼は、特許の事例を多数集めて「発明の原理」 (発明のアイデアのポイント)を抽出し、さらにそのような発明をするための方法 (彼は「発明のアルゴリズム」と呼んだ) を考え出し、その方法を他の問題に適用して有効性を検証していきました。それは、すべて手作業で行われた実証的な研究でした。
 
 1990年頃、アルトシュラーの弟子たちは、旧ソ連中で200のTRIZスクール (公的な研究室/コース又は、 私的なグループでした) で教え、総計約7000名の学生が学んでいたと言われています。ソ連の崩壊と冷戦の集結で、多くのTRIZ専門家たちが、米国や欧州に移住して 西側諸国にTRIZが知られるようになりました。米国で、TRIZの知識ベースを収録したPC上のソフトツールが開発され、研修やコンサルティングなどを通じて、大企業への普及が始まりました。
 
 日本でも、1996年に日経メカニカル誌が取り上げて以来、製造業を中心とする企業で関心が高まり、導入が試行されています。しかし、日本での初期の導入活動には、つぎのような問題点・弱点がありました。
(a) 「超発明術」というキャッチフレーズが懐疑と誤解をもたらした。
(b)TRIZの中身の情報が1970年代の教科書をベースにしたものが多く、言葉の壁のために適切な情報が少なかった。
(c) ソフトツールは知識ベースとしては優れたものだったが、問題解決の思考プロセスをガイドできなかった。
 
 本解説は、これらの問題点・弱点を正す方法を示すことを主目的として、TRIZの全体像を簡単に紹介します。  
 

2.TRIZの技術認識の概要

 TRIZでは、前述のように多くの事例の分析を基礎にして、技術体系全体に対して、次のようにいくつもの新しい観点を作りだしています。
 

(1) 技術指向 

 アカデミックな科学技術の持つ抽象指向でもなく、また、 技術現場の即物的な具体指向でもなく、これらの両方を同時に備えた「技術指向」の立場を作り出しました。技術現場のための抽象性を持ちます。
 

(2) 技術システムの諸要素

 技術システムの発展の歴史を分析し、技術システムの諸要素の発展の方向を導き出し、技術システムの発展が「理想性の向上」の方向であるとの法則を明確にしました。ここで、「理想性 = 主機能/(質量 + エネルギー + サイズ)」と考えています。
 

(3) 技術目標から手段を検索するための体系

  科学技術がその原理を述べるとき、「条件設定 → (自然法則) → 効果」の形式を取り、 技術現場での要求は、自分が欲しい目標機能を実現する手段を見出すことで、 科学技術の原理の記述形式とは逆方向であるために、解決手段を見つけることが困難になります。TRIZでは、技術目標の表現法そのものを階層的に体系化して、それらの技術目標に対する既知の実現手段を記録・蓄積して、「目標機能→実現手段」の形式の知識ベースを開発しました。
 

(4) 発明の原理40項目

 「細分化」、「分離・摘出」、「局所的性質」など 40の原理に対して、それぞれいくつかのサブ項目を持ち、それぞれに複数の適用事例を記録・蓄積しています。
 

3.TRIZの問題解決技法の概要

  TRIZの本来の目的は、問題解決のための方法を作り出すことで、前節の技術に対する認識を基礎としています。その結果、TRIZは「発明のノウハウ」のレベルをはるかに越えた技法の体系を作り上げました。
 

(1) TRIZの問題解決の基本モデル

 自分の問題から個別に考えて、自分の問題の解決策を見出すことは困難が多く、試行錯誤に陥ることになります。そこで、図1のように予め研究・蓄積しておいた多数の問題解決のモデル (ひな型) を使って、自分の問題を適当なモデルの問題に抽象化します。そのモデルの解決策は分かっていますから、それを自分の問題のケースに当てはめて、自分の問題の解決策への具体化を図ります。

                triz1
図1.問題解決の基本モデル
 

(2) 問題の本質を「技術的矛盾」の形式に表現

 「技術的矛盾」とは、システムのあるパラメタ (側面) を改良しようとすると、別のパラメタ (側面)が許容できないほどに悪化する場合を言います。TRIZではこの表現形式を明確にするために、39種のパラメタを選定して、39×39の問題のマトリクスを作りました。そして、多数の特許を調べて各特許がどのような「技術的矛盾」の問題を扱ったのか、そして40の発明原理のどれを用いて解決したのかを調べてその分析を蓄積し、上記の39×39の各枡目で最もよく使われた発明の原理の上位4種を書き並べたのです。このようにして得られた一覧表を「アルトシュラーの矛盾マトリクス」と呼びます。これは、TRIZが達成...
 TRIZ (Theory of Inventive Problem Solving) はロシアで生まれた技術思想で、創造的な問題解決のための技法です。特許の分析から、発明の原理を抽出し、技術システムの進化の法則を明らかにして、矛盾を解決するための一般的な問題解決プロセスを明確にしました。TRIZの普及の鍵はその簡易化にあります。TRIZのエッセンスを簡潔に表現して、なおかつ、 やさしい問題解決プロセスUSITを紹介します。
 

1.はじめに   

  旧ソ連の民間で開発されて、冷戦後に西側にも知られて注目されたTRIZについての紹介です。TRIZは、「発明問題解決の理論」という意味のロシア語名称の略号を英語綴りにしたもので、発音は英語のTreesと同じです。旧ソ連で1946年に、 海軍の特許審査員G.S. アルトシュラー(当時20才) が 多数の特許の中には、似た発想や類似の考え方が別の分野で、別の時代に別の問題で適用されていることに気付きました。"独創的な発明にも、自ずからパターンがあると認識しました。そこで、優れた特許から発明のパターンを抽出し、それを学ぶことによって、誰でも発明家になれるだろうと考えました。試行錯誤と偶然のひらめきに頼らなくてよくなるだろうと考えました。
 
 彼はこの発想をスターリンに提案しましたが、その結果反体制的であるとして、強制収容所に送られ、その後も、当局の抑圧の中で彼は特許の研究から、発明の原理を抽出し、ボトムアップに、技術の新しい見方と技術課題に対する問題解決の技法をつくり上げていきました。1970-74年に、毎週日曜日に開講する研究所で弟子を養成した他は、全く私的な草の根組織で研究・普及活動をしたのでした。彼は、特許の事例を多数集めて「発明の原理」 (発明のアイデアのポイント)を抽出し、さらにそのような発明をするための方法 (彼は「発明のアルゴリズム」と呼んだ) を考え出し、その方法を他の問題に適用して有効性を検証していきました。それは、すべて手作業で行われた実証的な研究でした。
 
 1990年頃、アルトシュラーの弟子たちは、旧ソ連中で200のTRIZスクール (公的な研究室/コース又は、 私的なグループでした) で教え、総計約7000名の学生が学んでいたと言われています。ソ連の崩壊と冷戦の集結で、多くのTRIZ専門家たちが、米国や欧州に移住して 西側諸国にTRIZが知られるようになりました。米国で、TRIZの知識ベースを収録したPC上のソフトツールが開発され、研修やコンサルティングなどを通じて、大企業への普及が始まりました。
 
 日本でも、1996年に日経メカニカル誌が取り上げて以来、製造業を中心とする企業で関心が高まり、導入が試行されています。しかし、日本での初期の導入活動には、つぎのような問題点・弱点がありました。
(a) 「超発明術」というキャッチフレーズが懐疑と誤解をもたらした。
(b)TRIZの中身の情報が1970年代の教科書をベースにしたものが多く、言葉の壁のために適切な情報が少なかった。
(c) ソフトツールは知識ベースとしては優れたものだったが、問題解決の思考プロセスをガイドできなかった。
 
 本解説は、これらの問題点・弱点を正す方法を示すことを主目的として、TRIZの全体像を簡単に紹介します。  
 

2.TRIZの技術認識の概要

 TRIZでは、前述のように多くの事例の分析を基礎にして、技術体系全体に対して、次のようにいくつもの新しい観点を作りだしています。
 

(1) 技術指向 

 アカデミックな科学技術の持つ抽象指向でもなく、また、 技術現場の即物的な具体指向でもなく、これらの両方を同時に備えた「技術指向」の立場を作り出しました。技術現場のための抽象性を持ちます。
 

(2) 技術システムの諸要素

 技術システムの発展の歴史を分析し、技術システムの諸要素の発展の方向を導き出し、技術システムの発展が「理想性の向上」の方向であるとの法則を明確にしました。ここで、「理想性 = 主機能/(質量 + エネルギー + サイズ)」と考えています。
 

(3) 技術目標から手段を検索するための体系

  科学技術がその原理を述べるとき、「条件設定 → (自然法則) → 効果」の形式を取り、 技術現場での要求は、自分が欲しい目標機能を実現する手段を見出すことで、 科学技術の原理の記述形式とは逆方向であるために、解決手段を見つけることが困難になります。TRIZでは、技術目標の表現法そのものを階層的に体系化して、それらの技術目標に対する既知の実現手段を記録・蓄積して、「目標機能→実現手段」の形式の知識ベースを開発しました。
 

(4) 発明の原理40項目

 「細分化」、「分離・摘出」、「局所的性質」など 40の原理に対して、それぞれいくつかのサブ項目を持ち、それぞれに複数の適用事例を記録・蓄積しています。
 

3.TRIZの問題解決技法の概要

  TRIZの本来の目的は、問題解決のための方法を作り出すことで、前節の技術に対する認識を基礎としています。その結果、TRIZは「発明のノウハウ」のレベルをはるかに越えた技法の体系を作り上げました。
 

(1) TRIZの問題解決の基本モデル

 自分の問題から個別に考えて、自分の問題の解決策を見出すことは困難が多く、試行錯誤に陥ることになります。そこで、図1のように予め研究・蓄積しておいた多数の問題解決のモデル (ひな型) を使って、自分の問題を適当なモデルの問題に抽象化します。そのモデルの解決策は分かっていますから、それを自分の問題のケースに当てはめて、自分の問題の解決策への具体化を図ります。

                triz1
図1.問題解決の基本モデル
 

(2) 問題の本質を「技術的矛盾」の形式に表現

 「技術的矛盾」とは、システムのあるパラメタ (側面) を改良しようとすると、別のパラメタ (側面)が許容できないほどに悪化する場合を言います。TRIZではこの表現形式を明確にするために、39種のパラメタを選定して、39×39の問題のマトリクスを作りました。そして、多数の特許を調べて各特許がどのような「技術的矛盾」の問題を扱ったのか、そして40の発明原理のどれを用いて解決したのかを調べてその分析を蓄積し、上記の39×39の各枡目で最もよく使われた発明の原理の上位4種を書き並べたのです。このようにして得られた一覧表を「アルトシュラーの矛盾マトリクス」と呼びます。これは、TRIZが達成した膨大な研究成果です。ユーザは自分の問題がこのマトリクスのどの枡目に該当するかを考え、4種の発明の原理を自分の問題に対するヒントとして得ます。このヒントを生かすためには、柔軟な思考が必要です。
 

(3)「物理的矛盾」と「分離原理」

 「物理的矛盾」とは、技術システムの一つのパラメタ (側面) に対して、正・逆の二つの要求が同時に存在する場合を言います。このような状況は、通常で言えば「にっちもさっちもいかない」解決不能な矛盾です。ところがTRIZは、「物理的矛盾」にまで問題を突き詰めると、ほとんど確実に解決できることを示しました。それによって、矛盾する要求をより詳しく吟味することにより、「同時に」と言いながらも要求を時間的に分離したり、空間的に分離したり、その他の条件で分離したりできることが分かります。そうすると、分離したそれぞれの条件化で、各要求を満たすことを考えれば良く、これを「分離原理」と言います。
 

(4)ARIZ

 問題を緻密に分析して、まず「技術的矛盾」の形式に表し、さらに再定式化を繰り返して「物理的矛盾」の形式に導く手順を明確にしました。これをARIZ と呼びます。
 

(5)76の発明標準解

 問題のシステムを、「物質-場分析」と呼ぶ表現法で機能分析を行い、どのような場合にどのような解決法がいままで有効であったかを、「76の発明標準解」の形にまとめました。
 
次回のTRIZ(発明問題解決の理論)の紹介 その2に続きます。
 
       出典:「TRIZホームページ」2001年:日本創造学会第23回研究大会資料より    

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この記事の著者

中川 徹

日本におけるTRIZ/USITの開拓者、創造的問題解決法の第一人者であり、公共サイト『TRIZホームページ』を日々更新中

日本におけるTRIZ/USITの開拓者、創造的問題解決法の第一人者であり、公共サイト『TRIZホームページ』を日々更新中


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