
運転・保全、それぞれの立場で見える景色は違う。その違いをつなげたとき、設計の価値は一段高まる。「日本のものづくりは、もう世界一ではない」そんな言葉を、私たちは何度耳にしてきたでしょうか。確かに、量産規模、スピード、コスト競争力といった指標では、海外勢に後れを取る分野も増えました。しかし本当に、日本のものづくりは衰退しているのでしょうか。答えは、否です。日本のものづくりは今も、世界の至るところで静かに、しかし確実に選ばれ続けています。その理由は、「ナンバーワン」ではなく、「オンリーワン」にあります。今回は、日本のものづくり技術に見られるオンリーワンの実例を紹介しながら、そこから見えてくる機械設計技術者が目指すべき方向について、機械部門の技術士としての視点で考えてみたいと思います。
1. 日本のものづくりは「記録」より「記憶」に残る
日本の技術が真価を発揮するのは、世界一を競う舞台よりも、他に代えがたい価値を生む現場です。たとえば、
- 世界最高速ではないが、世界で最も壊れにくい減速機
- 世界最大ではないが、ミクロン単位の再現性を何十年も維持する工作機械
- 世界最安ではないが、止まることを許されない製造ラインで選ばれる装置
これらはニュースにはなりにくい存在です。しかし現場では確実に評価され、「次もまたこのメーカーに頼もう」と記憶に刻まれていきます。

図1. 産業用機械の断面スケッチ~性能値では測れない「信頼性」を支える内部構造~
日本のものづくりは、記録(ナンバーワン)よりも、記憶(オンリーワン)に残る技術を育ててきたのです。
2. オンリーワンは「技術の掛け算」から生まれる
オンリーワン技術の多くは、単一の突出した性能から生まれるわけではありません。
- 材料特性の深い理解
- 加工現場の癖を知り尽くした設計
- 組立・調整を前提とした寸法設計
- 使われ方・壊れ方を見越した余白の設計
こうした要素が、設計の中で有機的に結びついた結果として、他社が簡単には真似できない製品が生まれます。これはまさに、機械設計者の総合力が問われる世界です。CAD操作が巧みなだけでは届かず、机上の理論だけでも不十分な領域と言えるでしょう。

図2. 設計を中心に、現場知見が重なり合う構造~オンリーワンは「技術の掛け算」から生まれる~
3. ナンバーワン思考が設計者を苦しめる理由
若い設計者から、次のような声を耳にすることがあります。
- 「もっと新しい技術を知らないといけない気がする」
- 「海外製品と比べて、うちの設計は遅れているのではないか」
この不安の多くは、ナンバーワン思考から生まれています。しかし、設計の現場で本当に求められているのは、「世界初か?」ではなく、「この現場で、確実に機能するか?」です。オンリーワンとは、派手な革新ではありません。目の前の課題に、誰よりも深く向き合った結果なのです。
4. 機械設計技術者が目指すべき「次の姿」

図3. 設計・運転・保全がつながる現場断面イメージ~設計は図面で完結せず、現場の中で完成する~
では、これからの機械設計技術者は何を目指すべきでしょうか。私は、次の3つだと考えています。
① 図面の先にある「使われ方」を描ける設計者
設計は完成ではなく、使用開始がスタートです。運転・保全・改修までを想像できる設計者は、唯一無二の存在になります。
② 現場の言葉を設計言語に翻訳できる設計者
「なんとなく調子が悪い」「ここが怖い」といった現場の感覚を、寸法・公差・構造に落とし込める力は、AIにも簡単には代替できません。
③ 自分の強みを自覚している設計者
すべてを網羅する必要はありません。「この分野なら任せてほしい」と言える軸を持つことが、オンリーワンへの第一歩です。
5. オンリーワン設計者は、静かに評価される
オンリーワンを目指す道は、決して派手ではありません。評価されるまでに、時間もかかります。しかし一度信頼を得た設計者は「この人が言うなら大丈夫」「この人に相談したい」と、静かに、しかし確実に選ばれ続けます。それは、日本のものづくりが歩んできた道そのものです。
6. あなたの設計は、誰の「オンリーワン」か
ナンバーワンを追いかける時代は、終わりつつあります。これから問われるのは「あなたの設計は、誰にとってのオンリーワンなのか」です。日本のものづくりが積み重ねてきた価値は、派手さではなく、深さ。スピードではなく、確実さ。
機械設計技術者という仕事は、今もなお、その真価を発揮できる舞台にあります。
オンリーワンを設計する覚悟を持つこと !
それこそが、これからの設計者に求められる姿ではないでしょうか。本記事が、設計者としての視点を広げる一助となれば幸いです。




