【農業×発電の二刀流】営農型太陽光(ソーラーシェアリング)とは?メリット・失敗リスク・補助金を徹底解説

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【農業×発電の二刀流】営農型太陽光(ソーラーシェアリング)とは?メリット・失敗リスク・補助金を徹底解説
【目次】

    日本の農業は転換期を迎えています。高齢化による担い手不足、耕作放棄地の増加、そして国際的な食料価格の変動リスクなど、構造的な課題が山積しています。同時に地球温暖化対策とエネルギー自給率向上という課題から、再生可能エネルギーの導入は待ったなしの状況です。こうした二つの社会課題を「農地」という限られた資源の上で同時に解決する可能性を持っているのが「営農型太陽光発電」、通称ソーラーシェアリングです。これは、農作物の生育を維持しながら農地の上部空間で発電を行うという「農業と発電の二刀流」を実現するシステムです。今回は営農型太陽光発電の具体的な仕組み、農業経営にもたらすメリットと潜在的なデメリット、そして導入を成功させるための実践的なプロセス、さらに国や自治体による充実した支援策について解説します。

     

    1. 農業とエネルギーの共存、「営農型太陽光」とは

    1-1. 日本の農業が抱える課題と再生可能エネルギーへの期待

    日本の農業基盤は脆弱化が進んでいます。食料自給率は低迷し、農業所得は不安定であり、特に中山間地域では耕作放棄地が拡大の一途を辿っています。これらの問題は農村の活力を低下させ、将来的な食料安全保障に暗い影を落としています。一方で世界は化石燃料依存からの脱却を目指し、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電の導入を強力に推進しています。しかし、国土が狭い日本では大規模な発電所を建設するための土地確保が困難であり、この「土地制約」こそが再エネ普及の大きな壁となっていました。この状況下で、農業の生産性を維持しつつエネルギーを生み出す場所として「農地」を有効活用する発想が求められました。この共存の実現こそが、持続可能な地域社会を築く鍵として営農型太陽光発電に期待が寄せられる背景です。農業の活性化とエネルギー供給の安定化という相反しがちだった目標を両立させるソリューションとして重要性が高まっています。

     

    1-2. 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の定義と注目される理由

    営農型太陽光発電、またはソーラーシェアリングとは、農地を維持したまま、支柱を立ててその上部に太陽光パネルを設置し、農業と発電を両立させるシステムです。このシステムの最大の特徴は、「農作物の生育に必要な光量を確保しつつ、余剰な光で発電を行う」という点にあります。農作物は一定以上の光(飽和点)を受けても光合成の効率が上がらなくなるため、その余分な光をパネルで受け止めます。これにより農地の利用効率を極限まで高め、土地資源の多面的な活用を実現します。注目される理由はその高い経済効果にあります。農業者や農地所有者は不安定な農産物収入に加え、売電による安定的な収益源を確保できます。この「売電収入」が農業経営を支える第二の柱となり、若手農業者の参入を促し、遊休農地の解消にも繋がるため、単なる発電事業に留まらない地域経済を牽引する力として期待されているのです。

     

    2. 営農型太陽光発電の「仕組み」とメリット・デメリット

    2-1. 仕組みの基礎、農地の上空を有効活用する発電スタイル

    営農型太陽光発電の基本的な仕組みは、農地の作付を妨げないように適切な高さと間隔で支柱を設置し、その上部に太陽光パネルを並べるというものです。パネルは農作物に必要な日照量を確保するため、隙間を設けて設置されます。この隙間の割合(遮光率)は、栽培する作物の光飽和点に応じて設計されます。例えば稲や大豆など日当たりを好む作物では遮光率を低く(パネルの隙間を広く)、シイタケやミョウガ、一部の葉物野菜など半日陰を好む作物では遮光率を高く設定します。発電された電力は、固定価格買取制度(FIT)やFIP(フィードインプレミアム)制度を利用して売電することで収益となります。このシステムは、単に土地を二重利用するだけでなく農地の上部空間という今まで利用されていなかった資源を有効活用し、農地を「食料生産の場」と「エネルギー生産の場」のハイブリッドに進化させるものです。設備設計においては農作業に影響が出ないよう、支柱の配置間隔やパネル下の高さに十分配慮し、大型機械の導入可能性も考慮に入れる必要があります。

     

    2-2. 導入のメリット、農業者にとっての三つの恩恵

    営農型太陽光発電の導入は、農業者に対して経営、環境、そして農地維持の三つの側面で大きな恩恵をもたらします。

    【安定的な売電収入による経営基盤の強化】

    最大のメリットは、売電による収入が確立することです。農産物の価格は天候不作や市場の需給バランスによって変動しやすい性質がありますが、FIT制度によって定められた固定価格での売電収入は長期にわたって安定したキャッシュフローを生み出します。この安定収入が農業経営におけるリスクを大幅に低減し、資材の高騰や異常気象による収入減を補填するセーフティネットとして機能します。結果として新たな農業投資(高機能な農機具の導入、高付加価値作物への転換など)への道が開け、経営の多角化と収益性の向上に直結します。

     

    【農作物の生育環境改善(遮光・防風など)の可能性】

    太陽光パネルによる適度な遮光は、夏場の猛暑対策として有効に機能する場合があります。特に近年増加する異常な暑さによる高温障害や乾燥から作物を守り、品質の低下を防ぐ効果が期待されます。またパネルを支える構造物が防風ネットのような役割を果たし、強風による農作物への物理的な被害を軽減する効果もあります。適切な遮光率を選定し、作物の光飽和点を考慮することで、かえって生育に適した環境を生み出し、特に熱に弱い作物や半日陰を好む作物の収量・品質向上に繋がる事例も報告されています。

     

    【耕作放棄地の解消と農地の維持】

    農地法上の営農型太陽光発電の設置許可は、農地の一時転用という形で行われます。この許可は「継続的な営農が行われること」が前提条件となります。これにより、売電事業を行う間は必ず農作業を続けなければならないという義務が発生します。結果と...

    【農業×発電の二刀流】営農型太陽光(ソーラーシェアリング)とは?メリット・失敗リスク・補助金を徹底解説
    【目次】

      日本の農業は転換期を迎えています。高齢化による担い手不足、耕作放棄地の増加、そして国際的な食料価格の変動リスクなど、構造的な課題が山積しています。同時に地球温暖化対策とエネルギー自給率向上という課題から、再生可能エネルギーの導入は待ったなしの状況です。こうした二つの社会課題を「農地」という限られた資源の上で同時に解決する可能性を持っているのが「営農型太陽光発電」、通称ソーラーシェアリングです。これは、農作物の生育を維持しながら農地の上部空間で発電を行うという「農業と発電の二刀流」を実現するシステムです。今回は営農型太陽光発電の具体的な仕組み、農業経営にもたらすメリットと潜在的なデメリット、そして導入を成功させるための実践的なプロセス、さらに国や自治体による充実した支援策について解説します。

       

      1. 農業とエネルギーの共存、「営農型太陽光」とは

      1-1. 日本の農業が抱える課題と再生可能エネルギーへの期待

      日本の農業基盤は脆弱化が進んでいます。食料自給率は低迷し、農業所得は不安定であり、特に中山間地域では耕作放棄地が拡大の一途を辿っています。これらの問題は農村の活力を低下させ、将来的な食料安全保障に暗い影を落としています。一方で世界は化石燃料依存からの脱却を目指し、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電の導入を強力に推進しています。しかし、国土が狭い日本では大規模な発電所を建設するための土地確保が困難であり、この「土地制約」こそが再エネ普及の大きな壁となっていました。この状況下で、農業の生産性を維持しつつエネルギーを生み出す場所として「農地」を有効活用する発想が求められました。この共存の実現こそが、持続可能な地域社会を築く鍵として営農型太陽光発電に期待が寄せられる背景です。農業の活性化とエネルギー供給の安定化という相反しがちだった目標を両立させるソリューションとして重要性が高まっています。

       

      1-2. 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の定義と注目される理由

      営農型太陽光発電、またはソーラーシェアリングとは、農地を維持したまま、支柱を立ててその上部に太陽光パネルを設置し、農業と発電を両立させるシステムです。このシステムの最大の特徴は、「農作物の生育に必要な光量を確保しつつ、余剰な光で発電を行う」という点にあります。農作物は一定以上の光(飽和点)を受けても光合成の効率が上がらなくなるため、その余分な光をパネルで受け止めます。これにより農地の利用効率を極限まで高め、土地資源の多面的な活用を実現します。注目される理由はその高い経済効果にあります。農業者や農地所有者は不安定な農産物収入に加え、売電による安定的な収益源を確保できます。この「売電収入」が農業経営を支える第二の柱となり、若手農業者の参入を促し、遊休農地の解消にも繋がるため、単なる発電事業に留まらない地域経済を牽引する力として期待されているのです。

       

      2. 営農型太陽光発電の「仕組み」とメリット・デメリット

      2-1. 仕組みの基礎、農地の上空を有効活用する発電スタイル

      営農型太陽光発電の基本的な仕組みは、農地の作付を妨げないように適切な高さと間隔で支柱を設置し、その上部に太陽光パネルを並べるというものです。パネルは農作物に必要な日照量を確保するため、隙間を設けて設置されます。この隙間の割合(遮光率)は、栽培する作物の光飽和点に応じて設計されます。例えば稲や大豆など日当たりを好む作物では遮光率を低く(パネルの隙間を広く)、シイタケやミョウガ、一部の葉物野菜など半日陰を好む作物では遮光率を高く設定します。発電された電力は、固定価格買取制度(FIT)やFIP(フィードインプレミアム)制度を利用して売電することで収益となります。このシステムは、単に土地を二重利用するだけでなく農地の上部空間という今まで利用されていなかった資源を有効活用し、農地を「食料生産の場」と「エネルギー生産の場」のハイブリッドに進化させるものです。設備設計においては農作業に影響が出ないよう、支柱の配置間隔やパネル下の高さに十分配慮し、大型機械の導入可能性も考慮に入れる必要があります。

       

      2-2. 導入のメリット、農業者にとっての三つの恩恵

      営農型太陽光発電の導入は、農業者に対して経営、環境、そして農地維持の三つの側面で大きな恩恵をもたらします。

      【安定的な売電収入による経営基盤の強化】

      最大のメリットは、売電による収入が確立することです。農産物の価格は天候不作や市場の需給バランスによって変動しやすい性質がありますが、FIT制度によって定められた固定価格での売電収入は長期にわたって安定したキャッシュフローを生み出します。この安定収入が農業経営におけるリスクを大幅に低減し、資材の高騰や異常気象による収入減を補填するセーフティネットとして機能します。結果として新たな農業投資(高機能な農機具の導入、高付加価値作物への転換など)への道が開け、経営の多角化と収益性の向上に直結します。

       

      【農作物の生育環境改善(遮光・防風など)の可能性】

      太陽光パネルによる適度な遮光は、夏場の猛暑対策として有効に機能する場合があります。特に近年増加する異常な暑さによる高温障害や乾燥から作物を守り、品質の低下を防ぐ効果が期待されます。またパネルを支える構造物が防風ネットのような役割を果たし、強風による農作物への物理的な被害を軽減する効果もあります。適切な遮光率を選定し、作物の光飽和点を考慮することで、かえって生育に適した環境を生み出し、特に熱に弱い作物や半日陰を好む作物の収量・品質向上に繋がる事例も報告されています。

       

      【耕作放棄地の解消と農地の維持】

      農地法上の営農型太陽光発電の設置許可は、農地の一時転用という形で行われます。この許可は「継続的な営農が行われること」が前提条件となります。これにより、売電事業を行う間は必ず農作業を続けなければならないという義務が発生します。結果として、遊休化していた農地や耕作放棄地を有効活用しながら、その農地が将来にわたって農業目的で維持されることが担保されます。これは、地域の貴重な農地資源の保全に貢献し、農業基盤の維持にも寄与するという大きな社会的な意義を持ちます。

       

      2-3. 懸念点とデメリット、導入前に理解すべき課題

      メリットが多い一方で、導入前に十分な理解と対策が必要な懸念点も存在します。

      【初期投資の負担と収支計画の重要性】

      営農型太陽光発電は通常の野立て太陽光に比べ、パネルを高く設置するための大掛かりな支柱構造が必要となるため、初期投資費用が嵩みます。一般的な野立て太陽光よりも支柱を高くするため、施工費は割高になります(目安:1kWあたり20万〜30万円前後)。50kW低圧設備の場合、総額で1,000万円〜1,500万円程度の投資が必要になるケースが多く、緻密な収支シミュレーションが不可欠です。安定的な売電収入で回収していくという長期的な収支計画の策定が極めて重要です。想定される発電量、売電価格、農作物の収量、そして固定資産税やメンテナンス費用などを詳細にシミュレーションし、リスクを評価する必要があります。資金調達には、後述の国の支援策や融資制度を最大限に活用することが鍵となります。

       

      【農作業への影響と設備管理の手間】

      支柱やパネルの存在は農地の空間的な制約となり、従来の農作業に影響を及ぼす可能性があります。特に大型のトラクターやコンバインなどを使用する作業では、支柱の間隔がボトルネックとなることが考えられます。また、設備稼働後もパネルの清掃、支柱や架台の点検、雑草対策などの設備管理(O&M)が追加で発生し、農業者の手間となる点も考慮しなければなりません。農作業の効率を極力落とさないよう、設計段階で作業動線や機械のサイズを綿密に検討することが不可欠です。

       

      【一時転用の許可更新リスク】

      営農型太陽光発電の設置は、農地法に基づく「一時転用許可」が必要です。この許可は当初3年、優良事例については10年まで延長されていますが、原則として定期的な更新が必要となります。更新時には下部農地における営農が適切に継続されていること(収量の維持など)を証明しなければなりません。もし農業がおろそかになり、基準を下回るような事態が続けば、許可が取り消され、設備撤去を求められるリスクがあります。そのため、発電事業を目的とするあまり本業である営農がおろそかにならないよう、常に両立への意識を高く持つことが求められます。

       

      3. 普及状況と成功事例、全国の「アグリフォトボルタイクス」最前線

      3-1. 国内における普及状況の推移と最新データ

      営農型太陽光発電は、2013年の固定価格買取制度(FIT)導入以降急速に注目を集めました。農林水産省による一時転用許可件数の推移を見ると制度開始当初から年々増加傾向にあり、特に2015年頃から全国的な広がりを見せています。初期には千葉県や茨城県など、平坦な農地の多い地域での導入が先行しましたが、規制緩和や成功事例の蓄積に伴い、現在では中山間地域を含む全国各地で導入が進んでいます。最新のデータでは累計の許可件数は数千件に上り、その導入規模も多様化しています。当初は比較的小規模なモデルが中心でしたが、近年では地域の基幹産業を担う大規模農業法人による導入も増加し、発電出力もメガソーラー級の事例も見られるようになっており、普及の勢いは加速しています。

       

      3-2. 営農型太陽光発電の規制緩和と普及の加速

      営農型太陽光発電の普及を後押ししている大きな要因の一つが、農地法における規制の柔軟化です。導入当初、一時転用許可の期間は一律3年と定められていましたが、これは事業計画の安定性や融資の面で課題となっていました。このため農水省は2020年に制度を見直し、適切な営農継続が確認された優良な事例については許可期間を最大10年に延長できることとしました。この規制緩和は事業者に長期的な見通しを与え、金融機関からの融資を引き出しやすくしたため、普及を大きく加速させました。さらに農地の種類(優良農地、一般農地など)に応じた設置の可否基準や、支柱下部の土地利用に関する弾力的な運用も進められており、より多様な条件の農地での導入が検討可能となっています。

       

      3-3. 成功事例の分析

      【高収益作物を組み合わせた大規模成功例】

      千葉県や茨城県では、日射量が多く土地利用効率の高い平坦な農地を活かし、強い光を必要としない(陰性植物・半陰性植物)ミョウガ、フキ、サカキ、シキミや、原木シイタケなどの栽培などで特に成功例が多くなっています。また近年ではパネル間隔を調整することで、水稲(米)や大豆、麦といった主要穀物での大規模導入も進んでいます。これらの作物は一般的に適度な遮光を好む性質があり、パネルによる遮光がマイナスにならず、むしろ生育環境の最適化に繋がっています。売電収入に加えて農産物販売による高収益が確保されることで初期投資回収期間が短縮され、事業性が格段に向上しています。さらに、大規模な法人経営により発電設備管理と営農作業を効率的に分業化している点も成功の要因です。

       

      【中山間地域での地域活性化に繋がった事例】

      過疎化と高齢化が進む中山間地域においては、耕作放棄地の解消と新たな雇用の創出という点で、営農型太陽光が地域活性化の核となっています。地元農家が出資し、地域外の企業と連携して遊休農地を活用した発電事業を展開。発電収益の一部を地域に還元して高齢者や障がい者の雇用創出、農機具の共同購入資金などに充てることで、地域全体の農業基盤を支える仕組みが構築されています。これにより限界集落寸前だった地域に再び活力が戻り、移住者の増加に繋がった事例も報告されています。

       

      【遊休農地を活用した地域新電力連携事例】

      地域の遊休農地に営農型太陽光発電設備を導入し、発電した電力を地域の新電力会社(PPA事業者を含む)を通じて地域内の公共施設や企業、家庭に供給する「地産地消型」のモデルも増えています。このモデルでは、営農型太陽光発電設置者の売電収入だけでなく新電力会社の電力販売による収益も地域内で循環するため、地域経済への貢献度がより高くなります。特に、災害時には自立運転により地域の避難所に電力を供給できるなどレジリエンス(強靭性)の向上にも寄与する点で、地方自治体との連携が強化されています。

       

      4. 導入実現へのプロセス、円滑な「取組フロー」

      営農型太陽光発電を円滑に導入するためには、農業、エネルギー、そして法務の三つの側面から、計画的かつ段階的にプロセスを進める必要があります。

      4-1. 【ステップ1】事業計画の策定と農地の選定

      まず、最も重要なのは実現可能性の高い事業計画の策定です。最初に農地の選定を行います。農地区分(甲種・第一種農地などでは原則不可)を確認し、日射条件や連系線(電力系統)への接続の容易さを評価します。次に栽培する作物を決定します。その作物の光飽和点を考慮し最適な遮光率をシミュレーションすることで、発電量と収量の両立を図ります。事業計画には初期投資額、融資計画、売電収入予測、そして維持管理(O&M)費用を含めた詳細な10〜20年の収支計画を盛り込み、収益性を明確にします。この段階で地域の農家や農業委員会への説明を行い、理解を得ておくことも重要です。

       

      4-2.  【ステップ2】法的許認可の取得

      事業計画が固まったら、各種の法的許認可手続きに進みます。最も重要なのは農地法に基づく一時転用許可の取得です。これは所在地の農業委員会に対して申請します。営農計画書、収支計画書、設備設計図などを提出し、「営農の継続性」と「農地への被害がないこと」を証明する必要があります。また発電事業としては、経済産業省へのFIT/FIP認定申請、電力会社への系統連系申請(接続契約)が必要です。さらに、設備の構造によっては建築基準法や消防法の規制対象となる場合があるため、関連法規の確認と必要な届出を漏れなく行う必要があります。特に農地転用許可は審査に時間を要するため、早期に着手することが肝要です。

       

      4-3.  【ステップ3】設計・施工と運転開始

      許認可が下りたら具体的な設計と施工に入ります。設計においては農機具の動線、防災対策、積雪・耐風圧への考慮など、農作業と安全性を両立させる構造を確定します。施工は、地域の農業協同組合や実績のある太陽光発電専門業者と連携して進めます。支柱の基礎工事、架台の組み立て、パネルの設置、そして電気設備(パワーコンディショナ、変圧器など)の接続までを一貫して行います。工事完了後は経済産業省による事業計画の認定を経て、電力会社との最終的な連系確認が完了次第、発電と売電を開始します。運転開始後も定期的なモニタリングと営農状況の報告が義務付けられます。

       

      5. 計画の確実性を高める~取組チェックリスト~

      営農型太陽光発電事業は農業と発電という二つの事業が絡み合うため、通常の事業よりも多岐にわたるリスクが存在します。導入の確実性を高め長期的な成功を担保するために、以下のチェック項目を厳密に確認することが重要です。

      5-1. 【農地法関連】許可取得・維持のための必須チェック項目

      【農業×発電の二刀流】営農型太陽光(ソーラーシェアリング)とは?メリット・失敗リスク・補助金を徹底解説

       

      5-2. 【事業性関連】収益性を担保するためのチェック項目

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      5-3. 【営農関連】作業効率と作付計画に関するチェック項目

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      6. 導入を後押しする支援策、国と地方自治体の制度活用

      営農型太陽光発電の普及は国の重要な政策目標の一つであり、導入を検討する農業者や事業者を後押しする様々な支援制度が用意されています。これらの制度を最大限に活用することが、初期投資の負担を軽減し事業の確実性を高める鍵となります。

      6-1. 国の支援施策、安定経営と設備投資を支える制度

      国による支援の核となるのは、再生可能エネルギーの導入を促進するための制度と、農業経営の近代化を目的とした支援制度です。

      • FIT/FIP制度による収益の安定化: 最も重要な支援策は、固定価格買取制度(FIT)またはFIP制度による長期的な売電価格の保証です。これにより発電事業としての収益の安定性が高まり、金融機関からの融資を受けやすくなります。
      • 農業関連補助金・交付金: 農林水産省や経済産業省が実施する補助事業の中には、営農型太陽光発電の導入を間接的に支援するものがあります。例えば農山漁村再生可能エネルギー法に基づく優遇措置や、地域の活性化を図るための交付金などが利用可能な場合があります。また農業競争力強化支援事業など、農業生産性の向上を目的とした補助事業の対象となるケースも存在します。
      • 税制優遇措置: 再生可能エネルギー設備導入に関する税制上の優遇措置(例えば、償却資産税の軽減や法人税・所得税の特別償却など)が適用される場合があります。これにより初期投資の負担を会計上軽減することが可能です。

       

      6-2. 地方自治体の支援施策、地域特性に応じた個別支援

      国の制度に加え、地方自治体はそれぞれの地域の農業やエネルギー事情に合わせて独自の支援策を講じています。

      • 初期費用補助金: 一部の自治体では、営農型太陽光発電の設備導入費用の一部に対して直接的な補助金制度を設けています。特に耕作放棄地の解消や地域新電力への電力供給を目的とする案件に対して、補助率が高く設定される傾向があります。
      • コンサルティング・計画策定支援: 導入を検討している農業者に対し、事業計画の策定、農地転用許可の申請手続き、最適な作物選定などに関する専門的なコンサルティング費用を助成する自治体もあります。これにより農業者が単独では難しい専門的な課題をクリアできるようサポートします。
      • 地域連携支援: 発電事業の収益を地域内の農業支援や環境整備に還元する仕組み(地域新電力との連携など)を構築する事業者に対し、優遇的な融資や出資を行う事例も見られます。

       

      6-3. 支援制度を最大限活用するためのポイント

      支援制度を効果的に活用するためには、以下の点に注意が必要です。

      • 早期の情報収集と事前相談: 補助金や優遇措置は募集期間や予算が限られています。常に最新の情報を確認し、自治体の窓口や農業委員会、専門家(行政書士やコンサルタントなど)に早期に相談することが重要です。
      • 事業計画の徹底的な練り込み: 多くの支援制度では、事業計画の実現可能性、収益性、そして地域社会への貢献度が審査されます。単なる発電計画ではなく「農業をいかに継続・発展させるか」という視点を含む、説得力のある計画書を作成することが求められます。
      • 他の制度との併用可能性の確認: 国と地方自治体の制度は、併用が可能なものと不可能なものがあります。複数の制度の適用可能性を検討し、全体として最大の効果が得られるよう設計することが重要です。

       

      7. 持続可能な社会を目指す「営農型太陽光」の未来

      営農型太陽光発電は、日本の持続可能な社会を実現するためのキーテクノロジーであり、食料安全保障とエネルギー安全保障という二つの国家課題に対する、農地という共通のフィールドでの「二刀流」の解決策です。今後はさらに技術的な革新、特に軽量で透過性の高いパネルの開発や、作物の生育段階に合わせて角度を調整できる可動式架台の普及が期待されます。また多様な作物(茶、果樹、山菜など)との組み合わせに関する実証データが蓄積することで、導入適地や作物の選択肢はさらに拡大するでしょう。営農型太陽光発電は、不安定な農産物収入を補完して農業経営を安定化させるだけでなく、地域分散型のクリーンエネルギー供給源としても大きな期待ができる技術です。

       

       

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      この記事の著者

      嶋村 良太

      商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸送用機器。技術士(機械部門・総合技術監理部門)

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