パーパス経営とは?社員を惹きつけ、顧客を繋ぐパーパス経営をわかりやすく解説

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パーパス経営とは?社員を惹きつけ、顧客を繋ぐパーパス経営をわかりやすく解説

【目次】

    現代のビジネス環境は、目まぐるしい変化の渦中にあります。テクノロジーの進化、社会課題の複雑化、そして人々の価値観の多様化は、企業経営に新たな視点とアプローチを求めています。かつては利益追求が企業の至上命題とされてきましたが、今やそれだけでは持続的な成長は困難になりつつあります。こうした中で注目を集めているのが、「パーパス経営」という考え方です。パーパス経営とは、単なる経済的合理性を超え、企業が社会に存在する意義、つまり「存在目的(パーパス)」を明確にし、それを経営の軸に据えることを指します。このパーパスを羅針盤とすることで、社員のエンゲージメントを高め、顧客との強固な信頼関係を築き、最終的には企業価値の向上と社会貢献の両立を目指すのがパーパス経営の核心です。今回は、このパーパス経営の概念から重要性、実践方法、課題、そして未来までを分かりやすく解説していきます。

     

    1.  パーパス経営とは? 企業理念との違いや誤解されがちな点を解説

    パーパス経営とは、企業が「何のために存在するのか」という根本的な問いに対する答え、すなわち企業の存在意義(パーパス)を明確にし、それを経営の根幹に据える経営手法です。単に利益を追求するだけでなく、社会にどのような価値を提供し、どのような貢献を果たすのかを言語化し、組織全体で共有することで、企業の活動に一貫性と方向性をもたらします。

     

    このパーパスは、単なるスローガンや企業理念とは一線を画します。次によく混同される言葉を整理します。

    • Purpose (存在意義)・・・・・なぜ我々は存在するのか? (最上位の概念)
    • Vision (目指す姿)・・・・・・Purposeを実現した結果、どのような世界を作りたいか?
    • Mission (使命)・・・・・・・Visionを実現するために、何をすべきか?
    • Value (価値観・行動指針)・・Missionを遂行する上で、何を大切にするか?

     

    一般的に「パーパス」が企業の根本的な存在意義を示す最上位の概念であり、それを基に未来の理想像である「ビジョン」、具体的な使命である「ミッション」、日々の行動指針である「バリュー」が定められます。スローガンが一時的なメッセージであるのに対し、パーパスは企業の普遍的な存在理由であり、どんな事業を展開しようとも揺るがないものです。また、企業理念が経営者の哲学や信条を表すことが多いのに対し、パーパスはより広範なステークホルダー(顧客、社員、取引先、社会など)との関係性の中で企業が果たすべき役割を示唆します。

     

    パーパス経営において最も重要なのは、このパーパスが単なる飾りではなく、日々の意思決定や行動の指針として機能することです。例えば、新規事業の立ち上げ、製品開発、人材育成、マーケティング戦略など、あらゆる企業活動において「この行動は私たちのパーパスに合致しているか?」という問いが常に問われます。これにより、社員一人ひとりが自分の仕事の意義を理解し、企業全体の目標達成に向けて自律的に行動できるようになります。

     

    パーパス経営にはいくつかの誤解も存在します。一つは、「社会貢献ばかりで利益が出ない」という誤解です。パーパス経営は慈善事業ではありません。むしろ、明確なパーパスを持つことで、顧客や社会からの信頼を獲得し、結果として持続的な収益向上に繋がるという考え方です。例えば、環境に配慮した製品開発は、顧客からの共感を呼び、ブランド価値を高める可能性があります。

     

    もう一つの誤解は、「パーパスは大手企業だけのもので、中小企業には関係ない」というものです。企業の規模に関わらず、すべての企業にはその存在意義があります。中小企業こそ、地域社会との繋がりや独自の強みを活かしたパーパスを持つことで、大手企業との差別化を図り、ニッチな市場で確固たる地位を築くことが可能です。パーパス経営は、企業の規模を問わず、すべての企業が持続的に成長するための羅針盤となり得るのです。

     

    2.  なぜ今、パーパス経営が重要なのか?、多角的な視点からの考察

    現代においてパーパス経営がこれほどまでに注目されるのは、企業を取り巻く環境が大きく変化し、従来の経営手法では対応しきれない課題が山積しているためです。例えば、アウトドア用品メーカーのパタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスを掲げています。このパーパスは、リサイクル素材の積極利用や売上の一部を環境保護団体へ寄付する「1% for the Planet」といった具体的な活動に直結しており、環境意識の高い消費者から絶大な支持を得ています。日本企業では、ソニーグループが「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げ、エンタテインメントからエレクトロニクスまで多岐にわたる事業の根幹に据えています。次に、多角的な視点からその重要性を考察します。

     

    第一に、「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」への適応が挙げられます。グローバル化、テクノロジーの急速な進展、予期せぬパンデミックなど、未来の予測が困難な現代において、企業は柔軟かつ迅速な意思決定が求められます。明確なパーパスは、不確実な状況下でも組織全体が進むべき方向を見失わず、ぶれることなく意思決定を行うための羅針盤となります。パーパスという普遍的な軸があることで、変化の波に流されることなく、本質的な価値創造に集中できるのです。

     

    第二に、ステークホルダーからの期待の変化があります。現代の消費者は、単に製品やサービスの品質や価格だけでなく、企業がどのような価値観を持ち、社会にどのような影響を与えているのかにも関心を持つようになりました。環境問題、社会貢献、人権尊重といったテーマは、企業を選ぶ際の重要な要素となっています。パーパスを明確に打ち出し、それを実践する企業は、消費者からの共感や信頼を得やすくなり、結果としてブランドロイヤルテ...

    パーパス経営とは?社員を惹きつけ、顧客を繋ぐパーパス経営をわかりやすく解説

    【目次】

      現代のビジネス環境は、目まぐるしい変化の渦中にあります。テクノロジーの進化、社会課題の複雑化、そして人々の価値観の多様化は、企業経営に新たな視点とアプローチを求めています。かつては利益追求が企業の至上命題とされてきましたが、今やそれだけでは持続的な成長は困難になりつつあります。こうした中で注目を集めているのが、「パーパス経営」という考え方です。パーパス経営とは、単なる経済的合理性を超え、企業が社会に存在する意義、つまり「存在目的(パーパス)」を明確にし、それを経営の軸に据えることを指します。このパーパスを羅針盤とすることで、社員のエンゲージメントを高め、顧客との強固な信頼関係を築き、最終的には企業価値の向上と社会貢献の両立を目指すのがパーパス経営の核心です。今回は、このパーパス経営の概念から重要性、実践方法、課題、そして未来までを分かりやすく解説していきます。

       

      1.  パーパス経営とは? 企業理念との違いや誤解されがちな点を解説

      パーパス経営とは、企業が「何のために存在するのか」という根本的な問いに対する答え、すなわち企業の存在意義(パーパス)を明確にし、それを経営の根幹に据える経営手法です。単に利益を追求するだけでなく、社会にどのような価値を提供し、どのような貢献を果たすのかを言語化し、組織全体で共有することで、企業の活動に一貫性と方向性をもたらします。

       

      このパーパスは、単なるスローガンや企業理念とは一線を画します。次によく混同される言葉を整理します。

      • Purpose (存在意義)・・・・・なぜ我々は存在するのか? (最上位の概念)
      • Vision (目指す姿)・・・・・・Purposeを実現した結果、どのような世界を作りたいか?
      • Mission (使命)・・・・・・・Visionを実現するために、何をすべきか?
      • Value (価値観・行動指針)・・Missionを遂行する上で、何を大切にするか?

       

      一般的に「パーパス」が企業の根本的な存在意義を示す最上位の概念であり、それを基に未来の理想像である「ビジョン」、具体的な使命である「ミッション」、日々の行動指針である「バリュー」が定められます。スローガンが一時的なメッセージであるのに対し、パーパスは企業の普遍的な存在理由であり、どんな事業を展開しようとも揺るがないものです。また、企業理念が経営者の哲学や信条を表すことが多いのに対し、パーパスはより広範なステークホルダー(顧客、社員、取引先、社会など)との関係性の中で企業が果たすべき役割を示唆します。

       

      パーパス経営において最も重要なのは、このパーパスが単なる飾りではなく、日々の意思決定や行動の指針として機能することです。例えば、新規事業の立ち上げ、製品開発、人材育成、マーケティング戦略など、あらゆる企業活動において「この行動は私たちのパーパスに合致しているか?」という問いが常に問われます。これにより、社員一人ひとりが自分の仕事の意義を理解し、企業全体の目標達成に向けて自律的に行動できるようになります。

       

      パーパス経営にはいくつかの誤解も存在します。一つは、「社会貢献ばかりで利益が出ない」という誤解です。パーパス経営は慈善事業ではありません。むしろ、明確なパーパスを持つことで、顧客や社会からの信頼を獲得し、結果として持続的な収益向上に繋がるという考え方です。例えば、環境に配慮した製品開発は、顧客からの共感を呼び、ブランド価値を高める可能性があります。

       

      もう一つの誤解は、「パーパスは大手企業だけのもので、中小企業には関係ない」というものです。企業の規模に関わらず、すべての企業にはその存在意義があります。中小企業こそ、地域社会との繋がりや独自の強みを活かしたパーパスを持つことで、大手企業との差別化を図り、ニッチな市場で確固たる地位を築くことが可能です。パーパス経営は、企業の規模を問わず、すべての企業が持続的に成長するための羅針盤となり得るのです。

       

      2.  なぜ今、パーパス経営が重要なのか?、多角的な視点からの考察

      現代においてパーパス経営がこれほどまでに注目されるのは、企業を取り巻く環境が大きく変化し、従来の経営手法では対応しきれない課題が山積しているためです。例えば、アウトドア用品メーカーのパタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスを掲げています。このパーパスは、リサイクル素材の積極利用や売上の一部を環境保護団体へ寄付する「1% for the Planet」といった具体的な活動に直結しており、環境意識の高い消費者から絶大な支持を得ています。日本企業では、ソニーグループが「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げ、エンタテインメントからエレクトロニクスまで多岐にわたる事業の根幹に据えています。次に、多角的な視点からその重要性を考察します。

       

      第一に、「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」への適応が挙げられます。グローバル化、テクノロジーの急速な進展、予期せぬパンデミックなど、未来の予測が困難な現代において、企業は柔軟かつ迅速な意思決定が求められます。明確なパーパスは、不確実な状況下でも組織全体が進むべき方向を見失わず、ぶれることなく意思決定を行うための羅針盤となります。パーパスという普遍的な軸があることで、変化の波に流されることなく、本質的な価値創造に集中できるのです。

       

      第二に、ステークホルダーからの期待の変化があります。現代の消費者は、単に製品やサービスの品質や価格だけでなく、企業がどのような価値観を持ち、社会にどのような影響を与えているのかにも関心を持つようになりました。環境問題、社会貢献、人権尊重といったテーマは、企業を選ぶ際の重要な要素となっています。パーパスを明確に打ち出し、それを実践する企業は、消費者からの共感や信頼を得やすくなり、結果としてブランドロイヤルティの向上に繋がります。また、投資家もESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点から、企業のパーパスや社会貢献性を重視する傾向にあります。

       

      第三に、人材獲得と定着における優位性です。特にミレニアル世代やZ世代といった若い世代は、仕事に「やりがい」や「社会貢献性」を強く求める傾向があります。実際に、デロイト トーマツ グループの「ミレニアル・Z世代年次調査2023」によれば、生活費が最大の関心事である一方で、多くの若者が自身の価値観に合わない仕事や組織を拒否する傾向にあることが示されています。給与や福利厚生だけでなく、自身の働く企業が社会に対してどのような意義を持っているのかを重視します。明確なパーパスを持ち、それを組織全体で共有している企業は、優秀な人材を引きつけ、彼らのエンゲージメントを高めることができます。社員が自身の仕事がパーパス達成に貢献していると感じることで、モチベーションが向上し、離職率の低下にも繋がります。

       

      第四に、イノベーションの促進です。パーパスは、既存の枠組みにとらわれない新たな発想を生み出す源泉となります。企業が解決すべき社会課題や提供すべき価値が明確になることで、社員は自らの業務を通じてどのように貢献できるかを考え、部門横断的な協力や異分野との連携が促進されます。これは、新たな製品やサービスの開発、ビジネスモデルの変革といったイノベーションに繋がり、企業の競争優位性を高めることに貢献します。

       

      最後に、持続可能性の確保です。短期的な利益追求だけでは、環境破壊や社会格差の拡大といった問題を引き起こし、企業の存続そのものが危ぶまれる可能性があります。パーパス経営は、企業が社会の一員として、長期的な視点で社会全体の持続可能性に貢献することを促します。これは、企業が社会から受け入れられ、長期的に存続するための不可欠な要素となります。

       

      3.  パーパス経営の実践、成功へのロードマップ

      パーパス経営を単なる理念に終わらせず、具体的な成果に繋げるためには、戦略的かつ着実な実践が不可欠です。以下に、成功へのロードマップを示します。

       

      (1)パーパスの策定

      これはパーパス経営の出発点であり、最も重要なプロセスの一つです。企業の歴史、強み、顧客からの期待、そして社会が抱える課題などを深く掘り下げ、企業が「何のために存在するのか」を徹底的に議論します。この際、経営層だけでなく、多様な部署の社員を巻き込み、オープンな対話を通じて全員が納得できる言葉として紡ぎ出すことが重要です。抽象的すぎず、かといって具体的すぎない、シンプルで心に響く言葉を目指します。例えば、ある企業は「地球をより持続可能な場所にする」というパーパスを掲げ、環境配慮型製品の開発やサプライチェーンの見直しを行っています。

       

      (2)パーパスの浸透と共有

      策定したパーパスが経営陣だけのものになっていては意味がありません。全社員がパーパスを理解し、自身の仕事と結びつけて考えられるように、継続的な取り組みが必要です。社内研修、ワークショップ、社内報での発信、経営者からのメッセージ発信などを通じて、パーパスの意義と重要性を繰り返し伝え、日々の業務に落とし込むための具体的な行動を促します。例えば、新入社員研修にパーパスに関するセッションを設けたり、部門ごとのミーティングでパーパスに基づいた目標設定を行ったりするなどの方法が考えられます。

       

      (3)パーパスに基づいた戦略と施策への落とし込み

      パーパスは単なる精神論ではなく、具体的な経営戦略や事業活動に反映されてこそ真価を発揮します。製品開発、マーケティング、人材育成、組織文化など、あらゆる側面でパーパスを羅針盤として意思決定を行います。例えば、パーパスが「人々の健康寿命を延ばす」であれば、健康促進に繋がる新サービスの開発や、社員の健康増進施策の強化などが具体策として挙げられます。投資判断においても、パーパスとの合致度を重要な基準とすることで、一貫性のある企業活動が可能になります。

       

      (4)パーパスを体現する組織文化の醸成

      社員がパーパスを自分事として捉え、自律的に行動するためには、パーパスを尊重し、それを奨励する企業文化が不可欠です。透明性の高いコミュニケーション、社員の挑戦を後押しする制度、失敗を恐れずに学びを促す環境などが求められます。リーダーは率先してパーパスを体現し、社員の模範となる必要があります。社員がパーパスに基づいた行動をとった際に、それを評価し、称賛する仕組みも有効です。

       

      (5)パーパス経営の定期的な見直しと改善

      パーパスは普遍的なものですが、それを実現するためのアプローチや具体的な施策は、社会の変化に合わせて見直していく必要があります。定期的にパーパス経営の進捗状況を評価し、社員や顧客からのフィードバックを取り入れながら、より効果的な実践方法を模索していきます。この継続的な改善のサイクルが、パーパス経営をより深く組織に根付かせ、持続的な成長へと導きます。

       

      4.  パーパス経営における課題と克服策

      パーパス経営は多くのメリットをもたらしますが、その実践は決して容易ではありません。いくつかの課題が存在し、それらを克服するための具体的な戦略が求められます。

       

      (1)パーパス・ウォッシュ(Purpose Wash)という課題

      第一の課題は、パーパスが形骸化し、実態が伴わないまま対外的なアピールにのみ利用される「パーパス・ウォッシュ」 と呼ばれる状態に陥ることです。これは、SDGsウォッシュと同様に、企業の評判を著しく損なうリスクを孕んでいます。社員がパーパスを「経営陣の綺麗事」と捉えてしまい、自分事として捉えられないことが原因です。この克服策としては、まずパーパス策定プロセスに多様な社員を巻き込み、「自分たちのパーパス」であるという当事者意識を醸成することが重要です。また、定期的な社内コミュニケーションを通じてパーパスの重要性を伝え続けるとともに、パーパスに基づいた具体的な行動を評価する人事制度や、表彰制度などを導入し、パーパスと行動を結びつけるインセンティブを与えることが有効です。

       

      (2)パーパスと利益のバランス

      第二の課題は、パーパスと利益のバランスです。パーパス経営は社会貢献を重視しますが、企業は営利組織である以上、利益を確保しなければ存続できません。「パーパスを追求すると利益が損なわれるのではないか」という懸念が生じることもあります。この克服策としては、パーパスを利益創造の源泉として捉える視点が重要です。例えば、環境に配慮した製品は、SDGsへの意識が高い顧客層からの支持を得て、新たな市場を開拓する可能性があります。また、パーパスに基づいた製品・サービスは、競合との差別化要因となり、価格競争ではない付加価値を生み出します。短期的視点だけでなく、長期的な視点でパーパスがもたらす企業価値向上を経営陣が明確に認識し、コミットすることが不可欠です。

       

      (3)社員の意識変革と行動への落とし込み

      第三の課題は、社員の意識変革と行動への落とし込みです。長年培われてきた組織文化や個人の思考パターンを変えることは容易ではありません。社員がパーパスを理解しても、実際の行動に繋がらないことがあります。これに対する克服策は、具体的な事例共有とロールモデルの提示です。パーパスを体現している社員の事例を積極的に共有し、その行動がどのようにパーパスに貢献しているかを明確に示します。また、リーダーシップ層が率先してパーパスを体現し、その行動を社員に示すことで、社員もそれに倣うようになります。さらに、パーパスに基づいた行動を促すための継続的な研修やワークショップを通じて、社員一人ひとりが自分の業務とパーパスを結びつける具体的な方法を学ぶ機会を提供することが重要です。

       

      (4)パーパス経営の効果測定の難しさ

      第四の課題は、パーパス経営の効果測定の難しさです。パーパス経営は定性的な要素が多く、その効果を数値で測ることが難しいと感じる企業も少なくありません。この克服策としては、パーパスに関連する具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することです。例えば、以下のような多面的なKPIを設定し、定期的に測定することが有効です。

      • 従業員関連・・・・・ エンゲージメントスコア、eNPS、リファラル採用率、離職率
      • 顧客関連・・・・・・ NPS® (ネット・プロモーター・スコア)、顧客生涯価値 (LTV)、ブランドイメージ調査結果
      • 社会・環境関連・・・ CO2排出削減量、ダイバーシティ比率、サプライヤーのサステナビリティ評価スコア
      • 財務関連・・・・・・ ESG投資評価、非財務情報開示の充実度、パーパスに合致した製品・サービスの売上比率

       

      これにより、経営陣も具体的なデータに基づいて意思決定を行えるようになり、パーパス経営への投資効果を明確にすることができます。これらの課題を克服するためには、経営層の強いリーダーシップとコミットメント、そして全社員を巻き込んだ継続的な努力が不可欠です。パーパス経営は一朝一夕に成し遂げられるものではなく、時間をかけて組織全体で育てていく長期的な取り組みなのです。

       

      5.  パーパス経営が拓く未来―持続可能な社会への貢献

      パーパス経営は、単に企業の競争力を高めるだけでなく、より広範な視点から持続可能な社会の実現に大きく貢献する可能性を秘めています。企業が自社の存在意義を明確にし、社会課題の解決に積極的に取り組むことで、未来をより豊かにする原動力となるのです。

       

      パーパス経営は社会課題解決への貢献を加速させます。企業のパーパスが社会的な意義を持つことで、事業活動そのものが社会課題解決に直結するようになります。例えば、「すべての人に質の高い教育を」というパーパスを持つ企業は、教育格差の解消に向けたサービス開発や、学習機会の提供に注力するでしょう。これにより、個別の企業の取り組みが積み重なり、社会全体の課題解決に大きな影響を与えることが期待されます。これは、従来のCSR(企業の社会的責任)活動が、主に本業で得た利益の一部を社会に還元するという考え方であったのに対し、パーパス経営は事業活動そのものを通じて社会課題を解決しようとするCSV(Creating Shared Value / 共通価値の創造)の考え方と親和性が高いと言えます。

       

      次に、新たな価値創造とイノベーションを促進します。パーパスを軸にすることで、企業は既存のビジネスモデルや製品・サービスの枠を超えた発想を持つことができます。社会課題解決を目的としたイノベーションは、これまでになかった市場やニーズを掘り起こし、持続的な成長の機会を生み出します。例えば、環境保護をパーパスとする企業が、リサイクル素材を用いた新製品開発や、廃棄物を削減する新たな生産プロセスを導入することで、持続可能性と経済性を両立させることができます。

       

      さらに、パーパス経営はステークホルダーとの協創関係を強化します。企業が明確なパーパスを持つことで、顧客、従業員、取引先、地域社会、そして競合他社まで含めた多様なステークホルダーとの間で、共通の価値観や目標を共有しやすくなります。これにより、単なる取引関係を超えた、より深い信頼と協働の関係が築かれます。例えば、同じパーパスを持つ企業同士が連携することで、個社では解決が難しい複雑な社会課題に対しても、より効果的なアプローチが可能になります。このような協創は、社会全体のレジリエンス(回復力)を高めることにも繋がります。

       

      また、資本市場からの評価向上も期待できます。ESG投資の拡大に見られるように、投資家は企業の財務情報だけでなく、その社会的・環境的責任を果たす姿勢を重視するようになっています。明確なパーパスを持ち、それを実践している企業は、長期的な成長性やリスク耐性が高いと評価され、より多くの投資を引きつけることができます。これは、企業が持続的に事業を拡大し、さらなる社会貢献を実現するための重要な要素となります。

       

      このように、パーパス経営は、企業の経済的成功と社会貢献を両立させることで、未来の社会をより豊かで持続可能なものに変えていくための強力な推進力となります。企業が個々の利益追求だけでなく、社会の一員としての役割を自覚し、その存在意義を最大限に発揮していくことで、私たちはより良い未来を築いていけるはずです。

       

      6.  まとめ

      パーパス経営とは、企業が自らの「存在目的(パーパス)」を明確にし、それを経営の軸とすることで、社員のエンゲージメントを高め、顧客との強固な関係を築き、持続的な企業成長と社会貢献の両立を目指すものです。VUCAの時代における羅針盤となり、ステークホルダーからの期待に応え、優秀な人材を引きつけ、イノベーションを促進する上で、パーパス経営の重要性はますます高まっています。その実践には、パーパスの策定、浸透、戦略への落とし込み、組織文化の醸成、そして継続的な見直しが不可欠です。形骸化や利益とのバランス、社員の意識変革といった課題は存在しますが、これらは適切な戦略と強いリーダーシップによって克服可能です。パーパス経営は、企業が社会の課題解決に貢献し、新たな価値を創造し、ステークホルダーとの協創を深めることで、より豊かで持続可能な社会の実現に大きく寄与する可能性を秘めています。単なる流行に終わらせることなく、企業がその本質的な存在意義を追求し続けることで、私たちは未来に向けて、より良い社会を共に築いていけることでしょう。

       

       

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      この記事の著者

      鈴木 崇司

      IoT機構設計コンサルタント ~一気通貫:企画から設計・開発、そして品質管理、製造まで一貫した開発を~

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