1. SMR(小型モジュール炉)とは何か?
SMR(Small Modular Reactor)、すなわち小型モジュール炉は、従来の大型原子力発電所とは一線を画す、革新的な原子力発電技術です。その名の通り「小型」で「モジュール化」されている点が最大の特徴であり、出力は30万kW以下と定義されています。工場で主要なコンポーネントを製造し、建設現場で組み立てるというモジュール化された手法は、建設期間の短縮、コストの削減、そして品質の均一化を可能にします。さらに、その小型さゆえに広大な敷地を必要とせず、多様な場所への設置が可能となる点も注目されています。
【なぜ今、SMRが注目されるのか?】
SMRへの期待が高まっている背景には、地球規模でのエネルギー問題と気候変動への危機感があります。脱炭素社会の実現に向け再生可能エネルギーの導入が加速する一方で、電力供給の安定性という課題も浮上しています。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、天候に左右されやすく、安定したベースロード電源としての役割を果たすには限界があると言われています。
SMRは、この課題に対する解決策のひとつとして考えられています。従来の大型原発と同様に二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源でありながら、より高い安全性、柔軟な運用性、そして経済性を兼ね備えることで、エネルギーミックスにおける重要な選択肢となり得るのです。
2. SMR開発の世界的動向:競争と協力の時代
SMRの開発は、世界各国で熾烈な競争と同時に活発な国際協力が行われています。特に米国、中国、ロシア、英国、カナダなどが開発をリードしており、それぞれ異なる設計思想や技術的アプローチを採用しています。
【米国】多様な炉型と積極的な政策支援
米国はSMR開発の牽引役の一つであり、政府からの強力な支援を受けて、複数の企業が多様な炉型の開発を進めています。代表的なものとしては、ニュースケール・パワー社が開発するPWR(加圧水型軽水炉)「NuScale Power Module(NPM)」が挙げられます。この設計は2022年に米国原子力規制委員会(NRC)から世界で初めて設計認証を取得し、大きな注目を集めました。
しかし、その後の商業化への道のりは平坦ではありません。 2023年11月、同社の技術を採用する最初の商業プロジェクトとして期待されていたアイダホ州のCFPP(無炭素電力プロジェクト)が、建設コストの高騰などを理由に中止となりました。この出来事は、SMRが直面する経済的な課題を浮き彫りにした象徴的な事例と言えます。とはいえ、ニュースケール社はウクライナやルーマニアなど東欧諸国での展開を目指しており、米国のSMR開発を牽引する存在であることに変わりはありません。
またテラパワー社が開発を進めるナトリウム冷却高速炉「Natrium」は、溶融塩貯蔵システムを併設することで、再生可能エネルギーとの連携や電力系統の安定化に貢献することが期待されています。その他、高温ガス炉や溶融塩炉など、革新的な炉型の開発も活発です。米国エネルギー省(DOE)は、SMRの実証プロジェクトに対する資金援助や技術支援を積極的に行っており、SMR産業の育成に国家として取り組んでいます。
【中国】国産技術の確立と迅速な導入
中国は独自の技術開発に基づいたSMRの導入に積極的です。中国核工業集団(CNNC)が開発する「ACP100(玲竜一号)」は、加圧水型軽水炉をベースとしたSMRで、すでに海南省昌江原子力発電所で建設が進められています。これは、世界で初めて商業運転に向けた建設が開始されたSMRとして注目を集めています。中国は、国内のエネルギー需要の高まりに対応するためSMRの迅速な導入を目指しており、その建設ペースは目覚ましいものがあります。
【ロシア】浮体式原子力発電所の導入と輸出戦略
ロシアは小型化・モジュール化技術をいち早く実用化した国の一つです。すでに浮体式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ号」を建造し、北極圏の僻地での電力供給に活用しています。これはS...