普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その171) 動物を深く知る

 

【目次】

これまでアナロジーと体感についての解説を行い「アナロジーは新しい思考空間へのドア/体感は新しい思考空間で発想を多いに広げるツール」と述べました。しかし、それまで体感を経由して得た経験・知識を活用して新しい思考空間で発想を広げる機会は、アナロジーだけではないように思えます。アナロジーを含めて体感を活用して「思考の扉を増やす」様々な機会について考えています。

 

この連載のその168からイノベーションを起こすために、動物や生き物について知ることが役に立つという解説をしています。今回も、どうしたら動物を深く知ることができるかについて、解説を続けます。

 

1. 虫の目、鳥の目を他の生物に拡張してみる

私は大学の講義の中で、事業環境を「虫の目」すなわち精密・緻密な視点で、また「鳥の目」すなわち広い俯瞰的な視点で見ることの重要性などを話してきました。しかし、良くよく考えて見ると、動物やさらには生物には様々な種類が存在する訳で、それらはそれぞれの異なる視点や世界を持っていると思われます。空中で生きる生物、陸上で生きる生物、水中で生きる生物はまったく異なる環境で生きているので、違う視点を持っている筈です。

 

シマウマとライオンは、食べられる者と食べる者とは、違う世界で生きていくための違う視点を持っている筈です。ですので、様々な生物の視点でものを見ようとすれば、人間という生物の中の一種類にすぎない者の視点に比べて、遥かに多様な視点を持てるのではないかと思います。

 

2. 生物の視点を持つには:実際に生物になる

前回のその170の記事の中で、生物・動物を深く知るための活動を議論しましたが、生物・動物を深く知るための究極の方法がそれら生物になるということです。フランツ・カフカの小説に「変身」があります。この小説は、主人公がある朝目覚めると自分が昆虫になっていることを知り、その経験を通じて周りの人間との関係を語るというものです。しかし、人間は「変身」の主人公のように、実際には生物や動物にはなれません。

 

3. どうしたら実質的に生物になれるのか?

それではどうしたら良いのでしょうか。

 

それは自分がある具体的な生物になったと仮定(妄想!)して、それらの生きる環境、もしくは類似の環境に身を置き、実際に活動や思考(生物として)してみることでではないかと思います。もちろん完璧な環境に身を置くことは、不可能です。しかし、ある程度であれば、やってやれないことはないと思います。

 

たとえば、馬や象に乗って、それら動物の視点を経験してみる。その高さを考えてみるだけで、これら動物は人間とはずいぶん違う世界を見ていることがわかります。その他、ダチョウに乗ることができる場所も、インターネット検索してみると、かなりあるようです。

 

さらには、より深い経験をする方法もあります。魚の経験をするには、実際に海の中にもぐり、周りの魚と一緒に戯れ、自分が魚やイルカになったと想像してみる。ハンググライダーに乗って、もしくはバーチャルリアリティを利用した環境を使って(私はバーチャルに空中での飛翔を経験する設備を経験したことがあります)、空を飛ぶ鳥を経験する。地下の土の中に掘られたトンネルを実際に歩く、もしくは這って(ホーチミン市の郊外に、ベトナム戦争中にベトコンが堀ったトンネルが公開されています)、モグラやアリを体験する。

 

ここで重要なことが、それらの経験をその場だけの経験とはせず、その経験を強烈な体験として頭...

の中に刷り込み、その後遭遇する様々な環境の中で、そのような視点を思いだし、その環境をそのような視点から観察してみることです。

 

4. 企業や研究機関の場合には、対象の生物になれる環境を作ってみる。

口頭無形のように思われるかもしれませんが、ある生物や動物と密接な関係のある事業(たとえばペット関連事業)を展開している企業であれば、それら動物や生物を「自分自身その動物や生物になった」体験のできる施設やバーチャルな場を、研究者やその他社員向けに作るということもあるように思えます。

 

次回に続きます。

 

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