信頼性テストは卒業試験 -品質工学の考え方-

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 新製品開発の際に行われる信頼性テストは、ちょうど卒業試験のようなものです。日本の大学は「入学は難しいが、卒業は易しい」のでピンと来ないかもしれませんが、米国のように「入学は易しいが、卒業は大変」な大学制度を考えれば、卒業試験の意味は明確です。

 学生が卒業後十分に活躍できるかどうかを予測するには、どのようなテスト問題で学生の実力を評価すればいいでしょうか。これから社会に出て行けば様々な状況に遭遇する可能性があるわけで、テキストの知識を単に暗記していただけでは役に立たないことは明白です。したがって、卒業試験の問題も暗記の量や正確さを試すのでなく、理解度つまり応用力を試す問題のほうが良いでしょう。卒業後、予想もしない事態に遭遇しても、基本原理に沿った合理的な判断が柔軟に出来る学生だけが、卒業資格を獲得して欲しいわけです。

 新製品の評価でも、同様の考え方が出来ます。新製品が今後量産されて市場に出て行けば、開発中に想定していない様々な状況にも遭遇します。その場合でも、従来機や競合機以上の稼動品質を維持できるかどうかは、標準テスト条件だけの確認で判断できるでしょうか。普通行われている数種類の標準テスト条件で規格値を満足しているかどうかを見るのは、暗記度を試すテスト問題に相当するように思えます。少なくとも理解度、応用力を試す問題とは言えません。

 では新製品で理解度、応用力を試す問題に相当する評価方法とはどんなものでしょう。市場で起こり得るすべての状況を確認するわけにはいきませんが、出来るだけいろいろな状況を想定し、その様々な状況で狙った機能を発揮できることが試される方法が期待されます。

 さて卒業試験(信頼性テスト)が以上のような方法で行われるなら、それに備える勉強(技術開発や製品設計)はどういう方法で行えばいいでしょうか。もちろん丸暗記は役に立ちません。勉強方法を変える必要があります。記憶力ではなく思考力を養うことを重点にするわけですから、様々な課題に取り組みそれを解いていく過程で思考力をつけていくやり方になるはずです。アメリカのビジネススクールで、ケーススタディ授業を多用し重視する理由と同じです。使用条件や環境条件での稼動品質が総合的に優れていれば、平均的な市場品質も優れていると考えてはどうでしょう。つまり実力が高いと判断するわけです。この場合、規格値は問題にしません。商品企画で想定した使い方以外の状況も起こりえるのですから、規格値を満足しなくても従来機や競合機より優れていればOKです。反対に規格内であっても従来機や競合機より劣れば、悪い評価になるのはもちろんです。つまり目標に達しているかどうかの絶対評価でなく、実力(性能)がどの程度あるかの相対評価です。記憶度ではなく理解度を評価するのは、現物の○×検査でなく、どれだけ素性のいい技術かを見極めることではないでしょうか。素性のいい技術とは、意地悪テストにも動じない技術と考えられるからです。 

 では技術開発や製品設計の場合の、ケーススタディに相当する方法は何でしょうか。記憶力は事前に与えられた情報に如何に正しく反応できるかです。それに対して思考力は、めったに起こりそうもない場合も含めて様々なケースに基本的な反応が正しく出来るかです。応用力を試すわけです。様々な使い方や環境条件でも狙いの性能を維持できるようにするには、設計自体の余裕度(マージン)または頑強度(ロバストネス)が重要です。したがって開発設計時は、どのような設計なら使用条件が変わった場合でも性能が維持されるかを評価する必要があります。つまり意地悪条件によるマージン評価(またはロバストネス評価)がケーススタディに相当す...

 新製品開発の際に行われる信頼性テストは、ちょうど卒業試験のようなものです。日本の大学は「入学は難しいが、卒業は易しい」のでピンと来ないかもしれませんが、米国のように「入学は易しいが、卒業は大変」な大学制度を考えれば、卒業試験の意味は明確です。

 学生が卒業後十分に活躍できるかどうかを予測するには、どのようなテスト問題で学生の実力を評価すればいいでしょうか。これから社会に出て行けば様々な状況に遭遇する可能性があるわけで、テキストの知識を単に暗記していただけでは役に立たないことは明白です。したがって、卒業試験の問題も暗記の量や正確さを試すのでなく、理解度つまり応用力を試す問題のほうが良いでしょう。卒業後、予想もしない事態に遭遇しても、基本原理に沿った合理的な判断が柔軟に出来る学生だけが、卒業資格を獲得して欲しいわけです。

 新製品の評価でも、同様の考え方が出来ます。新製品が今後量産されて市場に出て行けば、開発中に想定していない様々な状況にも遭遇します。その場合でも、従来機や競合機以上の稼動品質を維持できるかどうかは、標準テスト条件だけの確認で判断できるでしょうか。普通行われている数種類の標準テスト条件で規格値を満足しているかどうかを見るのは、暗記度を試すテスト問題に相当するように思えます。少なくとも理解度、応用力を試す問題とは言えません。

 では新製品で理解度、応用力を試す問題に相当する評価方法とはどんなものでしょう。市場で起こり得るすべての状況を確認するわけにはいきませんが、出来るだけいろいろな状況を想定し、その様々な状況で狙った機能を発揮できることが試される方法が期待されます。

 さて卒業試験(信頼性テスト)が以上のような方法で行われるなら、それに備える勉強(技術開発や製品設計)はどういう方法で行えばいいでしょうか。もちろん丸暗記は役に立ちません。勉強方法を変える必要があります。記憶力ではなく思考力を養うことを重点にするわけですから、様々な課題に取り組みそれを解いていく過程で思考力をつけていくやり方になるはずです。アメリカのビジネススクールで、ケーススタディ授業を多用し重視する理由と同じです。使用条件や環境条件での稼動品質が総合的に優れていれば、平均的な市場品質も優れていると考えてはどうでしょう。つまり実力が高いと判断するわけです。この場合、規格値は問題にしません。商品企画で想定した使い方以外の状況も起こりえるのですから、規格値を満足しなくても従来機や競合機より優れていればOKです。反対に規格内であっても従来機や競合機より劣れば、悪い評価になるのはもちろんです。つまり目標に達しているかどうかの絶対評価でなく、実力(性能)がどの程度あるかの相対評価です。記憶度ではなく理解度を評価するのは、現物の○×検査でなく、どれだけ素性のいい技術かを見極めることではないでしょうか。素性のいい技術とは、意地悪テストにも動じない技術と考えられるからです。 

 では技術開発や製品設計の場合の、ケーススタディに相当する方法は何でしょうか。記憶力は事前に与えられた情報に如何に正しく反応できるかです。それに対して思考力は、めったに起こりそうもない場合も含めて様々なケースに基本的な反応が正しく出来るかです。応用力を試すわけです。様々な使い方や環境条件でも狙いの性能を維持できるようにするには、設計自体の余裕度(マージン)または頑強度(ロバストネス)が重要です。したがって開発設計時は、どのような設計なら使用条件が変わった場合でも性能が維持されるかを評価する必要があります。つまり意地悪条件によるマージン評価(またはロバストネス評価)がケーススタディに相当すると考えられるでしょう。 

 従来は標準条件での機能の高さを重視しがちでしたが、ピンポイントの最適条件でのチャンピオンデータは、生産時の安定性や市場品質の信頼性を考えると実用的価値がありません。過去の実績を表現しているだけです。そうではなく将来、使用条件や環境条件の変動ばかりでなく、劣化で設計パラメーターが変動しても、機能の変化が少なく安定している設計がよい設計であり高性能の技術です。実績でなく能力を表現しなくてはいけません。設計試作品を余裕度で評価し、信頼性試験でも市場の様々な条件を十分考慮するのが、開発設計の効率化であると主張しているのが品質工学の考え方です。

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この記事の著者

長谷部 光雄

学問追求ではない品質工学、実践に役立つ品質工学を目指しています

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