生産材メーカーサプライチェーンの機会と脅威

 サプライチェーン上のポジショニングで見ることにより、金型・工具・工作機械など生産財メーカーの製品は、どのようにビジネスの機会が広がるでしょう? 

 生産財製品の二つの特徴をとりあげてみましょう。

 第一点目は、加工対象とする素材から部品、完成品への付加価値連鎖(バリューチェーン)の一部を生産財が担うことがあげられます。それぞれの業務(オペレーション)を司る経営資源として人的資源とともに、生産財はサプライチェーン上で連鎖しています。

 第二点目は、生産財そのものを製品とするサプライチェーンです。

 

図1.経営資源としてのサプライチェーン・リソース

 興味あるアプローチとして、この第一の視点で探索する対象を生産財メーカーの事業機会にセットすることができます。顧客満足の視点からサプライチェーンを再構成することが、事業戦略的に重要なのです。

 ソリューションへの展開として考えられることの1つに、連鎖する業務の燐接する業務を巻き込むインテグレーションがあります。隣の業務を含んだ「複合業務」としての生産財への展開といった可能性を考えられないでしょうか。これは、顧客満足視点による事業機会の拡大であり、ポイント・ソリューションからライン・ソリューションへの展開なのです。金型交換のシステム製品に加え、顧客の複数製品混合ラインでの金型交換などの段取り替え時間短縮のために特化した金型の組み合わせなどが、金型メーカーにとっての展開として考えられます。人的資源としてのみでなく機械・工具・設備全体へと、多能工が複数の業務連鎖を担当していくアイデアも提案できます。サプライチェーンのストックポイント削減に向け、業務連鎖の統合は顧客に大きく貢献します。工程ごとの稼働率を平準化し人数を削減し生産性を上げることだけではなく、多能工による複数の機械操作を可能にする利点は、ストックポイントのない流れ生産を一人で担当するところにあります。

 生産財メーカーが事業機会を広げるにあたり、この考え方は役に立ちます。製品のライフサイクルが短縮化している産業で、極めて重要なことは生産システムの柔軟性です。ほとんどの製造業にとってサプライチェーン課題としてあげられているものに、急速な需要の立ち上がり、製品ライフサイクル終焉のソフトランディングによる大量の陳腐化在庫の回避などがあります。

 周辺の産業に大きな再編成を促すことが予想される取り組みは、金型・工具・工作機械などの生産財メーカーが顧客のサプライチェーンを産業別にパターン化し、顧客視点に立った単純で柔軟な生産システムを提供する戦略にあるといえます。周辺の生産財メーカーにとっては、あるメーカーのサプライチェーン周辺への事業機会の広がりは脅威となります。サプライチェーン時代の大競争時代を予感させる要因は、ゲームのルールが突然変わって競争相手がどこに現れるか分からない状況に潜んでいるのです。 

 生産財そのもののサプライチェーンをとりあげるという第二の視点は、通常個別の一品生産を対象とします。

 金型や工作機械の製造原価は、人件費が5060%を占めるため、ソフトウェア製品や土建工事と同じコスト構造をもつ労働集約型の製品といえます。ですからサプライチェーンを流れるスピード、すなわちスループットを上げることが、金型などの製品の製造から販売までの経費を下げるもっとも重要な戦略です。スピードアップによって、人件費や設備費などが相対的に削減されます。例えば1か月50台生産から100台に増産することで、これらの固定費は半減されます。サプライチェーンの連鎖業務の同期化により在庫を削減することで、この速度の増大が可能です。必要なことは、在庫の多さがリードタイムを長くさせるので、在庫は付加価値のつかない滞留時間そのものであることへの理解です。

 労務費などの出費を伴う経費が在庫資産に変換され滞留している姿が、サプライチェーン上の業務間の仕掛在庫です。企業の収益力の格差は、仕掛かり在庫(または未成工事支出...

金)の回転スピードの差であり、工期の対競合上の優位差となります。以上は企業の経営体質の優劣に繋がり、運転資金上の制約の差となり、キャッシュフローのスピードに影響するわけです。時間ベースの市場競争に反映されインターネットなどによるグローバルな大競争時代の勝者と敗者を分けるものは、サプライチェーンを通過する時間短縮そのものであり、したがって生産財メーカーにとってコストを下げ運転資金を減らすにとどまらない意味を持つのです。

 サプライチェーンの視点から見た全体最適につながる熟練、ボトルネックを認識するアウトソーシングの巧みなプロジェクトマネジメントは、生産財メーカー製品の品質・技術力は当然ながら、大競争市場で事業機会を広げるでしょう。サプライチェーン時代のアジャイル(俊敏)な動きに遅れる企業は生き残りが困難になっていき、そして勝者はますます強くなっていくのではないでしょうか。

◆関連解説『サプライチェーンマネジメントとは』

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