:その意味と留意点   アウトソーシング(その1)

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【アウトソーシング、連載目次】

1. アウトソーシングの背景

 アウトソーシングとは外部の資源を活用し、コスト削減と本業への集中を可能とする仕組みのことです。その実態は業務委託として昔から行われてきたことであるにもかかわらず、アウトソーシングが今日脚光を浴びているのは、経営環境の変化でアウトソーシングが競争力強化の手段として、積極的な意義を持つようになってきているからです。

 すなわち、アウトソーシングが従来持っていた単なる業務の一部代行(請負)ではなく、戦略的な視点が加わりました。市場が安定的に成長し、需要が生産能力を上回る経営環境においては、何でも業務を自社内に抱え込むインソーシング(資源の内部化)が有効でした。戦後中小企業が大企業に成長した多くの事例は、多角化しインソーシングによって発展したといえます。

 しかし、市場が成長し不確実性の高い経営環境のもとでは、インソーシングは必ずしも有効といえなくなってきました。日本では、リーマン危機後景気低迷下で経営のリストラ策として、着実に増加しました。市場の成熟化、過剰生産能力、新興国の成長といった不確実性の高く変化の激しい経営環境のもとで企業が生き残るためには、俊敏性と機動性が重視されるようになり、アウトソーシングへと転換していったのです。

 例えば工場を持つとすると、そこには稼働率を高めるという至上命題が常に付きまとい、経営の自由度が成約されます。そこで外部の経営資源を活用することにより、活路を見出そうとするのです。

 要するに、企業がこれまで自社で保有することがあたり前としていた業務の一貫主義は崩壊しつつあり「餅は餅屋」にという諺(ことわざ)のように、自社のコアコンピタンスに特化し、他は外部資源に依存するという方向が強まっているのです。またこのようにアウトソーシングが進むのは、単に委託企業のニーズがあるからではなく「サービス経済化」が進み、それを担うことのできる受託企業が増えたことも見逃すことはできません。

2. メリットとデメリット

 アウトソーシングはコストを削減し、経営の機動性を高める上で大きな意義がありますが、その一方で専門性の欠如や機密漏洩(ろうえい)、従業員のモラール維持などへの対策が不可欠です。メリットを最大化し、デメリットを最小化する取り組みの検討が不可欠です。

(1)メリット

コスト削減

 専門性が高く信頼できる受託先にまかせることにより経費削減が図れます。業務の委託先のことを一般にアウトソーサと呼びます。特に人件費を中心とした固定費の削減メリットは顕著です。正社員の人件費は法定福利費や一時金等を含めると所定内給与の1.5倍程度かかるのが通常です。アウトソーサを活用することで、同じ業務を行う正社員と比較して固定費が削減できます。また、短期間の業務を正社員に代わりアウトソーサに任せることで、人件費を変動費化でき、その分経費を削減できます。

専門的知識の活用

 多くの場合、アウトソーサにまかせる方が自社の従業員でやるよりもサービスの品質が高いものです。アウトソーサはまさにその道のプロであり、業務品質の高さこそが売り物であるからです。業務品質の向上が実現できないアウトソーシングは単に業務を外部に出しただけであり、外注にすぎません。
 中小企業においては人材が質量ともに不足していることが恒常化していますが、業務品質の向上を狙ってアウトソーシングを活用することは、教育費や育成のためにかかる時間を考慮すればかなりメリットがでてきます。

経営のスピードアップ

 世の中がものすごいスピードで変化する中で、必要な経営資源を調達する時間を節約できることはアウトソーシングの大きなメリットです。自社で人材を養成したり、研究開発を行って技術やノウハウを習得してからといっている間に、他社にリードを許してしまっては挽回(ばんかい)ができなくなります。またアウトソーシングの強みは立ち上げ時のスピード経営だけでなく、方向転換を図る時にも速いアクションを可能とすることにあります。自社で設備を抱えたり、人材を確保している場合、その事業からの撤退はどうしても躊躇(ちゅうちょ)してしまい、判断が遅れ勝ちになってしまうものです。

固定費の変動費化 

 例えば情報システムを例にとると、内部にハードウェアを保有した場合には、売上の伸びに応じて取引量が増え、2~3年でハードウェアの増強が必要となります。それに伴いコンピュータ室の設備費用やソフトウェアのバージョンアップ、通信回線費用などが売上対比で固定費として増加する傾向にあります。アウソソーシングの場合には、取引量1単位当りの支払い方式とすることで、固定費の変動費化が可能となります。

 

(2)デメリット

社内における専門性の欠如

 アウトソーシングのデメリットとして最も引き合いに出されるのが、社内における専門性の欠如です。そのため長期的にみるとアウトソーシングは組織の破壊につながる可能性まで含んでいます。アウトソーシングをしたからといって、業務を切り離した後はアウトソーサ任せというのではなく、常にアウトソーシングの仕事内容を把握している専門人材を、社内で育成することを心掛けることで、専門性の欠如や機密漏洩のデメリットを限りなく低くすることができます。

機密漏洩

 アウトソーシングすることで社内の機密やノウハウが外部に流出するリスクがあります。外部を活用するメリットの裏返しとしてリ...

 

【アウトソーシング、連載目次】

1. アウトソーシングの背景

 アウトソーシングとは外部の資源を活用し、コスト削減と本業への集中を可能とする仕組みのことです。その実態は業務委託として昔から行われてきたことであるにもかかわらず、アウトソーシングが今日脚光を浴びているのは、経営環境の変化でアウトソーシングが競争力強化の手段として、積極的な意義を持つようになってきているからです。

 すなわち、アウトソーシングが従来持っていた単なる業務の一部代行(請負)ではなく、戦略的な視点が加わりました。市場が安定的に成長し、需要が生産能力を上回る経営環境においては、何でも業務を自社内に抱え込むインソーシング(資源の内部化)が有効でした。戦後中小企業が大企業に成長した多くの事例は、多角化しインソーシングによって発展したといえます。

 しかし、市場が成長し不確実性の高い経営環境のもとでは、インソーシングは必ずしも有効といえなくなってきました。日本では、リーマン危機後景気低迷下で経営のリストラ策として、着実に増加しました。市場の成熟化、過剰生産能力、新興国の成長といった不確実性の高く変化の激しい経営環境のもとで企業が生き残るためには、俊敏性と機動性が重視されるようになり、アウトソーシングへと転換していったのです。

 例えば工場を持つとすると、そこには稼働率を高めるという至上命題が常に付きまとい、経営の自由度が成約されます。そこで外部の経営資源を活用することにより、活路を見出そうとするのです。

 要するに、企業がこれまで自社で保有することがあたり前としていた業務の一貫主義は崩壊しつつあり「餅は餅屋」にという諺(ことわざ)のように、自社のコアコンピタンスに特化し、他は外部資源に依存するという方向が強まっているのです。またこのようにアウトソーシングが進むのは、単に委託企業のニーズがあるからではなく「サービス経済化」が進み、それを担うことのできる受託企業が増えたことも見逃すことはできません。

2. メリットとデメリット

 アウトソーシングはコストを削減し、経営の機動性を高める上で大きな意義がありますが、その一方で専門性の欠如や機密漏洩(ろうえい)、従業員のモラール維持などへの対策が不可欠です。メリットを最大化し、デメリットを最小化する取り組みの検討が不可欠です。

(1)メリット

コスト削減

 専門性が高く信頼できる受託先にまかせることにより経費削減が図れます。業務の委託先のことを一般にアウトソーサと呼びます。特に人件費を中心とした固定費の削減メリットは顕著です。正社員の人件費は法定福利費や一時金等を含めると所定内給与の1.5倍程度かかるのが通常です。アウトソーサを活用することで、同じ業務を行う正社員と比較して固定費が削減できます。また、短期間の業務を正社員に代わりアウトソーサに任せることで、人件費を変動費化でき、その分経費を削減できます。

専門的知識の活用

 多くの場合、アウトソーサにまかせる方が自社の従業員でやるよりもサービスの品質が高いものです。アウトソーサはまさにその道のプロであり、業務品質の高さこそが売り物であるからです。業務品質の向上が実現できないアウトソーシングは単に業務を外部に出しただけであり、外注にすぎません。
 中小企業においては人材が質量ともに不足していることが恒常化していますが、業務品質の向上を狙ってアウトソーシングを活用することは、教育費や育成のためにかかる時間を考慮すればかなりメリットがでてきます。

経営のスピードアップ

 世の中がものすごいスピードで変化する中で、必要な経営資源を調達する時間を節約できることはアウトソーシングの大きなメリットです。自社で人材を養成したり、研究開発を行って技術やノウハウを習得してからといっている間に、他社にリードを許してしまっては挽回(ばんかい)ができなくなります。またアウトソーシングの強みは立ち上げ時のスピード経営だけでなく、方向転換を図る時にも速いアクションを可能とすることにあります。自社で設備を抱えたり、人材を確保している場合、その事業からの撤退はどうしても躊躇(ちゅうちょ)してしまい、判断が遅れ勝ちになってしまうものです。

固定費の変動費化 

 例えば情報システムを例にとると、内部にハードウェアを保有した場合には、売上の伸びに応じて取引量が増え、2~3年でハードウェアの増強が必要となります。それに伴いコンピュータ室の設備費用やソフトウェアのバージョンアップ、通信回線費用などが売上対比で固定費として増加する傾向にあります。アウソソーシングの場合には、取引量1単位当りの支払い方式とすることで、固定費の変動費化が可能となります。

 

(2)デメリット

社内における専門性の欠如

 アウトソーシングのデメリットとして最も引き合いに出されるのが、社内における専門性の欠如です。そのため長期的にみるとアウトソーシングは組織の破壊につながる可能性まで含んでいます。アウトソーシングをしたからといって、業務を切り離した後はアウトソーサ任せというのではなく、常にアウトソーシングの仕事内容を把握している専門人材を、社内で育成することを心掛けることで、専門性の欠如や機密漏洩のデメリットを限りなく低くすることができます。

機密漏洩

 アウトソーシングすることで社内の機密やノウハウが外部に流出するリスクがあります。外部を活用するメリットの裏返しとしてリスクテーキングしなければならない事項です。アウトソーサと契約する際に機密保持を明記し、万一のために損害賠償条項を入れる等のリスク回避が必要です。それ以前に優良な信頼できるアウトソーサの開拓が重要となります。

従業員のモラール低下

 アウトソーシングをする部門では人事異動やリストラが伴います。社内の雰囲気が悪化したり、モラールの低下を招き兼ねません。これを防ぐためには、アウトソーシングを導入する際、会社の戦略と到達するゴールを明確にし、なぜアウトソーシングを実施するのかについて理解と意識改革に努めなければなりません。

 

(3)規模によるメリット・デメリット

 以上、説明してきたアウトソーシングのメリットとデメリットは基本的に企業規模による格差はありません。むしろ中小企業こそアウトソーシングを積極的に活用し、本業に経営資源の集中投下を図るべきです。というのは、中小企業では特定の業務が特定の従業員により処理されているため、ルーティン業務でも標準化されていないことが多く、業務の生産性を落としている原因となっているケースをよく見かけます。
 このような意味から中小企業のアウトソーシングは、業務の標準化・水準の向上・革新といった観点からも積極的に進めるべきです。

 

 ※次回はアウトソーシングの実行手順について解説します。

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この記事の著者

林 隆男

「ものづくり・人づくり・仕組みづくり」を指導理念として、これまでに100社以上の中小製造業を指導して来ました。業界特性を熟知して経験豊富なコンサルタントが指導に当たります。

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