世界一の品質はなぜ生まれたか 中小製造業の課題と解決への道筋(その1)

 

【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】

 

 製造業の置かれた現在の環境下、現場改革は必須です。「働き方改革」の真の目的は何か? 若手社員の力を100%引き出すにはどうすべきか?それらを日本の製造業の大半を占める中小製造業の目線で考えてみます。

◆関連解説『事業戦略とは』

 企業組織の中で、なぜ若手社員は消極的なのか? 彼らが100%のパワーを出し切れば企業はもっと成長し、若手社員自身も成長すると考えている経営者は多いはずです。市場は成熟し、少子高齢化が進む中、日本の製造業は飛躍的な売り上げ増加が望めません。その中で利益を確保していくには、生産性向上を図っていく以外に方法はないと考えられます。今こそ働き方改革は企業にとって取り組まねばならない最重要テーマとなっていますが、企業の改革は進まず、最近は不祥事も多発しています。

 働き方改革とは、長時間労働の問題を解決するため、残業時間を減らすことだけに注目が集まっていますが、真の目的は、ルーチン業務をロボットなどに置き換え、人は付加価値の高い仕事にシフトし、新しい製品やサービスを創造していくことで、企業に永続的な利益をもたらし、また社員の働き方をも変えていこうというものです。

 当然ムダな残業は減らさなくてはいけませんが、その中で働き方に工夫を凝らし、やりがいを見出すことや、仕事を離れた余暇の過ごし方なども見直すことが、本当は求められているのだと思います。

 以降の章では現在の日本の製造業の停滞、多発している品質問題、そしてそれを取り巻く人、組織、マネジメントなど、今何が課題なのか? 特に中小製造業の目線でどのように解決していけば良いのか?について、その方向性を探っていきたいと思います。

第1章 時代の変化に取り残された「組織とマネジメント」

第1節 世界一の品質はなぜ生まれたか?

 アメリカから導入された統計的品質管理、そして日本で生まれた「QC七つ道具」、「なぜなぜ分析」など製造現場へ取り入れられましたが、それだけでは世界一の品質は実現できません。先人が長年に渡り築き上げ、ものづくりを支えてきた職人技によるところが大きいのです。

1、アメリカ流・品質管理の導入

 工業製品は、職人の持っている技術が高いだけでは、本当に良い製品になりません。第二次大戦中、ゼロ戦や戦艦大和などの優秀さがクローズアップされていますが、工業製品としてみた場合の品質は、アメリカの足元にも及ばなかったとされています。

 特に、圧倒的な物量を戦地に補給しなければならない銃や弾薬などは、職人技は不要で、とにかく同一規格で同じものを作れば良い訳です。一個一個丁寧に作っても、補給が間に合わなければ何の意味もありません。日本の職人技の仕事は複数の製品の互換性には関心が払われていなかったため、旧日本軍が使用していた機銃の弾は微妙に口径が違うとか、口径が同じでも薬莢(やっきょう)の長さが違うという状況が生じていました。

 補給された弾丸が山ほどあるのに、銃に合わないために使えないという問題は、装備の互換性が不可欠という、大量生産にとって基本的な考えが欠如した職人的な手工業の考え方が逆に弱みとなって出てしまった面があると考えられます。

 第二次世界大戦後、日本の製造業はアメリカの統計学者であるデミング博士から、工業製品の大量生産を前提とした品質管理の考え方を学ぶことになります。復興が進み、これからものづくりを本格的に進めようとした時、日本の経営者らは、アメリカ製の自動車や機械の優秀さに驚き「どうしたらアメリカに追いつけるだろうか」と、途方に暮れていましたが、そこへ、ちょうどデミング博士が現れたのです。

 デミング博士は、1950年から日本の経営者に品質管理の考え方や統計的手法を伝え、その教えをよく理解し実行した日本の経営者や技術者のおかげで、その後の日本製品の飛躍的な品質の向上が図られました。博士が日本に興味を持ち、熱心に教えたのには訳があったのです。それは、日本の企業では一般の労働者までが、統計手法の理解に必要な基礎学力を持っていること、またトップから現場まで全員が同じ目標に向かって一丸となって努力している姿を見て、非常に好感を持ったと伝えられています。

 デミング博士の教えの代表的なものは、次のようなものです。

 デミング博士の教えを改めて見ると、現在にも十分通じる普遍的な経営マネジメントの考え方を示していることが分かります。しかし当時の企業では、特に現場の管理手法として、統計手法、抜取検査法などが導入され、品質管理の基本として位置づけられてきました。

2、模倣で終わることなく、独自の技術として磨き上げる

 元トヨタ副社長の大野耐一氏の著書である『トヨタ生産方式 ― 脱規模の経営をめざして―』は1978年に出版されてから今も版を重ねており、工場管理者のバイブル的存在となっています。トヨタ生産方式はジャスト・イン・タイム生産、自働化、七つのムダの削減、カンバン方式などで知られ、アメリカから学んだ品質管理の考え方と、トヨタを中心とした日本式の現場主体の管理方式がうまく融合し、トヨタ生産方式の工場で作られた車は、アメリカの三大自動車メーカーをしり目に、その価格や品質の面で認められ、世界中に輸出されることになったのです。

 遡ること1956年、大野氏はアメリカに渡ってGMやフォードの工場を訪れました。彼が新たにヒントを得たのは実は、日本にはまだなかったスーパーマーケットの顧客が必要とする品物を、必要な時に必要なだけ入手することができるという仕組みです。これを生産工程に応用しようと考え、ジャスト・イン・タイム方式、カンバン方式が実現したというわけです。アメリカから学び、それを進化させ日本のものづくりに応用し、またそれをアメリカ人が持ち帰って研究し、理論体系化するという戦後70年の相互の繰り返しの歴史的経緯をたどると、興味深い事実が浮かび上がってきます。

 ここまでの経緯を考えてみると、製造業の発展を支えてきたものはアメリカから導入された品質管理の効果だけではなく、現場の労働者の日夜を問わず、熱心に取り組んだ現場の品...

質改善の取り組みが大きな影響を与えていたことが理解できると思います。日本人は新しい技術に接すると必ずそれを自らのものにしてしまうだけでなく、それに独自の工夫を加えてさらに新しい一段上の技術に磨き上げていく能力を持った世界でもまれな民族といえます。

【コラム】

 現場の工夫・・・「からくり」について

 からくりとは、日本の古い時代で独自の発展を遂げた機械的仕組みを指します。17世紀頃から西洋から輸入された機械時計の歯車やカムなどの技術を使って人形を動かす装置として応用したからくり人形が作られ始めました。からくりが文化的に開花したのは江戸時代で、その独自性によって国際的にも注目されていいます。

(フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)https://ja.wikipedia.org/wiki/からくり)

 近年のものづくりの現場でも「からくり」の考え方を応用して、モノの重力やテコの原理、ゼンマイ、カム、滑車の原理などを巧妙に利用し「からくりによる改善」が行われています。こうした改善は 製造現場で抱える品質改善や段取り作業の効率化など日常の問題を自らの創意工夫で解決しようとする活動です。モータ、センサーのような制御機器、ソフトウエアは全く使用しないのが特徴で、 低コストで省エネにも貢献するという効果も期待できます。

 「シンプル」、「手づくり」、「ローコスト」。驚くほど単純なメカニズムで、品質や作業性、故障などといった製造現場に山積する多くの問題を解決できることから、現在では、からくりによる改善は、アジア各国でも普及活動が盛んにおこなわれています。

 次回は、第2節 最近の品質問題 根っこは同じ企業の体質。から解説します。

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