過去のデータの扱い方とは データ分析講座(その2)

 ◆ 過去のデータを紐解けるようになると、預言者になる不思議

 「データから分かるのって、過去のこと。知りたいのは、これからどうすべきかをなんだ」素朴な疑問として、このようなことをたまに言われます。確かに、データは過去に起こったことを記録したに過ぎません。データから直接わかるのは、過去のことです。

1. データで過去を右往左往して落ち込む

 データ分析初心者が、陥りやすい罠があります。一所懸命、データで過去を見える化し、そして右往左往して嫌になるという罠です。

 最初のうちは、色々な集計をしまくります。「わたしは分析者だ。よぉーし、分析するぞ」と意気込んでも、最初の内は単純な集計をするだけ。単純な集計だけでは、分析した気分にはなれません。誰でも出来そうな気がするからです。特別な何かが何もない。そして、集計結果だけを見ても、過去しか分かりません。過去のことを一所懸命ほじくっているだけです。いつまでも反省し、前に進めない人のような錯覚に陥ります。「全然前向きでない。 ずーっと、後ろ向き。もぉ嫌だ」となる人も多いです。

 わたしも同じような罠にはまった時期があります。はじめてデータ分析を本格的にしたのは、大学卒業後です。就職し配属された部署が、データ分析をする部署でした。幸いにも、わたしの配属されたデータ分析の部署は、長い伝統を誇っていました。終戦前からある組織です。そのため、上は50代の大先輩から下は20代の年齢の近い先輩まで、困ったときに相談する相手には不自由しませんでした。さらに、分析者が成長するための教育やトレーニングなどが用意されていました。

 多くの組織には、長い伝統を誇る分析組織はありません。しかし、長い伝統を誇る分析組織があろうがなかろうが、結局のところデータ分析初心者は、データで過去を右往左往するという罠に陥ります。避けられないことなのです。そして、データで過去を右往左往することは、データ分析を実務で活かせるようになるために、避けてはいけないことでもあります。つまり、データで過去を右往左往することは、分析者が成長する上で必要なことです。分析者だけでなく、組織全体で一度はデータで過去を右往左往する必要があります。

 残念なことに、データで過去を右往左往すると多くの人は落ち込み、そしてデータ分析を嫌悪するような人も出てきます。そして組織単位で嫌悪するのがもっと残念です。この先のもっともデータ分析活用でおいしい、未来に向けた「これからどうすべきか」のためのデータ分析活用に進めないからです。

2. どうせなら、データで未来を右往左往したいと強く願った

 どれだけ過去をデータで評価し続ければよいのか。たまには未来に向かった分析をしたい。

 冷静になれば分かります。データは過去の記録であり、未来の記録ではありません。データをいくら分析しても、過去の記録を色々な視点で掘り返しているだけです。どうせなら、「データで未来を右往左往したい」とデータ分析初心者のころ、わたしは強く願い、「未来に向かった分析はできないかもしれない」と何度も絶望しました。しかし、組織内の諸先輩方は、未来に向かった分析をしているのです。

 過去を振り返って未来に向かって動かない組織が、意味もなく長く存在し続けることはありません。わたしの配属されたデータ分析の部署は、常に未来に向かった分析をしていればこそ、必要性が認められ存在し続けたのです。そうなんです。データ分析って「未来のため」にするんです。データで過去を振り返っても、次に活かすために分析します。

 「ここがダメ、あそこがダメ」という分析結果が出れば、「じゃぁ、どうすればよいのか?」をデータ分析で考え、「じゃぁ、こうしよう!」と、これから何をすべきかを意思決定するためにデータ分析をします。

 例えば、データ分析でいくら売れない原因を究明しても、その対策案をださないと意味はありません。原因は過去のことですが、対策案は未来のことです。しかし、そもそも過去のことである売れない原因を知らなければ、未来に実施する対策案もだしようもない。データで過去を右往左往するぐらいでないと、売れない原因は恐らくクッキリとは見えてきません。そして、過去のデータで、過去のことで右往左往していると、だんだん未来が見えてきたりします。過去の延長線上で見える未来が……。

 そして、そんなこんなでデータで過去を右往左往しているとき、データ分析初心者だったわたしには、次のステージが用意されていました。データで未来を右往左往するステージです。

3. データで未来を右往左往するための、ちょっとしたテクニック

 シミュレーションと言います。データで未来を右往左往するためのテクニックです。コンピュータを使いますが、なくてもできます。ないと面倒ですが……。

 シミュレーションするためには、シミュレーションするための数理モデルが必要になります。統計学や機械学習のモデルです。簡単な統計学や機械学習のモデルで十分でしょう。複雑で難しければよいというものでもありません。例えば、チラシに配布枚数と売上の統計モデルです。簡単に作れます。以下の図を使えば(実際は数式に当てはめて計算)、チラシ配布枚数を倍にしたらどうなりそうか、チラシ配布枚数を半分にしらたどうなりそうか、がシミュレーションできます。


4. 過去よりも未来を右往左往するのは難しい

 シミュレーションは、データで未来を右往左往するためのツールです。実は、データで過去を右往左往するよりも数段難しい。あれやこれや考えるからです。過去はすでに起こったことですが、未来はこれから起こることだからです。

 過去のことをああだこうだと言うのは、何が起こったのか分かっているので考えやすい。未来のことをああだこうだと言うのは、何も起こっていないので考えにくい。妄想力が必要になります。かっこよく言えばインスピレーション。

 未来を考えるには、するどい洞察力やインスピレーションが必要になります。シミュレーションしながら未来を頭の中で描くのですから。

 つまり、データで過去を描けない人に、データで未来を描くことは到底むりなのです。データで過去を描けるようになるステージから、データで未来を描けるステージへ行くには、ある程度の経験とセンスが必要なのかもしれません。そして、データで未来を描けるステージへいったデータ分析者は預言者になります。

 データをじっくり見て分析する前に、未来をある程度読めるのです。青写真を描くとも言います。この青写真が、仮説です。この青写真が正しいかどうかを確かめるのが、仮説検証だったりします。仮説検証は、過去どうだったのか...

を見極めるよりも、未来を見極めるために行うのです。

 そして、データで未来を描ける者の描いた青写真は、データで検証してもほぼその通りになります。分析が始まる前からデータから導き出されるであろう結論である「これからどうすべきか」を知っています。つまり、預言者になってしまう。

5. 預言者になれるかもしれないと嬉しくなる

 上手に過去のデータを紐解けるようにならないと、データで未来を描くことはできません。上手に過去のデータを紐解けるようになったからと言って、データで未来を描けるようになるとは限りません。

 しかし、データ分析を真剣に集中力を切らさずやり続けいると、洞察力とインスピレーションが鍛えられ、あたかも預言者のようになれるようです。大学卒業に配属されたわたしの部署では、ある程度の経験を積んだ者は、ほぼデータで未来を描いているように見えました。

 そんなわたしも、あるときを境に、何となくデータで未来を描いているようになった気がします。預言者になれるかもしれないと嬉しくなったと、一人で小躍りしました。とは言っても、確証を得られていません。少なくとも分析する前に「これからどうすべきか」の結論が頭に思い浮かぶようになっていました。レベルがまだまだ低いので精進が必要ですが……。

 1つ言えることは、先ずはデータで過去と右往左往し、次にデータで未来を右往左往していると、分析前に青写真を描けるようになり、あたかも預言者のように、おそらく誰でもなれるということです。

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